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小平&高木ら日本女子スピードスケート代表たちに韓国がかなり警戒心を強めているワケ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

平昌(ピョンチャン)五輪を目前に控え、俄然、注目を集めている日本の女子スピードスケート。昨日12月27日からは平昌五輪代表選考会が長野・エムウェーブで開幕し、女子500mでは小平奈緒が国内最高記録で優勝。3000mでは中距離のエース高木美帆が優勝した。

今回の代表選考会前から平昌行きがかなり有力視されていたふたりのことは、平昌五輪の開催国である韓国でも以前から大きく取り上げられている。

小平が12月10日にアメリカで行われたワールドカップで世界新記録を更新した際にも、「“もはや敵なし”小平、スピードスケート1000m世界新記録」(『聯合ニュースTV』)、「小平1000m世界新記録、日本の祭りとなったスピードスケート・ワールドカップ」(『中央日報』)、「日本のスケート女子団体追い抜きが世界新で優勝…平昌を控え“恐るべき歩み”」(『SBSニュース』)といった具合だった。

高木は韓国アイドルスケーターの敵役

『東亜日報』などは、「女子スピードスケート、時代は日本?」と見出しを打った記事で、小平や高木の成績を紹介しながら、日本の強さの秘訣を分析解説した専門家のインタビューを掲載しているほどである。

ただ、そこにあるのはライバルへの警戒心だ。

例えば高木美帆に対する視線。日本では世界新記録を更新し続けている団体追い抜きや今季ワールドカップ4連勝中の1500mの成績にスポットライトが当たっているが、韓国では平昌五輪で初めて採用されるマススタート種目がピックアップされることが少なくなく、なぜか「高木は目の上のこぶ」のような取り上げられ方が多い。

そこには、高木が今年2月の札幌冬季アジア大会で、同種目の世界ランキング1位で「アイドル顔負けの美貌」とも評されている キム・ボルムを破って金メダルに輝いたことも関係しているのだろう。

韓国は高木を一人の選手としてというよりは、“キム・ボルムの対抗馬”として高木に注目しているわけだ。

(参考記事:「アイドル顔負けの美貌」韓国女子スピードスケート選手キム・ボルムのSNSがスゴい!!)

女帝イ・サンファのライバルとされる小平

小平奈緒に対しては、さらに対抗心を燃やしている。

何しろ、女子500mで小平と勝負を繰り広げているのはイ・サンファだ。2010年のバンクーバー五輪、2014年のソチ五輪と2大会連続で女子500m種目の金メダルを獲得している彼女は、平昌五輪での3連覇が期待されており、国内メディアが発表した “平昌五輪メダル候補12人”にもその名が挙がっている。

2014年にはファッション誌でグラビアを披露して話題を呼んだこともあったが、メディアの間では、「韓国スピードスケートの看板選手」と修飾語を付けて報じられることも多く、いまなお国民的な人気を誇っている選手だ。

(参考記事:LEGOオタク!? グラビアも披露!? スピードスケート界の“氷上の女帝”イ・サンファの意外な素顔)

それだけに、「“イ・サンファのライバル”小平」(『edaily』)、「“イ・サンファVS小平”平昌で火花散る勝負」(『江原日報』)といったヘッドラインを置くメディアも珍しくはないのだ。

もっとも、イ・サンファは昨シーズンから一度も小平に勝てていないだけに、一部では諦めムードも漂っている。それだけ小平の実力が韓国で認められているということでもあるだろう。

(参考記事:「イ・サンファの“最高の対抗馬”」「もう追いつけない」小平奈緒を見つめる韓国の視点

韓国が日本スピードスケートに注目する理由

それにしてもなぜ、韓国はスピードスケート報道に力が入るのか。

そもそも韓国は、スピードスケートが強いことで知られてきた。

スピードスケート界で1980年代から頭角を現し始めた韓国は、2004年からは官民挙げて立ち上がり、あの“フィギュア女王”キム・ヨナも輩出することになる“バンクーバー・プロジェクト”をスタートさせ、2010年のバンクーバー五輪では、3選手が金メダルを獲得している。

それゆえ韓国でスピードスケートは、ショートトラック・スケートとともに、「国に孝行している」という意味を込めて“ヒョジャ(孝子)種目”と呼ばれているほどなのだ。11月17日に発行された平昌五輪の記念紙幣にも、スピードスケートの選手が描かれている。

こうしたプライドがあるからこそ、韓国は日本選手にも関心を寄せているのだろう。日本は、自国の“お家芸”における脅威として見られているわけだ。

平昌五輪の開幕が迫っているだけに、韓国が今後、ますます日本選手に関心を寄せることは間違いないだろう。ライバルを見つめる韓国の視線にも注目していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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