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洪明甫(ホン・ミョンボ)インタビュー「カリスマが語る日韓中サッカー比較」(4)

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
日韓中3カ国の今後について語ったホン・ミョンボ監督(著者撮影)

凄まじい勢いで急成長を遂げている中国サッカー。実は韓国でもその存在感が増している。端的な例がロシア・ワールドカップ・アジア最終予選を戦う韓国代表のメンバー構成である。日本同様にその多くは海外組で占められているが、その中でも特に多いのが中国組なのだ。

キム・ヨングォン、チャン・ヒョンス、チョ・ウヨンなど、Jリーグで確固たる地位を得た選手たちも迷うことなく中国へと旅立っているし、昨年夏には2014年ブラジル・ワールドカップ韓国代表でドイツ・ブンデスリーガのアウクスブルクでプレーしていたDFホン・ジョンホも、欧州生活に幕を閉じて中国に渡っている。

(参考記事:金と選手と因縁が行き交う韓国と中国のサッカー戦争

■「日本人選手も中国で十分通用する」

韓国ではそうした流れを否定的に見る眼差しもある。

「中国に進出すると技量が退歩する」「中国進出=技量低下だ」「多くの選手が中国に行ってしまうと、結果的には韓国サッカーの戦力低下を招いているのではないか」。そんな懸念の声が広がっているのだ。

だが、実際に中国の杭州緑城で監督生活を送る“韓国サッカー界のカリスマ“ホン・ミョンボ監督は、「中国進出=技量低下」という図式は成立しないと語る。

「中国に進出している韓国人選手の多くがDFですが、考えてみてほしい。彼らは日常的にフッキやパウリーニョといった世界的なアタッカーたちと対峙しなければならないわけです。彼らと対抗するためには努力と実力が必要ですし、韓国人選手も傭兵(助っ人)である以上、責任が重く結果を問われる。つまり、中国でもレベルアップできる環境にあるわけです」

そして、そうした環境に韓国だけではなく、日本人選手たちが飛び込むこともひとつの方法ではないかとホン・ミョンボ監督は言う。

「日本人選手も中国で十分通用すると思います。中国では、最前線や攻撃には南米やヨーロッパの一線級の外国人選手、ディフェンスには韓国やオーストラリアの選手というのが一般的になっており、そこに日本人選手が割り込むのは簡単ではないでしょうが、日本人選手には彼らにないストロングポイントがある」

■「韓国と日本の長所をミックスさせたとき、より高いレベルに昇華できる」

日本人選手がアジアでも通用し重宝されることは、Kリーグでも示されている。

最近では、昨季までFCソウルで活躍した高萩洋次郎などがその一例だろう。高萩はKリーグ外国人選手格付け査定でも高い評価を得ており、ホン・ミョンボ監督もその事実を知っていた。

「高萩選手だけでなく、日本人選手の長所と言えば繊細なパスワークだったり、確かな技術や戦術理解度などがにそれですが、特に中盤などでは日本人選手の長所を生かせるでしょう。日本人選手も挑戦心を持って中国にトライするのも悪くないと思う」

ちなみに高萩はKリーグでプレーすることで、「自分のプレースタイルの幅が広がった実感もありますし、守備に関しては自信を持てるようになった。環境が変わったことによって、僕も成長できた」と語っていたが、ホン・ミョンボ監督は選手の行き来が個々の成長だけではなく、互いの国の発展にも刺激をもたらすと信じている。

(参考記事:日本人Kリーガー高萩洋次郎が語る「日本と韓国の違い」

「私たちがJリーグでプレーしたとき、韓国人選手が日本にもたらした肯定的要素があったように、日本人選手がKリーグでプレーすることによって韓国サッカー界が受けた刺激もあるはずです。韓国と日本はサッカースタイルも文化も異なりますが、互いの長所や特長をミックスさせたとき、より高いレベルに昇華できると、私は思っています」

それは池田誠剛氏をフィジカルコーチに迎えロンドン五輪でも証明されている。池田氏が韓国サッカー界に足りなかったフィジカル要素を、科学的かつ体系的に伝授したおかけで、チームは強くなり、選手たちも成長した。史上初の“日韓ハイブリッド”を実現させた “ホン・ミョンボの監督力”が韓国サッカー界にもたらした刺激は多い。

■「中国を軽んじると韓国も日本もいつか痛い目に遭う」

「そうした効果を目の当たりにし、今では代表レベルはもちろん、Kリーグや多くのアマチュアチームがフィジカルコーチを導入しています。この例でもわかるように、人が行き来することによってその国のサッカーの発展にプラスをもたらすことができる。人の交流こそ、サッカーの醍醐味でしょう」

もっとも、韓国では過去のAマッチ対戦成績で圧倒的に分がいいせいからか、それとも元々のイメージがそうさせるのか、中国サッカーを格下と見る向きがある。そうした意識は日本にも潜在的にあるとも言えるが、ホン・ミョンボ監督は「中国を軽んじいると、韓国も日本もいつか痛い目に遭う」と警鐘を鳴らす。

「現時点において、韓国、日本、中国の3カ国を並べると、レベル的には中国が落ちるのは事実です。3カ国の長所をそれぞれ1点だけ挙げるとするならば、韓国は“選手の素質と才能”、日本は“体系的で科学的なシステム”、中国は“マネー力”となるかもしれませんが、中国は今まさに始まった段階。これから韓国や日本の良さを吸収して、ますます強くなっていくはずです。そんな中国に対し、韓国や日本が過去の実績にあぐらをかいていたら、いつか痛い目に遭うことは明らかでしょう。韓国も日本も、中国の勢いに負けないくらいのスピードで現状の課題や問題点を改善していく必要があるでしょう」

韓国メディアはハリル・ジャパンについても神経を尖らせ、その試合結果を詳しく分析して紹介している。日本でも韓国サッカーの存在は何かと気になるだろう。両国が互いの国にそうした関心を示すように、中国にも関心を向けねばなならない時期が来ているのかもしれない。

(参考記事:「鬼神」「アンチ・フットボール」「日本の良さを置き去りに」韓国が報じてきたハリル・ジャパンへの“無慈悲”な指摘の数々)

韓国も日本も中国の成長を注視し、その勢いに負けない成長を遂げていかなければならない。本格化しつつある日韓中3カ国による“サッカー三国志”時代の到来を、改めて自覚させてくれたホン・ミョンボ監督の言葉を、果たして我々はどう受け止めるべきか。

いずれにしても中国サッカーにはこれからも熱視線を送る必要がありそうだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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