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成人サイト遮断にアイドル外見規制?「検閲」とも批判される韓国政府の迷走ぶり

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
写真はイメージです。(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

韓国政府の迷走ぶりを浮き彫りにした“茶番劇”だ。韓国の行政機関のひとつである女性家族部のガイドラインのことだ。

韓国の女性家族部は2月12日、「性平等放送プログラム制作案内書」と題した放送ガイドラインを発表したが、1週間もしないうちにそのガイドラインを修正。2月19日に「不必要な混乱を招いた」として大幅に修正することを表明したのだ。

セクハラ告発が相次ぐ中で発表

事の経緯を説明しよう。そもそも女性家族部が示した「性平等放送プログラム制作案内書」は、韓国のテレビ番組で性の平等を実現するために、放送局と制作会社が守るべき指針を示したものだという。

韓国では昨年から「#Me Too」運動が盛り上がっており、芸能界でも告発が相次いでいる。最近は、WannaOneを輩出した『プロデュース101』にも出演していたとある男子アイドルグループ練習性が所属会社の女社長から受けたセクハラを告発したことも関心を集めていた。

(参考記事:「タッチが酷い」「手が重要部位に」アイドル練習生が女社長をセクハラ告訴した内容とは?

そうしたなかで「性平等放送プログラム制作案内書」が発表され、それは各放送局と番組制作会社に配布され、女性家族部ホームページにも掲載されたのだが、ガイドラインはK-POPアイドルの「外見規制」なのではないかという議論が巻き起こったのだ。

「外見の画一性が深刻だ」

問題になったのは、附則の部分だった。

「番組の多様な外見際限のための指針」と題された附則では、「音楽番組出演者たちの外見の画一性が深刻だ」とし、「大部分のアイドルグループの外見は、痩せ細った身体、白い肌、似たようなヘアスタイル、身体を露出した服装と似たメイクをしている」と主張。

「音楽番組の出演者はみんな双子?」と綴り、「似たような外見の出演者が過度な比率で出演しないようにしなければならない」と勧告した。

確かに言わんとすることは想像がつく。昨年年末に発表された「世界で最も美しい顔」ランキングにも大勢のK-POPガールズアイドルたちが選ばれていたが、ファンやK-POP愛好家たちならともかく、一般の人々からすると見分けがつかないかもしれない。

(参考記事:「世界で最も美しい顔100人」発表。韓国芸能界から選ばれた美女、一挙全公開!!【PHOTO】

ただ、このガイドラインは物議を醸し、「芸能人の外見も規制?…女性家族部“性平等ガイドライン”騒動」(『KBS』)、「“かわいいアイドルの比重を減らせ”女性家族部“文化検閲”騒動」(『朝鮮日報』)など、韓国メディアもこぞって報じた。

韓国政府は2月11日に「有害サイトへのアクセス遮断」を実施しているが、「インターネットに外見まで…韓国は“規制共和国”」(『ヘラルド経済』)と報じるメディアもあったほどだ。

もともと厳しい放送規制

そもそも韓国は、テレビ番組の放送規制が日本と比べてもかなり厳しい。

例えば、ガールズグループなどが扇情的なパフォーマンスを行うことも厳しく規制されている。“セクシーNO.1アイドル”とされるヒョナも、かつて注目された“骨盤ダンス”がR18指定になったことがあった。

また、ドラマや映画でも性的な表現や暴力シーンは規制されており、成人指定の“19禁ドラマ”なども多い。

(参考記事:過激化が止まらない? 韓国で“19禁ドラマ”が増加傾向にある理由

そのほか、番組内での露骨な企業宣伝や、飲酒を助長・美化するような内容なども制限されているが、放送通信審議委員会によれば、実際に昨年1年間で地上波3局とケーブルテレビ6局に対して行われた法的制裁は、9局合計で39件に上ったという。

行政指導まで含めると204件に上るというからその厳しさが伝わるだろう。

そんななかで今回、番組に出演する芸能人の“外見”までも規制される可能性が浮上したのだ。騒動になるのも無理はないだろう。

ある地上波のプロデューサーも、韓国メディアの取材に対し、「放送通信審議委員会のガイドラインも、一部は時代錯誤的という指摘が少なくなかったのに、女性家族部までこう出てくると、いったい何を基準にすればいいのか」と嘆いていた。

TWICEやBTSの後輩も登場したが…

そうした中で女性家族部は2月18日、「案内書は番組を制作・編成する際に考慮すべき事案を提案したもので、テレビ局と制作陣が自律的に反映すればよいため、規制や統制ではない」とコメント。強制力はないと主張したが、関係者の間では“事実上の規制”であるという見方が強まり、「国家による過剰な検閲だ」という不満と非難になった。

そうした猛反発を受けて、女性家族部は前述した通り、ガイドラインの修正を表明したわけだが、あるテレビ局の関係者のコメントも言っている。

「政府がこのようなガイドラインを発表すれば、作り手は意識しないわけにはいかない。自由な創作活動に制約が生じる。それは民主主義社会においてあってはならないことだ」

いずれにしても、韓国芸能界で議論を巻き起こした「性平等放送プログラム制作案内書」。

最近は“TWICEの妹グループ”や“BTS(防弾少年団)の弟グループ”も登場し、盛り上がりを見せている韓国アイドルシーンだが、この「外見規制」騒動がどんな影響を与えるか。修正撤回されたとはいえ、引き続き注視する必要がありそうだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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