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日本人フィジコ池田誠剛インタビュー「私が中国サッカーに飛び込んだワケ」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ホン・ミョンボ監督と池田誠剛コーチ

何かと注目を集める中国サッカー界で活躍する日本人がいることをご存じだろうか。池田誠剛がそのひとだ。

ジェフユナイテッド市原(1993〜1996年)、横浜F・マリノス(1997〜2004年)のフィジカルコーチとして活躍し、2016年1月から7月までFC東京でフィジカルコーチを務めた池田は今、中国の杭州緑城でフィジカルコーチとして活躍している。

杭州緑城と言えば、韓国サッカー界の“カリスマ”ホン・ミョンボが監督を務めているチームだが、実はホン・ミョンボ監督と池田誠剛の絆は強い。

ホン・ミョンボが韓国ユース代表監督を務めた2009年から、池田は日本人ながら韓国ユース代表のフィジカルコーチとなり、2012年ロンドン五輪でも韓国のフィジカル部門を担当。2014年ワールドカップでもホン・ミョンボの右腕を務めた。日本人指導者が韓国代表のコーチングスタッフとなったのは池田が初めてであり、ホン・ミョンボ監督のコンビで“新たな可能性”を示したのだ。

(参考記事:史上初めて“日韓ハイブリッド”を実現させた指揮官ホン・ミョンボの「監督力」)

そんな“アジアで活躍する日本人コーチのパイオニア”とも言える池田誠剛の目に、中国サッカーはどう映っているのだろうか。4回にわたってそのインタビューを紹介したい。

―まずはありきたりですが、杭州緑城のフィジカルコーチを務めることになった経緯について教えてください。

「昨年7月にFC東京を退団したあと、ホン・ミョンボ監督から“すぐに来てほしい”という要請があって、ふたたび杭州緑城のフィジカルコーチを務めることになりました。実は杭州緑城に来るのは2度目なのです。岡田(武史)さんが監督を務めていた頃の2013年にも杭州でフィジカルコーチを任され、“中国のクラブでは何をどうすれば、チーム力や個人の力の能力を上げられるか”と考えながら取り組みましたが、諸事情で1シーズンで中国を離れたんです。“次にやるときは違うアプローチでやらなきゃな”という課題を残しながら中国をあとにしていたこともあって、私としてはいつかもう1回チャレンジしたいと思っていたんですよ。そんな中でホン・ミョンボ監督から連絡があり、“これは中国でもう一度できるチャンス”だと思いましたし、彼となら面白いチームが作れる気がして、ふたたび杭州に来ることになったんです」

(参考記事:容赦なき抹殺批判乗り越え中国で再起したホン・ミョンボ。決断を後押した元日本代表監督とは?)

―ホン・ミョンボ監督とは2009年U-20ワールドカップからコンビを組み、ロンドン五輪やブラジル・ワールドカップをともに戦いました。もはや“阿吽の呼吸”ですよね?

「もう長いですからね(笑)。彼が何を考えているのかもわかるし、チームをどういう方向に導こうとしているかということもよくわかります。2009年から付き合ってきて感じる彼の凄さは、“チームをまとめるチカラ”にあります。チームへのロイヤリティー(忠誠心)を重視し、全員で協力しあって何かを達成することを大切にする。そうした連帯感をチームにもたらすのが本当にうまい」

―ホン・ミョンボ監督のリーダーシップはJリーグでプレーした日本時代から有名ですよね。

「スター選手であっても特別待遇はありませんし、今のチームでも外国人選手を優遇するようなことはありません。中国ではやはり、外国人選手たちが目立ち持ち上げられ、地元の中国人選手が嫌な汚れ役をやるというパターンが、チーム作りの基本になっているケースが多いのですが、ホン・ミョンボ監督はそんなことはしないんです。むしろ中国人選選手たちに“お前らはそれでいいのか。外国人選手に良いところだけ持って行かれて悔しくないのか”と、発破をかける。とあるブラシル人選手のチーム合流が遅れたときも、選手全員を集めた前で“今さら何しに来た”と一喝したくらいですから。そういう監督のスタイルを、中国の選手たちも粋に感じているし、“期待されている、信頼されている”とも感じている。私も韓国時代からフィジカルに関して一任されていて、監督からの信頼を感じます」

―ホン・ミョンボ監督も池田コーチに全幅の信頼を寄せていることがインタビューを通しで感じることができましたが、気になるのは池田さんの目から見た中国サッカーです。2013年にも中国を経験されていますが、あの頃と比べて現在の中国はどうでしょうか。

「2年ぶりに中国に戻ってきたわけですが、“わずか2年でこんなにも変わってしまったのか”と思うほど、急激にレベルが高くなっています。以前はどのチームもさほど変わらない“どんぐりの背比べ”みたいなところもあったのですが、この2年間でリーグのレベルも中国人選手のレベルも高まった。中国サッカーというと、どうしても大物外国人選手ばかりがクローズアップされがちで、各チームとも主力の3〜4人が外国人だとしてても、残り6〜7人は中国人ですからね。外国人選手に刺激されて、また、彼らに引き上げられる形で、自然に中国人選手のレベルも高まっている印象です」

―外国人選手が国内選手のレベルを引き上げているという点は、かつてのJリーグ初期にも近いものがあると思うのですが、ホン・ミョンボ監督は“確かに似ているが、中国のほうがその度合いが激しい”とおっしゃっていました。

(参考記事:洪明甫(ホン・ミョンボ)インタビュー「カリスマが語る日韓中サッカー比較」(3))

「中国にやって来るアタッカーのレベルが違います。Jリーグ初期にやってきた外国人選手たちは年齢的にもピークを過ぎた選手が多かったと思いますが、今、中国に来ている選手たちはバリバリに脂の乗った選手たちばかりですから。そんな彼らをどう止めるかという課題を、各チームが抱えているわけです。しかも、中国には選手だけではなく、実績十分の有名外国人指導者たちも多数やって来ている。レベルの高い外国人アタッカーを食い止めるために、外国の指導者たちが“こういう状況のときは、こっちは生かしてこっちは捨てろ”的なノウハウを叩きこんでいくわけです。それを試合で実践し、試合後には修正点のレクチャーを受け、ふたたび実戦という繰り返し。中国サッカーのレベルが高くなるわけですよね」(つづく)

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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