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『逃げ恥』から『探偵ナイトスクープ』まで放映する日本専門テレビ局が韓国にあった!!

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真=チャンネルW公式サイトより)

韓国には、地上波テレビとケーブル、有料チャンネルなどを合わせて計378のチャンネルが存在する(2016年調べ)。日本は計211チャンネル(同じく2016年調べ)というから、人口比を考えると韓国のチャンネル数は非常に多いと言えるだろう。

『過保護のカホコ』や『金曜★ロンドンハーツ』も

そのうちのひとつに、「チャンネルW(ダブリュー)」という名のテレビ局がある。2014年10月に開局した韓国唯一の“日本コンテンツ専門”ケーブルテレビ局で、日本の最新ドラマやバラエティ、ドキュメンタリー番組などの独占放映権を取得し、数多くの日本のコンテンツを韓国に紹介している放送局だ。

これまで同局で放送された番組のほんの一部を挙げてみると、ドラマ『孤独のグルメ』をはじめ『深夜食堂』『逃げるは恥だが役に立つ』『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』『過保護のカホコ』、バラエティ番組は『有吉反省会』『いきなり!黄金伝説。』『金曜★ロンドンハーツ』などがある。

『孤独のグルメ』は韓国出張編のエピソードも豊富だったこともあって大人気だったという。

ここ数年、日韓のリメイク交流が活発化していることと同時に、“生のまま”の日本コンテンツが数多く韓国のテレビ電波に乗っていたのだ。

まさに日本と韓国の仲介役を担う「チャンネルW」とは、どんなテレビ局なのだろうかそして、そこで働く人々が感じる日本コンテンツの魅力とは何か。それらを探るためにソウルの二村洞(イチョンドン)に本社を構える「チャンネルW」を訪ね、経営総括理事キム・ヒョンジュン氏に話を聞いた。

韓国ドラマの日本リメイク作品たちも放映

――社内に日本ドラマのポスターがたくさん飾られていて、それこそ“日本コンテンツ専門”という感じがします。チャンネルWでは、これまでさまざまな日本の番組を放送してきたと思いますが、そもそも番組選定の基準は何でしょうか。

「チャンネルWは“今日の日本を観る”ということをモットーに立ち上がったテレビ局でして、開局したばかりのころは日本の最新コンテンツを韓国でどこよりも早く発信することを目標として、日本とほぼリアルタイムに近い形でさまざまな番組を放送してきました。

ただ、同時放送は話題性こそあるものの、いざ放送が始まると視聴率がなかなか伸びない場合もあるんですよ。

これまで何度かそういう経験がありましたので、今は期待の最新作は抑えつつも、まだ韓国で放送されたことのない珠玉の名作を紹介することに方向性を変えました。韓国ドラマをリメイクした日本の『グッド・ドクター』も放送しています。

(参考記事:【2019年版】韓国でリメイクされた日本のドラマを一挙紹介。えっ、あのドラマまで!?

チャンネル内で放映する作品を選定する際は、日本での人気や作品性を考慮した上で、韓国でも十分受け入れられそうなコンテンツを最優先しています。

例えば、他局に取られてしまいましたが、綾瀬はるかさん主演の『義母と娘のブルース』などは設定がユニークで斬新でしたよね。

韓国にも義母が登場する物語は数えきれないほどたくさん存在しますが、あのドラマは新たな母子像を描いていましたし、元キャリアウーマンの言い回しが「とても勉強になる」という意見もあったようです。意外ですよね(笑)。

(参考記事:綾瀬はるか主演『義母と娘のブルース』、韓国では妙なところが注目されて面白い!!

あと、韓国ではリアルタイム視聴者よりもVOD配信サービスを利用する人が増えているため、VODサービスの許可を得られるコンテンツか否かということも重要な基準になりますね」

『トドメの接吻』の放映に大苦戦した理由

――番組を選定してから放映に至るまでの過程で、苦労されている部分はありますか。

「やはり、韓国と日本とでは放送番組の審査基準が違うところでしょうか。性・暴力などの表現において、韓国は日本よりずっと厳しいんです。その上、チャンネルWでは自主的審議も行っているので、問題のシーンが出てくれば社長を交えて緊急会議を開くこともあります。

韓国では通常、喫煙やナイフが出てくるシーンはかならずぼかし加工をしなければならず、自殺の描写や流血も避けなければなりません。

以前放送した山崎賢人さん主演ドラマ『トドメの接吻』の場合、主人公がキスして自ら命を絶つことで物語が進展しましたし、や流血のシーンも出てくるのですが、それがストーリー展開において絶対に必要でした。

当時、それらのシーンをカットすべきか否かをめぐって社内で検討に検討を重ねた覚えがあります」

(参考記事:韓国のテレビ関係者に聞いた、韓国で人気の「日本ドラマBEST 5」は?

――なるほど。そうすると、サスペンスや刑事モノとかは大変そうですね。

チャンネルWのキム・ヒョンジュン理事(著者撮影)
チャンネルWのキム・ヒョンジュン理事(著者撮影)

「ええ。ぼかし加工が必要なシーンが多くて、制作チームが苦労しますね(笑)。実は刑事モノだけでなく、『深夜食堂』のような穏やかなイメージの作品にも審議が必要な部分があったりするので、注意を払わなければいけません。

また、ぼかし加工もそうですが、字幕にもかなりの力を入れています。

実は制作チーム全員が日本語に堪能で、日本語と韓国語の学習者が翻訳のクロスチェックを行ない、読みやすい字幕の制作を目指しています。

特にメール・手紙の文章や、携帯の着信画面に表示される名前などはセリフの字幕と同じ表示方法ではなく、CG合成によって画面内に溶け込ませていますが、そのクオリティに関して視聴者からも大変好評をいただいており、そのことに関してはスタッフ全員がプライドを感じています」

『下町ロケット』の“ロケット品質・佃ブライド”ではないが、これぞ“チャンネルWプライド”というものがあるらしい。

では、そのチャンネルWでもっとも人気がある日本コンテンツは何か。言い換えれば、韓国の視聴者たちがもっとも好んでいる日本コンテンツは何か。次回はそれについて紹介したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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