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日本の女子ゴルフと黄金世代の可能性に関するレジェンド朴セリの見解とは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
朴セリ(撮影:KANG MYUNG HO)

朴セリ独占インタビュー(4)

女子ゴルフ界のレジェンドと言える朴セリ。アメリカではアニカ・ソレンタム、カーリー・ウェブ、ロレーナ・オチョアらと同じ時代に活躍し、韓国では空前のゴルフ・ブームを巻き起こした。イ・ボミ、キム・ハヌルなども“韓国女子ゴルファー神セブン”に数えられる選手たちも、朴セリに多大な影響を受けたとしている。

そんな朴セリとの単独インタビューが実現した今回、どうしても聞きたかったのは彼女が抱く日本女子プロゴルフに関する印象だ。日本の女子ゴルフについて彼女が具体的に語った例が決して多くはないだけに、余計に気になった。

―現在はアメリカで多くの朴セリ・キッズたちが活躍しています。朴セリ・キッズだけではありません。アメリカのミシェル・ウィー、ニュージーランドのリディア・コ、オーストラリアのミンジー・リーなど韓国をルーツに持つ選手も増えました。彼女たちとは交流はありますか?

(参考記事:「実はあの美人プロもそうだった!!」世界で活躍する韓国系の女子ゴルファーたち

「もちろんです。現役時代もよく話をしましたし、現役を引退してからも連絡を取っています。彼女たちがLPGAの試合で韓国に来た時は一緒に過ごす時間も多くなります」

―日本の選手とはいかがでしょうか?

「アイ・ミヤザト(宮里藍)などアメリカでプレーした日本人選手は、よく知る間柄です。特に誰と親しかったかと問われれば、今はもう選手ではないですが(笑)、現在はJLPGAの会長をされている小林浩美さんですね。

私がアメリカでルーキーだった頃、すでにアメリカでプレーされていたのが小林浩美さんだったのですが、とても親切に接してくれました。当時は今ほどアメリカでプレーするアジア人選手は多くはなく、心細さもあったのですが、小林浩美さんは私を見るといつも笑顔で会釈してくれたんです。私も笑顔で返して。言葉が違って一緒に過ごす時間は多くなくても、どこかで互いに支え合っていた部分はあったと思います」

―同じアジア人選手として、ですね。

「ええ。私にとっては同じアジア人の日本選手の存在も助けになりました。、それに、例えば宮里藍選手は人柄も素晴らしいじゃないですか。いつも一生懸命で、性格も良く、ほかの選手たちともうまくやっていました。彼女のことは多くの選手が大好きでしたよね」

―小林浩美さんや宮里藍さんなど、アメリカで多くの日本人選手とともにプレーしましたが、日本の女子プロゴルフの実力についてはどんな印象を持っていますか?

「レベルは高いですよね。日本の選手は古くからアメリカに進出していますし、持続的にトップ・クラスを維持しています。日本の女子プロは全体的に、ショートゲームとパッティングがうまくて、それが日本選手の共通した長所だというイメージです。

ただ、アメリカには飛ばす選手が多く、それに比べると飛距離の面で苦戦している印象もあります。飛距離は日本人選手だけではなく、韓国を含めたアジア人選手の課題でもありますけどね」

―それでもアメリカでは韓国人選手たちは結果を出しています。日本人選手との違いがあるとすれば?

「何でしょうか…。あえて言えば、LPGAツアーに対する適応ではないでしょうか。現地に適応するという点において、日本人選手は苦戦しているように見えることが多々あります。この適応というのは技術や体力的なことではなく、精神的な要素、つまりメンタルの部分のことです。

例えば韓国人選手の場合、アメリカの生活に適応しようと必死で食らいつきます。言葉も風習も食文化もすべて、とにかく“わからないことは学んでやろう”という気持ちでぶつかります。答えは簡単。そうしなければ、生き残れないからです。生き残るために、なんでもするわけですね。そういうメンタルでツアー生活を送っている。

そういう面で言うと、アメリカにやってきた過去の日本人選手の場合は新しい文化と接することに対して、やや遠慮気味というか臆病になっているのかなぁという印象があります。英語ができない、食文化も合わない、移動も多い、距離も飛ばない。そういったストレスが重なるせいかもしれませんが、日本人選手も韓国人選手のように、もっとガツガツとふてぶてしくアメリカという国に食らいついても良いかもしれませんね。ただ、最近は日本人選手にもそういった強さを持つ選手が出でいるじゃないですか」

―誰のことですか?

「まだ19歳の…えーっと確か名前はナサ。そう、ナサ・ハタオカ(畑岡奈紗)。この前、彼女のゴルフを見ましたが、私がこれまで見てきた日本人選手とは明らかに違いました。実力も高いし、現地に適応しているようにも見えますし、何よりも彼女が持っているエネルギッシュなところがいい。体格は小さいですが、とてもパワフルでエネルギッシュ。個人的に、これからを期待していますし、注目している選手です」

―その畑岡選手を始め、近年、日本では1998年から1999年生まれの若手が頭角を現しています。“黄金世代”と言われています。韓国でも“ミレニアム世代”が台頭していますが、そういった若手の出現についてどう思いますか?

「とても良い現象ではないでしょうか。宮里藍選手の功績も大きいんでしょうね。何事もそうですが、第1世代で終わってしまえば、それはブームや一時の盛り上がりで終わってしまいます。極端な言い方ですが、第1世代で終われば歴史も終わってしまうわけです。

ただ、継続的に新しい可能性や若い選手が出てくることによって道は開かれ、さらに発展するための進むべき方向も見えてくるものじゃないですか。

韓国も私で終わらず、その後も続いた後輩たちが出てきた。彼女たちが今では子供たちが目指す夢になっています。日本も宮里藍選手に刺激を受けて出た芽が大きく育てば、その実に憧れて新しい芽がどこかで芽生えるはずです。そういう好循環の繰り返しが、女子ゴルフ全体を盛り上げると信じています」

*この記事は韓国スポーツ新聞『スポーツソウル』の協力で実現した独占インタビューであり、本稿掲載の許可を得ています。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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