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女子ゴルフ、美女チア、人気アナまで…セクハラ被害調査に着手する韓国プロスポーツ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
人気チアドルのパク・キリャン(写真提供=S-KOREA)

世界中で注目を集めている“Me Too(私も)運動”。韓国でもセクハラ・性的暴力被害を告発する「Me Too運動」が激化している。政界や文学界、芸能界などで勇気ある告発が続いているが、スポーツ界でも現場でセクハラ・性的暴力があるか調査されることになるという。

それも政府がその調査に直接乗り出す本腰の入れようだ。韓国の一般紙『韓国日報』が4月18日付けで報じたところによると、韓国の文化体育観光部(日本の文部科学省にあたる)が、韓国プロスポーツ協会(KPSA)に実態を調査するよう指示したという。

スポーツ団体だけではなくチアリーダーも調査対象

調査の対象となるのは、プロ野球のKBO(韓国野球機構)、Kリーグ(プロサッカー)、KBL(男子プロバスケ)、WKBL(女子プロバスケ)、KOVO(男女プロバレーボール)、KPGA(男子プロゴルフ)などのプロスポーツ団体。

イ・ボミ、キム・ハヌル、アン・シネなど多くの人気選手を輩出してきたKLPGA(韓国女子プロゴルフ)も調査の対象となる。KLPGAF毎年、KLPGA広報モデルを選定しツアーの宣伝や社会福祉活動を展開しているが、彼女たちがその啓蒙活動に参加することにもなるかもしれない。

(参考記事:ボミ、ハヌルも務めた「美女ゴルファーとスターの証」。今年の“KLPGA広報モデル”は誰?

これら団体とその傘下にある62のチームの役員、選手、コーチングスタッフなどが調査対象となるだけではなく、今回の調査では初めてチアリーダーや女性スポーツアナウンサーも調査対象となるという。

前出したように、プロ野球、プロサッカー、プロバスケにプロバレーボールまである“プロスポーツ大国”である韓国は、ほとんどのプロチーム(サッカーは少ない)が専属のチアリーダーたちを抱えている“チアリーダー大国”でもある。各種メディアが頻繁にランキング付けするほどだ。

(参考記事:【画像あり】美女ぞろい!! 韓国メディアが選ぶ2017年版“韓国チアリーダーBEST10”)

「私生活が乱れている」とデマ流された人気チアドル

チアリーダーたちがアイドル並みの人気と知名度を誇る“チアドル”も少なくなく、パク・キリャンなどは歌手デビューもしているほど。

ただ、そのパク・キリャンもかつて応援していたチームのプロ野球選手に「私生活が乱れている」というデマをSNSで流されるパワハラを受けたことがある。

パク・キリャン側は「許してはならない状況。これは個人の問題ではなくて、野球界で働く女性たちの問題だ」として、その選手と彼の元恋人を名誉棄損で訴えた。ふたりは罰金刑を言い渡されるが、チアリーダーたちが現場の裏側では弱い立場に立たされていることを示した事件だった。

女性スポーツアナウンサーたちも同様だ。韓国には “スポーツ女子アナ三大将”と呼ばれる美人トリオがいるほど、人気のスポーツ女子アナたちが多いが、彼女たちも苦労が絶えない。

バケツ水でズブ濡れになった人気女子アナ

有名なのは、男性誌『MAXIM KOREA』表紙完売伝説を持ち、そのルックスとキャリアから“韓国のカトパン”とも言える存在のチョン・イニョンだ。

彼女は2012年のプロ野球公式戦でその日のヒーローインタビューを担当している最中、チームメイトが殊勲選手にお祝いの意味を込めて放ったバケツ水を浴びてズブ濡れになった。

2013年にも同じ選手が故意にバケツ水を彼女に食らわせ、その仕打ちに怒った彼女の所属先テレビ局が、KBOと当該球団に対して「インタビューをボイコットする」としたほどだった。

昨年、チョン・イニョンをインタビューしたとき、この“ズブ濡れ”事件に苦笑いを浮かべていたが、プロスポーツの現場で彼女たちが被害を被っても、それを強く主張できないのが現実だろう。

(参考記事:“美女スポーツアナ”チョン・イニョンが語る「韓国女子アナたちのヒミツ」)

それだけにチアリーダーや女性スポーツアナも調査対象にして、彼女たちの声に耳を傾けることは評価できるが、年齢や置かれた立場によって暗黙の“主従関係”が成立しやすい韓国スポーツの現場では、女性選手やチアリーダー、女子アナたちが声を大にして何かを訴えるのはなかなか難しい環境にあるのも事実だ。

過去調査では16・1%が「性的暴力を経験」

韓国のプロスポーツ界の性的暴力調査は2007年にも行われており、そのときは文化体育観光部の依頼を受けた韓国女性政策研究院が、「女子選手の権益実態調査」の名目で行ったそうだが、それでも被害件数は多かった。

当時の報告書では、16種目2254名の女子選手中、16・1%が「性的暴力を受けた経験がある」と答えているのだ。

今年3月、平昌五輪にも出場したモーグル男子韓国代表のチェ・ジェウが悪質なセクハラ騒動を起こして韓国スキー協会から永久除名処分を受けたことは記憶に新しいところだが、韓国スポーツ界では女性たちへのパワハラ・セクハラが現実問題として今も起こっているのだ。

今回の調査について文化体育観光部は、「現時点で特定の事件があるわけではないが、6か月間、しっかりと調査して11月には報告書を発表する予定」としており、「並行して被害者の救済案も準備する」というが、果たして…。

いずれにしても、韓国プロスポーツ界にも“#Me Too”運動が起こるのだろうか。調査動向には今後も注目していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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