Yahoo!ニュース

女子バレーボール選手の「死の真相」に揺れる韓国Vリーグ、沈痛な開幕

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真はイメージです)(写真:アフロ)

韓国プロバレーボールリーグのVリーグが、新シーズンに向けて動き出した。

例年同様、リーグ戦前の前哨戦的な意味合いが強いKOVO(韓国バレーボール連盟)カップが先週から開幕。8月22日から男子部のKOVOカップが始まり、8月30日からは女子部のKOVOカップが行われる。

特に女子部は今季から“韓国女子バレー界の女帝”にしてスーパーエースであるキム・ヨンギョンが、古巣の興国生命ピンクスパイダーズで11年ぶりに国内復帰しているだけに注目度も大きい。

韓国Vリーグでプレーした選手が遺体で発見

ただ、待ちに待った開幕ではあるが、韓国女子バレー界には重く沈痛な空気が漂う。というのも8月1日、現代建設ヒルステートに所属したコ・ユミンが自ら命を絶ってこの世を去っていたことが明らかになったのだ。

コ・ユミンは韓国代表歴こそないものの、高校時代には全国大会優勝も経験した有望株だった。

大学には進まず、2013-2014年Vリーグ・ドラフトの1巡目4位で現代建設ヒルステート入り。主にバックアップ・メンバーだったが、通算154試合に出場して193得点を記録した。

ただ、今年3月にはチームを離脱。任意引退(韓国では「任意脱退」という)選手扱いとなり、一人暮らしをしていた。その後、音信不通状態が続いたことを心配した元チームメイトが彼女の自宅を訪れたことで遺体が発見された。

(参考記事:バレーボールVリーグの女子選手が遺体で発見…不振と悪質コメントでストレスか)

当初は悪質ネット書き込みが原因とも…

まだ25歳と若く、今年3月までVリーグでプレーしていた選手の突然の死の知らせは衝撃的で、キム・ヨンギョンも自身のSNSに「RIP(Rest In Peace、故人の冥福を祈り)」と追悼を表したほどだが、さらにショッキングだったのは警察の捜査で発見された彼女の日記だった。

そこにはコーチングスタッフとの葛藤や悪質なコメントに苦しんでいたことが記されていたという。2013年から現代建設ヒルステートに所属したコ・ユミンは主にレフトでプレーしていたが、一昨年のシーズン途中からチーム事情でリベロに転向し、思い通りの活躍ができず、一部の心ないファンがネットに書き込んでいた悪質コメントに苦しんでいたのだ。

この事実が明らかになると、韓国の大手ポータルサイト『NAVER(ネイバー)』も事態を深刻視。別名“指殺人”と言われるネット上での悪質コメント問題は韓国でもしばし問題となり、昨年亡くなった元f(x)の故ソルリ、元KARAの故ク・ハラの悲劇的な事件を受けて、芸能ニュースではすでにコメント機能が廃止されていたが、スポーツ記事でもコメント機能が暫定的に廃止されることになった。

遺族とチーム側で食い違う主張。真実は…

だが、彼女を追い詰めていたのは、悪質コメントだけではなかった。故人のパソコン内に遺書らしきものがあったことが明らかになり、そこに記されていたのは監督やコーチ陣からのいじめに苦しんでいた事実だった。

これを受けて8月20日にはコ・ユミンの母親が弁護士とともに国会議員会館で会見を開き、「娘は監督やコーチ陣、同僚から無視され、いじめられ、仲間外れにされていた」「本人はトレードを希望したがチーム側はそれを認めず、任意引退扱いにして移籍の自由を奪い縛りつけていた」として、自殺の原因は現代建設ヒルステートのコーチ陣とチームにあったと訴えた。

ところが、この会見直後に現代建設ヒルステート側がプレスリリースを通じて反論。その内容を要約すると、「独自調査の結果、いじめや仲間外れの事実は確認できなかった」「3月にチームを離れたのは選手のほうで、3月には双方合意のもと、契約解除となった」「任意脱退は手続き上のことで、6月中旬には本人の今後の進路について話し合ったが、バレーボールから離れる意志が固かった」と、遺族側とはまったく異なる主張をしたことでファンを騒然とさせているのだ。

「故コ・ユミン遺族VS現代建設の真実攻防」(『スポーツソウル』)

「女子バレー、コ・ユミンの死を巡って異なる主張、誤解と真実」(『SPOTV NEWS』)

「コ・ユミン死の攻防過熱、KOVOカップ前に悪材料降りかかった女子バレー」(『デイリーアン』

各種メディアで遺族側とチーム側の主張をそれぞれ検証しながら、今後の争点になりそうな問題をいくつか挙げているが、気になるのは故コ・ユミンの死について現代建設ヒルステートの選手たちが今のところ(8月22日現在)、沈黙を続けていることだ。

チーム側から発言を止められているのか、はたまた言えぬ事情があるのかは定かではないが、生前に故人とともにコートでプレーしたチームメイトたちが沈黙を続けていることがひっかかる。

そうしたモヤモヤ感を抱えたままで、新シーズンの開幕を迎えることになる韓国女子プロバレー。韓国では7月にもトライアスロン韓国代表だった女子選手がコーチ陣からのパワハラを苦に自らの命を絶ってしまっているが、そのような悲劇を二度と繰り返さないためにも韓国女子バレー界が真相究明に乗り出さなければならないと思うのだが…。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事