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現地取材(最終回)日本人Kリーガー高萩洋次郎が語る「ACLとJリーグ」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
昨年はACLで浦和レッズとも対戦した高萩洋次郎(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

高萩洋次郎はAFCアジア・チャンピオンズリーグ(以下ACL)のピッチを数多く踏んできた。

Jリーグ・サンフレッチェ広島時代にはACLに3度出場し、2015年にはオーストラリア・Aリーグのウェスタン・シドニー・ワンダラーズFCの一員としてACLのピッチに立った。2016年にはFCソウルの一員としてアジアの舞台を経験している。

ウェスタン・シドニー時代は鹿島アントラーズ、FCソウルでは古巣のサンフレッチェ広島やかつてのチームメイトたちが多く所属する浦和レッズとも対戦した。言わば対戦相手としてもJリーグを知る日本人選手である。

そんな彼にとって、「ACLとJリーグ」はどう映っているのだろうか。

―高萩選手はJリーガーとしてACLを戦っただけではなく、Jリーグの対戦相手としてACLも戦っています。以前、ユ・サンチョルやチョ・ジェジンなどJリーグでプレーした韓国人選手に取材したとき、「ACLでは特にKリーグ勢には負けたくない」「絶対に勝って韓国のサポーターの前でギャフンと言わせたい」と言っていたのですが、高萩選手もそんな感覚があるのでしょうか。

(参考記事:「イルボン(日本)はライバルか」を韓国人選手に問う

「相手がJリーグ勢だからといって“絶対に負けたくない”という対抗心のようなものはないですし、必要以上に気負うことはありません。逆に“いつも通りやろう”と意識します。ただ、2016年のACLではなかなかそれができなかったことも事実ですね(苦笑)。広島や浦和と対戦しましたが、いつも以上に勝ちたい気持ちが強くなってしまったせいもあって、“普段通りの自分じゃなかったな”という反省はあります。その反省を踏まえ、これからはできるだけ平常心でやろうと思っています」

―サンフレッチェは古巣ですし、浦和にはかつてのチームメイトが多いですからね。いろいろとやりづらかったのではないでしょうか。

「オーストラリア時代には鹿島とも対戦していますが、日本のサッカーは対戦相手からすると非常にやりづらいというか、Jリーグは手ごわいです。選手個々の技術力が高いですし、チームとしての戦術がしっかりある。組織としてしっかりまとまっているので、なかなか崩れませんし、AリーグにしてもKリーグにしてもJリーグ・レベルまでチームを作り込んでいるクラブは少ないと思います」

―ただ、それでもJリーグはACLでなかなか勝てません。2016年のACLを制したのは全北現代でしたし、高萩選手が属するFCソウルもラウンド16で浦和を下しました。地力の違いがあったのでしょうか。

「浦和戦に限って言うと、ACLの場合はホームとアウェーの2試合戦えるじゃないですか。それが大きかったと思います。1試合目で出た課題や対戦相手の特長をもとに対策を立て、2試合目で修正できますから」

―あのときは確か初戦は浦和のホームで、ソウルからすればアウェーでしたよね?

「はい。0-1で負けたあと、ホームに戻って第2戦までいろいろと修正しました。FCソウルは“こういうサッカーをしよう”と方向性が決まったら、そこからの修正力というか集中力がとても高いチームです。練習時間がオーバーしても誰も文句は言わないですし、急きょ合宿をすることになってもみなが従う。ひとつにまとまってそれをやり遂げようという意志だったり、自分の時間や私生活が少々犠牲になっても全員がチームとして集団行動に身を投じていける雰囲気など、韓国独特のものかもしれません」

―日本やオーストラリアとは違ったところがあるわけですね?

「オーストラリアはやはり欧米的価値観が強いので個人主義的ですし、試合の結果に選手たちの私生活が左右されることはない。あらかじめ決められた練習が終わったら各自の自由というスタイルなので、韓国とはまったく違いますね」

―韓国がそこまでできる理由は何なんでしょう。

「やはりそれだけACLを重んじているからだと思います。タイトルに貪欲というよりも、とにかく他の国のチームには負けたくないという気持ちは強いと思います。Kリーグで負けるより、他の国のクラブに負けることが許せないし、負ければプライドが傷つく。特に韓国は日本を“絶対に負けられないライバル”だと思っているので」

―ただ、日本でKリーグというと、「激しい」「観客が少ない」というイメージが強く、2016年ACLでは浦和対浦項の試合でのテーピング放り込み行為騒動もありました。JリーグのほうがKリーグよりも上という言い方は変ですけど、そういうイメージが日本はありますが、実際に高萩さんから見てどう思いますか?

