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今や日本でも話題。韓国騒がす「82年生まれ、キム・ジヨン」の正体とは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:アフロ)

今年、韓国でひとつの話題を呼んだのは『82年生まれ、キム・ジヨン』だろう。字面だけ見ると、あたかも実在する人物のように聞こえるかもしれないが、実は韓国で大ベストセラーとなった小説のタイトルだ。

韓国の作家チョ・ナムジュ氏が2016年に発表したこの作品は、刊行から徐々に人気を集め、韓国文学界で10年ぶりに100万部を超えた“ミリオンセラー”となった。

小説の内容はギ・ド・モーパッサン著『女の一生』を、21世紀の韓国を舞台に置き換えたバージョンと言えば、わかりやすいかもしれない。

韓国で生まれた女性が生涯を通じて直面するあらゆる差別が淡々と描かれていて、「小説よりもルポルタージュに近い」という評価も受けている。20〜30代女性を中心に大きな共感と支持を得ただけでなく、社会現象まで引き起こした。

ただ、性差別というセンシティブな問題をテーマにしているだけに、本書をめぐって絶賛と酷評が激しく飛び交ったのも事実だ。

この作品がもっとも話題沸騰だった2017年は、韓国で“女性嫌悪(ミソジニー)”や“男女対立”が大きな社会問題として浮上した時期でもあって、読後の感想が女性と男性とで天と地ほどの差で分かれたりしたのだ。

(参考記事:韓国社会の素顔「女性嫌悪vs男性嫌悪」…とある暴行事件が男女間の激しい対立に)

例えばK-POPガールズグループRed Velvetのアイリーンだ。Red Velverは韓国はもちろん、日本でも人気があり、その中でもアイリーンは各種広告にも引っ張りだこになるほど好感度も高い。

(参考記事:韓国女性広告モデルで今、最も“ブランド価値”が高い芸能人は? 3位IU、2位アイリーン)

ところが、そのアイリーンが『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだと発言しただけで、、一部の男性ファンがそれを“フェミニスト宣言”と受け入れ、彼女のグッズを燃やす様子をネットに投稿する事件が起きている。

また、『82年生まれ、キム・ジヨン』の映画化が発表された時は、主人公役に抜擢された女優チョン・ユミのSNSに中傷コメントが寄せられたり、韓国大統領府の国民請願掲示板に映画化の中止を求める書き込みが掲載されたりした。

ただ、興味深いのは、そうして炎上が起こるたびに小説の売り上げが伸びたということだ。その理由が人々の好奇心であれ共感であれ、これほど社会に大きな影響を与えた事実だけでも一読の価値はあると言わざるを得ない。

ちなみに主人公の名前である「キム・ジヨン」は、1982年生まれの韓国女性にもっとも多い名前という。

(参考記事:女子高生アイドルも日本で有名な“悪名高き人物”と同じで苦悩…韓国の「同姓同名」事情)

より多くの女性が主人公に自分を重ね合わせられるようにしたい、という作家の想いあって付けられたそうだが、その想いは現実になったと言えるかもしれない。

しかも、この『82年生まれ、キム・ジヨン』は12月8日には斎藤真理子氏が翻訳を手掛けた日本語版が発売され、発売4日にして早くも3刷重版が決まるという反響を呼んでいるという。

重版を発表した出版元の筑摩書房は、公式ツイッターにて「こんなハイスピードの重版なかなかないです。感無量です。いま入手しにくくてすみません」とつぶやいていた。

このことは韓国メディアもこぞって報じており、「日本女性も同病相哀れむ…『82年生まれキム・ジヨン』日本の書店で人気」(『国民日報』)、「『82年生まれキム・ジヨン』がアマゾン・ジャパンのアジア文学部門1位」(『EDAILY』)との見出しを打って大きく取り上げている。

韓国は、東野圭吾の小説『ナミヤ雑貨店の奇蹟』がベストセラーとして数年間愛されるなど、依然として日本文学への関心が高い。映画化・ドラマ化された日本の小説も数知れない。

(参考記事:日本作品が原作の韓国映画、その“本当の評判”と成績表を一挙紹介)

それに比べて韓国文学への関心が低い日本で、『82年生まれ、キム・ジヨン』が話題になっているのは、嬉しいニュースだ。『82年生まれ、キム・ジヨン』が今後、多くの日本人読者に考えをめぐらせるような小説になってほしいと願う。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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