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「丸刈り」ソン・フンミンは軍隊でどんな生活を送ることになるのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ソン・フンミン(写真:ロイター/アフロ)

プレミアリーグのトッテナムに所属しサッカー韓国代表のキャプテンであるソン・フンミンのことが、ちょっとした話題になっている。

プレミアリーグは新型コロナウイルス拡散の影響でシーズン中断中にあり、カタール・ワールドカップ・アジア予選を含めた国際Aマッチも再開されていないが、先週から週末にかけてソン・フンミンの動向が韓国はもちろん、イギリスの複数のメディアで取り上げられたのは、彼が兵役に就いたからだ。

プレミアリーグが中断したことによって3月28日にイギリスから韓国に帰国していたソン・フンミンは、4月20日に韓国・最南端の島・済州道(チェジュド)の西帰浦(ソギポ)市に位置する韓国海兵隊・第9旅団91大隊の訓練所に入所。

ファンや地域住民はもちろん、メディアの取材もシャットアウトして極秘裏に入所したが、その翌日には軍人らしくかなり髪を短くして部隊服に身を包んだソン・フンミンの姿がネット上に出回り、大きな話題になった。

(参考記事:【写真】丸刈り頭のソン・フンミンが公開!! 訓練兵番号は139番)

アジア大会・金メダルで「体育要員」に

韓国はもちろん、世界にその名を轟かすサッカー界のスーパースターの意外な姿に驚いたファンも多かったのだろうが、そもそも韓国では成人男子に兵役義務がある。サッカー界のスーパースターだけではなく、政治家の息子や大財閥の御曹司であっても例外はない。

ただ、スポーツ選手の場合、オリンピックで金・銀・銅、アジア大会で金メダルを獲得すれば「体育要員」資格を得て、兵役免除の恩恵にあずかる。

2018年ジャカルタ・アジア大会にオーバーエイジ枠で参加したソン・フンミンや元ガンバ大阪のファン・ウィジョらは、チームが金メダルを獲得したことで、この「体育要員」の資格を得た。

といっても、完全に兵役義務から解放されるわけではなく、体育要員資格は新兵たちが受ける基礎軍事訓練と、自身の特技分野を生かしたボランティア活動・544時間を消化することが、兵役とみなされる制度だ。

ソン・フンミンが入所したのはこの基礎軍事訓練に参加するためだ。

ソン・フンミンのマネージメント会社関係者によると、本来は今季終了後の夏に訓練を受ける予定だったようだが、プレミアリーグが中断したことを受けて入所を前倒ししたという。海兵隊を選んだのは期間が陸軍よりも短いことも関係していたという。陸軍の場合、4週間だが、海兵隊は3週間で済むというのだ。

あのパク・チソンは射撃訓練で満点

ただ、陸軍であろうと海兵隊であろうとも新兵必須の「軍事訓練」というだけあって楽ではない。

内容としては、例えば制式訓練だ。これは一般人から軍人になるために、軍隊式の立ち方、座り方、歩き方などが叩き込まれる。

重たい銃を担ぎながら、上官の命令に従って何度も立ったり伏せたりを繰り返すこともあるそうで、韓国の友人に兵役の思い出話を聞くと、この基礎訓練期間が「とにかくつらい」と振り返る人が多い。

また、射撃の予備訓練や行軍などもある。

2002年ワールドカップでベスト16進出を果たした韓国代表のメンバーたちは特例的に兵役免除の資格を得ているが、2003年6月に陸軍訓練所で4週間の軍事基礎訓練を受けているパク・チソンは射撃訓練で満点を獲得し、所属する部隊で“射撃王”と呼ばれたという逸話もある。

ソン・フンミンが入所した海兵隊・第9旅団91大隊の訓練所は、戦前に日本軍が建設したもので、1950年から1953年にあった朝鮮戦争時代には多くの兵たちが訓練したとして韓国の登録文化財に指定された場所だという。

そんな歴史ある訓練所で、同世代の一般人たちと約3週間寝食をともにしながら、新兵教育を受けるソン・フンミン。すべての訓練の履修が終わると、訓練兵には二等兵の階級が与えられるが、二等兵ソン・フンミンはどんな敬礼ポーズで退所の挨拶をするだろうか。

サッカーとは異なる兵役エピソードの誕生も気になるところだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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