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15歳のストライカーがサッカー王国を席巻。レアルやバルサも熱視線を送るエンドリッキとは

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
2年連続で南米王者に輝いているパルメイラス。南米屈指の育成組織もその強さの源だ(写真:ロイター/アフロ)

 世界で一番過密なサッカーカレンダーをもつブラジルで、新年恒例の行事が「コパ・サンパウロ・デ・ジュニオーレス」と呼ばれる20歳以下の選手が集う大会だ。ブラジル全土から128チームが参加した今年の大会で頂点に立ったのは、悲願の初制覇を果たした名門パルメイラス。エースとして得点を量産したのが15歳のエンドリッキだった。15歳にしてスペインのスポーツ紙「マルカ」の一面をジャックした俊英は、一体何者なのだろうかーー。

若き日のカズもプレーしたブラジルサッカー界の登竜門「コピーニャ」とは

 日本ではあまり馴染みがないこの大会だが、サッカー王国では若手の登竜門的な大会として、知られるのが「コパ・サンパウロ・デ・ジュニオーレス」。通称は「小さな優勝カップ」を意味する「コピーニャ」だ。1969年に第一回大会が行われた伝統あるこの大会は一時「タッサ・サンパウロ(サンパウロ杯)」の通称でも知られたが、ブラジルで武者修行をしていた若き日の三浦知良も出場。年によっては海外のクラブも参加が可能で、2014年には柏レイソルU-19が決勝トーナメントに進出している。

 この大会での成功が必ずしもその後のキャリアを保証するものでないのは間違いないが、ブラジル代表で黄金のカルテットを構成したパウロ・ロベルト・ファルカン(元日本代表監督)やライー、カカーらもこの大会でプレー。近年でもネイマールやマルキーニョス、ガブリエウ・ジェズスらブラジル代表のレギュラークラスがこの大会を経験し、その後、プロ選手としてブレークを果たしてきた。

 伝統的にサンパウロ市の市制記念日である1月25日に、決勝が行われるこの大会で、今回128チームの頂点に立ったのは、過去一度も優勝を手にしていなかったパルメイラス。決勝ではかつてネイマールを輩出したサントスに4対0で圧勝し、改めてその強さを見せつけたが、先制点を叩き出し、ゴールラッシュの口火を切ったのがチーム最年少のエンドリッキだった。

ロマーリオとロナウドの系譜に連なる点取り屋のスタイル

 ブラジルのサッカー界には「サッカーボールは、自ら点取り屋を見つけ出す」という格言があるが、優れたストライカーはまるで磁力を持つかのようにゴール前で決定機を呼び込んでいく。かつてのロマーリオやロナウドがそうだったように、エンドリッキも典型的な点取り屋であるが決勝で決めた先制点も、クロスをダイレクトでゲット。一見すると簡単に見える得点には得点感覚と15歳とは思えないシュートセンスが凝縮されたものだった。

 計7試合でチーム得点王となる6ゴールをゲット。大会得点王(8ゴール)には手が届かなかったが、大会MVPに選ばれ、自動車事故で早逝した天才ドリブラー、デネルにちなむ「デネル賞」も独占したエンドリッキは、今大会の序盤の活躍から早くもスペイン国内で話題を集めていた。

 スペインのスポーツ紙「アス」は1月10日、「そのパフォーマンスは2017年大会のヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)を思わせる」などと報じたが、そのスタイルはヴィニシウスというよりは、ゴール前で力を発揮するフィニッシャー的なものである。

 今大会のベストゴールとして称賛されたのはペナルティエリア外の浮き球から繰り出したオーバーヘッド弾。その得点センスは、本物だ。

 日本のスポーツメディアでは安易に「天才」という肩書きを用いる傾向があるが、手厳しいブラジルメディアは15歳の逸材にも簡単に「天才」の肩書きはつけようとはしない。

 ブラジルでは才能ある若手を「ジョイア(宝石)」と称するが、16歳を迎える今年7月に初めてプロ契約が可能になるエンドリッキは、あくまでもスター候補生の一人に過ぎないのも事実である。

レアルとバルサに加え、プレミア勢も獲得に興味か

 まだ宝石の原石であるエンドリッキはこれから磨き上げられるべき存在だが、パルメイラスは近年、ブラジルサッカー界でも最も優れた育成組織を持つクラブとして知られている。財政的にも潤うクラブが2016年以降の5年間で下部組織に投資した金額は実に1億2000万レアル(約25億円)と報じられている。

 コパ・サンパウロ・デ・ジュニオーレスの決勝が行われた翌日となる1月26日、「マルカ」紙の一面を独占したのはゴール後に誇らしげに吠えるエンドリッキの写真だった。テニス界の英雄、ラファエル・ナダルやウサイン・ボルトの写真が霞むほど、エンドリッキの扱いは大きく、早くもスペインでも注目を集める存在になっているのである。

 既にレアル・マドリーやバルセロナ、さらにはイギリスのスカイスポーツによるとチェルシーやマンチェスター・シティなどもエンドリッキの獲得に興味を見せているという。

 今年2月にUAEで行われるクラブワールドカップに南米王者として出場するパルメイラス。年齢制限のないこの大会にメンバー登録されることは可能だが、ポルトガル人の指揮官、アベウ・フェレイラ監督はエンドリッキを帯同させない意向を示しているが、この逸材の獲得競争は、今後、熾烈を極めるのは間違いない。

 FIFAの規定で18歳未満の国際移籍を原則的に禁止しているために、エンドリッキの「旧大陸」進出は早くとも2024年7月以降になる。

 15歳のストライカーの順調な成長はもちろんだが、ヨーロッパのビッグクラブの獲得競争の行方も注目だ。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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