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英雄パク・チソンも気に掛ける「韓国サッカーが今、直面している問題」とは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
韓国代表ではキャプテンも務めたパク・チソン(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

現役時代は3度のワールドカップに出場し、Jリーグの京都パープルサンガ、オランダのPSVアイントホーフェン、イングランドの世界的名門マンチェスター・ユナイテッドでも大活躍したパク・チソン。

2014年5月に現役を引退し、ロンドンに拠点を構えながら“第二のサッカー人生”をスタートさせた彼の近況については、過去2回のインタビューで紹介した通りだ。

(参考記事:韓国の英雄パク・チソン氏インタビュー「日本サッカー」を大いに語る)

韓国の国民的英雄にして“生きるレジェンド”でもある彼が、引退後初めて日本メディアの単独インタビューに応じたことは韓国でも即座に伝わり、その記事は通信社、テレビ局ニュースサイト、一般紙、スポーツ新聞にネットメディアなど無数の韓国媒体で紹介された。

ためしにその数を調べてみたら「日本サッカー」について語った記事が12媒体、FIFAマスターコースという進路を選んだ記事に至っては27媒体もあったほどである。

無口だがやさしかった“原点”

改めてパク・チソンの韓国における影響力の大きさを実感させられたが、ロンドンはウインブルドンに位置するガーデンテラスでロングインタビューに応じてくれたパク・チソンは、そんな関心の大きさもどこ吹く風。至って自然体だった。

時間があれば一人娘とボール蹴り遊びをし、「最近はテニスも始めたんですよ。まだ初心者ですけど」と笑う。自分を誇張することも着飾ることもなかった。

振り返れば、パク・チソンはいつもそうだった。初めて取材したとき、彼はまだ19歳でU-22韓国代表の最年少。当時のU-22韓国代表はイ・トングッ、キム・ナミル、イ・ヨンビョなどスター選手揃いで、最年少のパク・チソンは練習後のあと片づけを黙々とこなしていた。

高校時代に一度、“失格”の烙印を押された選手であったことはその後にわかったが、2002年ワールドカップ前のアメリカ遠征での練習が終わると、いつも筆者との雑談に付き合ってくれる気のやさしい青年だった。

(参考記事:韓国サッカー界の生きた伝説パク・チソンの知られざる“意外な原点”)

ロンドンでの取材では当時の昔話でも盛り上がり、「互いに年を取りましたね」「変わらず童顔ですね」と冗談も言い合いながら笑いあったが、パク・チソンの表情が曇ったことがある。

代表チームの不振やヒディンク再登板説浮上で大混乱

パク・チソンがもっとも気を揉んでいたのは、韓国サッカーの現状でもある。

ロシア・ワードカップ出場こそ決めたものの最終予選では苦戦が続き、予選突破を決めたあとも代表チームはもちろん、韓国サッカー協会への不満の声も絶えない。9月にはフース・ヒディング監督の再登板を求める世論が高まり、ちょっとしたひと悶着もあった。

(参考記事:不振の韓国サッカー界で“ヒディンク再就任”騒動が国政監査にまで発展!? 炎上の背景とは)

そんな状況にかつて韓国代表でキャプテンも務めたパク・チソンが気を揉まないわけがない。

「韓国の選手の質や力量が以前と比べて落ちたとは思いません。ただ、ファンやサポーターたちから“以前に比べて闘志や意欲が物足りない”とずっと指摘され続けていることを看過してはならないでしょう。

そうした精神的な部分というものは、時代や世代の変化で変わることもありますが、韓国サッカーが本来持っていたストロングポイントが失われてしまったということは、問題だと思います。

すべてをこの目で見て把握しているわけではないので、どこに課題や問題があると具体的に言えなませんが、ファン、サポーター、メディアが韓国サッカーに失望している現状を、選手個々だけではなくチーム全体、いや僕を含めた韓国サッカー界全体が重く受け止め考えるべきだと思います」

信頼を失ってしまった韓国サッカー

筆者も同感だ。かれこれ20年近く韓国サッカーを取材しきたが、今の韓国サッカーは“何か”を見失っているように映る。

使命感に燃える選手たちが身を粉にして激しくプレーし、その熱さにファンやサポーターたちも無条件で支持する。ファンやサポーターたちがその熱を支持してくれるので、選手たちはさらに発奮する。プレーする側も見る側も同じ価値観を共有し信頼関係にあることが、韓国サッカーの強みであり最大の魅力のはずだが、その熱も愛着も冷めてしまっているように映る。

シン・テヨン監督になっても支持が上がらないのは、そうした根本的な乖離があるからではないだろうか。

(参考記事:“消防手(ソバンス)”シン・テヨン監督は、なぜ韓国で今一つ信用されないのか?)

「国民たちが韓国サッカーを信頼しなくなってしまったということが、個人的にもっとももどかしいです」とポツリと漏らしたパク・チソンの言葉からは、韓国サッカーの現状に対する歯がゆさが滲んでいるようでもあった。

ただ、それでもパク・チソンは韓国代表の可能性を信じている。韓国サッカーの復活を信じている。そして、そのために自分が何をできるかということを日々考えているという。

具体的にどんなアクションを起こすか決まっているわけではない。思慮深く謙虚なところがあるだけに、派手な振る舞いは避けるだろう。

ただ、昔から口数は少なくても、やることは果敢で労を惜しまないパク・チソンのことだ。現役時代同様に、不言実行で頼もしい姿を見せてくるに違いない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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