「女を修理する男」・ノーベル平和賞ムクウェゲ医師来日

(写真:ロイター/アフロ)

ドキュメンタリー映画「女を修理する男」で知られる、2018年ノーベル平和賞受賞者デニ・ムクウェゲ医師が、昨日10月2日に来日しました。

ムクウェゲ医師(右)(提供:コンゴの性暴力と紛争を考える会 /撮影:筆者)
ムクウェゲ医師(右)(提供:コンゴの性暴力と紛争を考える会 /撮影:筆者)

来日の目的は「平和、正義、女性の権利」に対する世界的なキャンペーン活動の一環です。東京・広島・京都で講演会をされると共に、広島では平和記念資料館と平和公園の見学、慰霊碑への献花も予定されているようです。

「女を修理する男」という映画のタイトル、一瞬「えっ」と思う方も多いでしょう。描かれているのは、1996年から混乱状態が続くアフリカ・コンゴ民主共和国(以下DRC)東部で、性暴力被害者の治療と支援を行うムクウェゲ医師を追ったドキュメンタリーです。

ムクウェゲ医師は、1955年にDRC(当時はベルギー領ザイール)東部の都市ブカブで生まれました。フランスで産婦人科学を学んだ後、1999年に地元ブカブにパンジ病院を開設。

コンゴ民主共和国地図(作成:筆者)
コンゴ民主共和国地図(作成:筆者)

すでに混乱状態にあったDRC東部で、これまでに5万人以上の性暴力被害者の治療を行うとともに、時には命を狙われながらも、本質的な問題解決を世界各地で訴えてきました。

ノーベル平和賞は、その命がけの献身的な活動に対して授与されました。

女性と子どもにとって世界最悪の場所

DRC東部ゴマの避難民キャンプ(撮影:筆者)
DRC東部ゴマの避難民キャンプ(撮影:筆者)

紛争下の性暴力は「戦争の武器」とも呼ばれ、世界各地の紛争で使われてきました。私が長く取材しているDRCの隣国ルワンダでも、1994年のジェノサイド、さらにはその前後も、数多くの女性が性暴力の被害にあいました。

何人かの被害者・目撃者にインタビューさせてもらったことがあるのですが、話を聞いているだけでも、背筋が寒くなる凄惨な話ばかりでした。レイプした後、乳房や性器を切り取ったり、女性器に熱く熱した鉄の棒を突っ込み子宮を破壊したり……。

「女を修理する男」でも同様の内容に言及するシーンがあるのですが、「女性と子どもにとって世界最悪の場所」と呼ばれる理由が、苦しいほどに伝わってきました。

性暴力被害者は自らの存在価値を見失い、その家族もトラウマに苦しみ、さらにレイプが原因で妊娠した子は望まれない子となります。その結果、家族も地域社会も荒廃・弱体化してしまい、武装勢力などの侵略者に対する抵抗力を失ってしまうのです。

組織的な性暴力の狙いはまさにそこにあり、ムクウェゲ医師は「性的テロリズム」と呼んでいます。

DRC東部ゴマの避難民キャンプで水くみをする子ども(撮影:筆者)
DRC東部ゴマの避難民キャンプで水くみをする子ども(撮影:筆者)

DRC東部は、国名がザイールからコンゴ民主共和国へと変わった「第一次コンゴ戦争(1996年11月~1997年5月)」、隣国ルワンダ・ウガンダに加えアフリカの5ヵ国が軍事介入した「第二次コンゴ戦争(1998年8月~2003年7月)」で常に中心地となりました。

その理由は、その大地に大量に眠る鉱物資源。生産量世界1位のコバルトを始め、タンタル、ダイヤモンド、金、スズ、タングステンなど。

周辺諸国だけでなく様々な組織や国がその宝の山を手に入れようと暗躍し、何らかの後ろ盾を持つ複数の武装組織が、第二次コンゴ大戦終結後も、つばぜりあいを続けているため今も紛争下にあるのです。

ムクウェゲ医師は、そんなDRC東部の惨状を世界に伝える活動も行ってきました。しかしそれはDRC東部で利権を得ている人たちにとっては、非常に煙たい存在になることでした。

2012年10月、ムクウェゲ医師はついに命を狙われます。武装した何者かが自宅を襲撃。ムクウェゲ医師は不在だったため無事でしたが、警備員が死亡してしまいました。

犯人は捕らず、いつまた暗殺者が来るか分からないため、ムクウェゲ医師はヨーロッパに逃れました。ところが、地元の女性たちから帰ってきて欲しいと懇願されたのです。1日1米ドル以下の苦しい生活を送っているにも関わらず、自分たちが航空券を購入し、自分たちがあなたの身を守るからと――。

2013年1月、ムクウェゲ医師は再びブカブに戻りました。映画では帰国時に撮影された映像も流れるのですが、数百人の女性たちが大歓声でムクウェゲ医師の帰国を喜ぶ姿には鳥肌が立ちました。

紛争鉱物と日本の繋がり

DRC東部ゴマに展開している国連軍(撮影:筆者)
DRC東部ゴマに展開している国連軍(撮影:筆者)

DRC東部で採れる鉱物の中には、「紛争鉱物」と呼ばれる物があります。その名の通り紛争地域で採掘された鉱物資源のことで、一般的にアメリカで2010年に成立した金融規制改革法(ドット・フランク法)の規制対象である「スズ、タンタル、タングステン、金」の4種を指しています。

現在、日本には紛争鉱物に関する法規制はありませんが、米国の上場企業と取引する日本企業は「ドット・フランク法」に対応する必要があります。そのためNECやソニー・トヨタ自動車・村田製作所などが名を連ねる「一般社団法人電子情報技術産業協会」が2012年に「責任ある鉱物調達検討会」を設置するなどの取り組みをしています。

一方、消費者一人一人は「紛争鉱物」というものが存在することを、まだ意識できていないのが現状ではないでしょうか。例えば、タンタルはスマートフォンやコンピューター・ゲーム機・デジタルカメラなどのコンデンサとして使われているのですが、そのタンタルがどこの国で採れたものなのか気にする人はいないでしょう。

「女を修理する男」の中では「紛争鉱物とグローバル戦争経済と組織的な性暴力は、相互関係」にあるといわれています。そしてDRC東部から1万2千キロ近く離れた日本も、当然その中に含まれているのです。

移動中のムクウェゲ医師(提供:コンゴの性暴力と紛争を考える会 /撮影:筆者)
移動中のムクウェゲ医師(提供:コンゴの性暴力と紛争を考える会 /撮影:筆者)

今回ムクウェゲ医師来日を実現させた「コンゴの性暴力と紛争を考える会/ASVCC」は、東京大学、NGOピースボート・立命館大学と連携して講演会及び関連イベントを予定しています。

ムクウェゲ医師の目に日本がどう映るのか?

そして氏の来日を機に、DRC東部の現状に少しでも関心が集まることを期待しています。