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BTSと秋元康コラボ中止騒動に違和感。韓国で“右翼判定”されてしまう日本の芸能人たち

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
BTS(防弾少年団)(写真:ロイター/アフロ)

韓国はもちろん、今や世界中で絶大な人気を誇るK-POPボーイズグループのBTS(防弾少年団)。8月に発表したニューアルバム『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』も、アメリカのビルボードのアルバムチャートで1位に輝き、9月24日はニューヨークの国連本部で開かれたユニセフ(国際児童基金)の会合でスピーチするなど、その活動は多岐に渡り、影響力も計り知れない状況になっているが、最近、BTSの新曲を巡ってちょっとした騒動も起きている。

コラボ中止の背景に潜む違和感

11月に発売予定の日本版シングルに収録されるはずだった秋元康氏作詞の楽曲『bird』が、韓国ファンの反発もあって収録中止になってしまったのだ。

(参考記事:K-POPグループBTSと秋元康のコラボにファン激怒。「右翼と関わらせるな!!」)

このニュースは韓国と日本のメディアで大きく取り上げられた。両者のコラボレーションが中止になった背景を探る記事も多く出回った。さまざまな状況を考慮しつつ余波も勘案してコラボを中止したのだろうが、個人的に気になったのは韓国のネット世界で、秋元氏への誤解とバッシングが独り歩きしていることだ。

そのネット掲示板での情報を受けて、「防弾少年団ファンクラブ、日本の右翼プロデューサー秋元康氏とのコラボ批判」「防弾少年団、右翼論乱の秋元康プロデューサーとの協業中止」など、一部のメディアでも秋元氏は“極右の人”だと決めつけている状況なのだ。

韓国のネット空間で秋元氏のことが話題になるのは今回が初めてではない。

昨年11月に、グローバルガールズグループ結成を目的にした日韓アイドル選抜番組『プロデュース48』のプロジェクトを発表したときも賛否両論が起き、その論争は番組が終わったあとも続いた。

調べれば韓国への理解がわかるはず

ただ、今回は秋元氏のプロデューサーとしての手法やプロジェクトの可能性についてではなく、政治的スタンスが論争の的になった。左翼だろうが右翼だろうが日本では秋元氏の政治的スタンスが話題になることがほとんどないので、違和感を覚えたというのが正直なところだ。

気になって調べてみると、秋元氏が安倍首相と記念写真を撮ったり、安倍内閣が立ち上げたクールジャパン推進会議のメンバーに名を連ねていることが、韓国のネチズンたちの間で問題視されているらしい。

秋元氏がプロデュースするアイドルグループの一部メンバーが過去に靖国神社を訪れたり、旭日旗を連想させる衣装を身に着けていたことも槍玉に挙げられていた。

安倍政権と関係があるだけで“極右の人”と結論づけるのは早計な気もするし、プロデューサーとはいえ、今やAKB48グループだけでも総勢100人は超えるとされるメンバー全員の詳細な活動まで監督責任を問うのは少々無理があるのではないか。

しかも、韓国では「右翼」は「ナショナリズム」と同義語となり、さらに拡大解釈が働いて反韓・嫌韓層だというレッテルまで貼られてしまう。

そうした負のイメージが痛手になって今回のコラボが中止になってしまったようだが、秋元氏のこれまでの仕事をしっかり調べれば氏が決して韓国に否定的ではなく、むしろ好意的であることはすぐに気づくはずだ。

というのも、例えば秋元氏自らが原作・企画を担当し日本や韓国でもヒットしたホラー映画『着信アリ』シリーズの完結編となった『着信アリfinal』(2006年)の舞台は、韓国だった。

同作では、まだ日本はおろか韓国でも人気がブレイクする前のチャン・グンソクが起用されるなど、先見の明も発揮した。

個人的に忘れられないのは、2009年12月に東京ドームで行なわれた『韓流フォーカード』だ。

当時日本で人気絶頂だったチャン・ドンゴン、イ・ビョンホン、ソン・スンホン、ウォンビンといった韓流スターが一堂に集まり、ステージを舞台に一日限りの“夢の競演”が実現している。イベントには韓国恋愛映画の巨匠とされるホ・ジノ監督も映像監督として参加したのだが、その総合プロデュースを務めていたのが秋元氏だった。

筆者は通訳として企画段階から参加していたが、忙しい合間を縫って何度もソウルを訪れては俳優たちと個別ミーティングの席を設け、それぞれの特長や魅力を引き出そうと韓流スターひとりひとりと真摯に丁寧に向き合う秋元氏の姿勢には頭が下がった。韓国滞在中は東大門市場などで食べるB級グルメも好み、庶民とのふれあいや世間話を楽しむ姿に親近感も感じた。

今年になって、とあるミーティングの席で何度か席を一緒にしたが、南北首脳会談をはじめとする朝鮮半島情勢にも強い関心を示していた。そういう人柄を知っているからこそ、「木を見て森を見ようとしない」韓国の一部メディアや一部のファンたちが一方的に決めつけるレッテルには、違和感どころか失望感を覚えてしまう。

韓国で“右翼判定”されてしまった日本の芸能人

もっとも、韓国のネット・コミュニティで“右翼判定”がなされている日本の芸能人は多い。

例えば椎名林檎は楽曲『NIPPON』の歌詞とパフォーマンスによって韓国では右翼判定を受けているし、女優の蒼井優は『男たちの大和/YAMATO』、『俺は, 君のためにこそ死にいく』『明日の遺言』といった第二次世界大戦を時代背景にした映画の出演が多いだけで“右翼女優”に分類されていた。

人気モデルで女優の水原希子も、本人が公式に否定したにもかかわらず、今も“右翼芸能人”だと決めつけられている。

(参考記事:「右翼じゃなかったの?」ヘイト攻撃にさらされた水原希子に対する韓国人の反応は)

最近は著書や過去に出演したテレビ番組で韓国に否定的な発言をしているとして、突如として北野武・嫌韓論争も起きている。

『HANA-BI』や『菊次郎の夏』など映画監督・北野武の作品は韓国でも人気だったはずなのだが、最近アイドルグループIkonのメンバーであるJU-NEが北野武のファンであることを自身のSNSで公言しただけで問題を指摘され、それが原因で謝罪までせねばならなかった(JU-NEのファンに対する対応が軽率だったことも問題視された)。

日本でも領土問題や慰安婦問題に関して発言したり、反日描写がある映画やドラマに出演しただけで役者たちを“反日俳優”だと決めつけるが、韓国でも同じようなレッテル貼りが横行しているのだ。

たとえそれが一部であっても、選んだ作品や表現方法だけを理由に政治的思想やスタンスを決めつけ偏見の眼差しを向けるのは、見当違いだろう。

日韓合同アイドルユニットはどうなる?

いずれにしても、今回のコラボ中止騒動は韓国と日本のエンタメ交流に少ながらず影を落とした。

韓国では10月に前出した『プロデュース48』を通じて結成された日韓合同ユニット『IZ*ONE(アイズワン)』が、いよいよデビューし本格的な活動を始める。HKT48での活動を一時中断してアイズワンでの活動に専念する宮脇咲良などは、韓国ファンから絶大な支持を集めているとも聞く。

(参考記事:日韓合作ガールズグループ「IZ*ONE」の日本人メンバーら、AKB48活動休止へ)

韓国のネチズンたちは彼女たちや彼女たちを総合プロデュースする秋元氏に対して、依然として偏見の眼差しを向けるのだろうか。そうした偏見やレッテルに屈することなく、成功した日韓コラボレーションになることを強く期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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