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U23日本と決勝戦う韓国が「史上最弱の谷間世代」と呼ばれたワケ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
8大会連続五輪出場を決めたU-23韓国代表(写真:ロイター/アフロ)

韓国でも“運命と覚悟の韓日戦”と関心高し

リオデジャネイロ五輪アジア最終予選を兼ねたU-23アジア選手権。日本と韓国はともに準決勝に勝利して五輪出場切符を手にした。日本は6大会連続、韓国は8大会連続の五輪出場。ともにその快挙の喜びに浸りたいところだろうが、最後にもうひとつ、“負けられない戦い”を残している。

1月30日の決勝戦がそうだ。日本でも“宿命の日韓戦”と銘打たれているが、韓国でも“運命と覚悟の韓日戦”としてその関心は高まっている。

「史上最弱世代」と呼ばれたワケ

もっとも、そもそも今回のU-23韓国代表は、あまり期待と注目を集めていなかった。大会前には「史上最弱の五輪代表」、「コルチャギ(谷間)世代」と呼ばれていた。実際、過去の五輪代表と比べると、今回の選手たちのネームバリューは落ちる。

過去の五輪アジア予選選手たちを見ると、1996年アトランタ五輪代表にはチェ・ヨンス(現在はFCソウル監督)がいた。その後Jリーグでも活躍する本格ストライカーの存在感は強烈だったし、2000年シドニー五輪代表は10代でフランスW杯に出場したイ・ドングッ(全北現代)をはじめパク・チソン(引退)、イ・ヨンピョ(引退)がいた。2004年アテネ五輪代表では2002年W杯4強戦士だったイ・チョンス(引退)、チェ・テウ(引退)。2008年北京五輪代表にはキ・ソンヨン(スウォンジー)、イ・チョンヨン(クリスタルパレス)、パク・チュヨン(FCソウル)がいたし、2012年ロンドン五輪アジア予選ではク・ジャチョル(アウクスブルク)、キム・ボギョン(全北現代)らが予選を戦い、五輪出場権を獲得している。Kリーグはもちろん、すでに韓国代表で活躍している選手が多かったのだ。

そんな事例からみると、今回のU-23韓国代表はネームバリューが落ちる。リュ・スンウ(レバークーゼン)、ファン・フィチャン(ザルツブルグ)といった欧州組もいるが、彼らは所属ククラブで出場機会が少ない目立たぬ選手だったし、現役韓国代表はクォン・チャンフン(水原三星)のみ。

Kリーグでは2013年から「23歳以下の選手を最低2名エントリーさせ、1名は出場させること」という規定を設けているが、その恩恵に授かって出場機会を得ている選手も多かった。何人かの選手は2014年アジア大会優勝メンバーでもあるが、その快挙もオーバーエイジや1歳年上の1992年生まれ(元新潟のキム・ジンスなど)の活躍があってのことだった。まさに「谷間世代」というわけである。

そんな「谷間世代」が良い意味で期待を裏切ってくれただけに、韓国メディアも驚きを隠さない。「歴代最弱世代の快挙」「谷間世代の反乱」とも報じられている。

と同時に決勝が日本とのライバル対決になったこともあって、その関心はさらに高まっている。決勝対決が決まって以来、韓国メディアでは「韓日戦プレイバック企画」が目白押しだ。

96年五輪アジア最終予選時を彷彿させるシチュエーション

個人的に五輪予選での日韓対決で真っ先に思い浮かぶのは、1996年3月にマレーシアで行なわれたアトランタ五輪アジア最終予選だ。あのときも日本と韓国はともに準決勝に勝利して五輪切符を手にし、決勝戦を戦った。

試合はチェ・ヨンスのゴールなどで韓国が2-1で勝利しているが、後味が悪かったことも覚えている。当時は日韓の間で領土問題のつばぜり合いが続き、非常にセンシティブな関係だった。今回も韓国のファン・フィチャンが「慰安婦のおばぁちゃんたちの話もいろいろ多く歴史的な部分もあるので、最後の試合は無条件しっかりやらなければならない」と語ったことで、サッカーとはまったく関係ない政治要素を加えようとする気配がどことなく漂う。

せっかくともに五輪切符を手にしたのだ。手にした栄誉に泥を塗るようなことは勘弁してほしい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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