Yahoo!ニュース

【独占】女子ゴルフの朴セリがイ・ボミら後輩たちに送る助言の中身

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
イ・ボミ(写真提供=KLPGA)

朴セリ独占インタビュー(3)

イ・ボミ、キム・ハヌル、申ジエ。現在、日本で活躍するこの3人にはふたつの共通点がある。ひとつはいずれも1988年生まれだということ。そして、もひとつは自他ともに認める“朴セリ・キッズ”であることだ。3人にはいずれも直接インタビューしたことがあるが、ゴルフを始めた頃にアメリカで大活躍していた朴セリから大きな刺激と影響を受けたと言っていた。

彼女たちだけではない。3人と同世代であるチェ・ナヨン、パク・インビ、ユ・ソンヨはもちろん、彼女たちよりも年下のキム・セヨン、チョン・インジ、パク・ソンヒョンら現在はLPGAで活躍する韓国人女子プロゴルファーたちにとっても朴セリは目標であり、憧れだ。ダニエル・カンなど韓国系アメリカ人たちも朴セリを慕っており、彼女も機会があれば後輩たちに助言やアドバイスをするという。

(参考記事:「実はあの美人プロもそうだった!!」世界で活躍する韓国系の女子ゴルファーたち

そんな後輩たちに朴セリはどんな助言やアドバイスをしているのだろうか。

―LPGAで活躍する韓国人選手や韓国系の選手たちにとっては“メンター的”な存在です。彼女たちにどんな助言やアドバイスをするのですか?

「“頑張れ”“ベストを尽くしなさい”といったようなことは一切言いません。私が言わなくても彼女たちは頑張っているし、ベストを尽くしていますから(笑)。ですから、あえてこう言います。“自分に対してケチになってはダメだよ”と」

―“自分にケチになるな”ですか? つまり、どういうこと?

「私は現役時代、それこそ全身全霊をゴルフに注ぎました。疲れて休みたかったり、どこか痛くても、我慢し続けた。調子も悪く疲弊しきっていたのに“私は大丈夫だ”と自分に言い聞かせていたんです。スランプに陥っても、“練習量が足りないからだ”と自分を休ませなかった。

ゴルフ以外のことで自分をリフレッシュさせたりリセットする術もわからなかったし、ゴルフだけを考えて生活していれば何とかなると錯覚して、自分を労ることができなかった。それでは選手として長続きしないんでね。自分の選手生活を振り返ると、そこにひとつの後悔のようなものがあるので、後輩たちには“自分にケチにならず、ときには自分を労ってね”と話します。

もう少しわかりやすく言うと、携帯電話を使い続けるためにはバッテリーの充電が必要じゃないですか。バッテリーの底がついたらフル充電しなきゃいけない。ですが、私はちょっと充電しては使っての繰り返しで、気が付くとバッテリーが底をつき、心身ともに疲弊してしまっていた。後輩たちにはそうした苦い経験をしてほしくないので、“自分にケチるな”と言っています」

―申ジエ、アン・ソンジュ、イ・ボミ、キム・ハヌルなどにはいかがですか。日本でも多くの“朴セリ・キッズ”たちが活躍しています。

「私のキッズたちなんてそんな大袈裟な‥(笑)。ですが、そういってくれて嬉しいですし、ありがたいです。私を見てゴルフを始めたという後輩たちが、アメリカや日本で活躍し、最近は彼女たちが今のジュニアたちの目標になったり、憧れになっているわけじゃないですか。

―ただ、イ・ボミやキム・ハヌルは昨年あたりから優勝争いから遠ざかっています。何か助言やアドバイスするなら?

「ふたりに限らず、女子ゴルフの場合、年齢を重ねることによって変わってくる何かがあります。いえいえ体力や技術的なことではなく、精神的な部分です。20代の前半や中盤過ぎぐらいまでは技術や経験値がアップして選手としてもっとも脂の乗った時期ですが、30代が迫って来る20代後半あたりから、いろいろなことを考えてしまうと思うんです」

―つまり?

「私も30代を迎える前後に勝てずにスランプに陥った時期もありました。20代まではゴルフのことだけ考えれば良かったですが、人生や未来についても考えるようになる。“自分のこれからの人生に何が必要なのか、何がしたいのか”とか、“これからゴルフとどう向き合うべきか”など、いろいろと考えてしまう。直接話していないので言い切れませんが、私の経験からしてふたりも今、それらを頭の中で整理する過程なのではないかと思います」

―ゴルフはメンタルスポーツなので、そういった精神面のアップダウンが成績にも出てしまっているかもしれないということですね。

「ただ、あと1〜2年すればおのずと考えも整理できるようになるはずです。今はあれこれいろんなことを考えてしまうかもしれませんが、おのずと絞られ、“これからこの方向でこうやって生きてこう”と固まるはずです。それまでの間、温かく見守ってあげてほしいですね」

朴セリ(撮影:KANG MYUNG HO)
朴セリ(撮影:KANG MYUNG HO)

―ただ、ファンはどうしても復活を期待してしまうし、選手たちもファンの声援に応えたい。それが焦りになって余計に考えてしまう悪循環もありますよね。

「そうですね。だから私が30代の壁にぶち当たった後輩たちにアドバイスしたいのは、“スマートに自己管理してみたら”ということです。例えば毎週試合に出場して自分を追い込むのではなく、出場は年に8〜10回にしたり、練習でも得意だったり自信があるものだけをピックアップして磨くとか。それくらいの精神的な余裕をもってツアー生活を送りながら、さっき言った自分を“再充電”させることも悪くないと思います。とにかく、ゴルフと人生のバランスを取ること。これがとても大切です」

*この記事は韓国スポーツ新聞『スポーツソウル』の協力で実現した独占インタビューであり、本稿掲載の許可を得ています。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事