(参考記事:ACL浦和戦でのKリーグ浦項“テーピング放り投げ行為”。韓国と当事者の真意は?)

「そのイメージはおおよそ間違っていないと思いますけど、韓国のサッカー関係者たちも“Jリーグのほうがシステムが整っている”、“Jリーグのほうが良いサッカーをしている”、“Jリーグのほうがお客さんも多く人気がある”ということは認めていますから。選手たちも“日本は良いところが多い”と思っていますから。ただ、良いと強いとは別モノです。韓国のサッカー関係者たちや選手たちが、それでも“自分たちのほうが強い”と言い切れる根拠は、やはり結果にあるわけです。“ACLでは俺たちKリーグのほうが勝っている”というプライドですね。Kリーグはそこに誇りとこだわりを持っていますし、ACLで勝つことがKリーグの存在意義の証明になっている部分もあると思います」

―つまり、KリーグはACLで勝ってこそ存在意義を証明し、確認できる。そして、そんなACLへのこだわりに惹かれたからこそ、高萩選手はKリーグの名門クラブであるFCソウルに来たわけですが、海外から見てJリーグのACLに対する取り組みはどう映りますか?

「FCソウルでACLを戦ってみて感じたのは、ACLはもちろん、リーグ戦もカップ戦も本気ということです。もちろん、Jのクラブも両方に注力していると思いますが、戦力面でやりくりが大変ですよね。ただ、ソウルや全北現代などKリーグでACLのタイトルを本気で狙っているクラブは両方を戦い抜くための戦力を整えていますし、中国なども豊富な資金を投じて戦力の充実を図っている。そうした動きに比べると、日本は経済的に厳しいのかなぁと思ったりはします。あと、日本ではACLとリーグを並行しなければならないことや過密日程が何かと原因に挙げられたりしますが、Kリーグも同じように過密日程です。それでも勝ち残っていくクラブはあるわけですから、過密日程は言い訳にしてはならないのではないかと思いますね」

―FCソウルは今季もACLに出場しますが、目標は?

「FCソウルはアジアでも注目されるようなクラブなので、もちろん優勝を狙っていく覚悟です。ソウルは選手のレベルが高く、チームとしての総合力も高いのでその可能性を十分持っていると思います」

―グループリーグはもちろん、勝ち進んでいけばJリーグ勢との対戦もあるかと思いますが、対戦したくないクラブがあったりしますか?

「浦和とはもうやりたくないですね。やりづらいというか、あれほどまでレベルが高い相手になるとこっちも大変ですよ。前回もギリギリ。勝ちましたけど、PKだったし(苦笑)」

―ACLはもちろん、Kリーグでも結果を残して日本代表に呼ばれたいという欲はありませんか? 韓国でもハリル・ジャパンのことは詳しく報じられていますが、現役Kリーガーが日本代表に選出となれば、韓国メディアのハリル・ジャパンに対する厳しい見方も変わりそうな気もします。

「呼ばれれば一番嬉しいですけれど、今はFCソウルでやっていることを、レベルを上げながら続けていくことが一番重要だと思っています。日本代表への関心がないわけではなく、少しは意識していますけど、今はそれよりもチームで勝たせることが僕の役割ですから」

―最後に、高萩選手の成功によって韓国の日本人選手に対する評価は大きく変わりつつあると思いますが、日本人選手がKリーグを選ぶ日本人選手がもっと増えても良い気もします。もちろん、KリーグとJリーグでは待遇面などでまだまだ開きもありますが、そこのところ、どう思いますか?

(参考記事:韓国Kリーグも公開する選手年俸。Jリーグと比べてみると……。

「そうですね。激しさや強さを学べるし、技術的にも日本人は十分通用すると思うので、増えてほしいですね。ただ、“韓国だからどうにかなるだろう”という甘い考えでは通用しません。チャレンジ精神が必要です。あと、辛いものが好きなら、韓国生活には問題ないでしょうね(笑)」

―今回は長い時間、ありがとうございました。(おわり)

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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