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「日本のゴミ拾い文化」がアフリカを救う

下村靖樹フリージャーナリスト
ソマリアの避難民キャンプの子どもたちとゴミ山(撮影/著者)

あなたが、いつも手にしているレジ袋が、アフリカで大きな問題になっていることを知っていますか?

そしてその問題を解決するため、「日本のゴミ拾い文化」がアフリカに広がっていることも――。

校内から大型清掃車3台分のゴミ

ほこりが舞う校内を清掃中の生徒たち(写真提供:JICA)
ほこりが舞う校内を清掃中の生徒たち(写真提供:JICA)

今年3月、西アフリカ・ニジェールの首都ニアメ市で、JICA(独立行政法人国際協力機構)の働きかけにより、2000人近い人々によるゴミ拾いが行われました。

自宅周辺で清掃活動をする山形氏(写真提供:JICA)
自宅周辺で清掃活動をする山形氏(写真提供:JICA)

始まりは、「着任以来、町中に散乱するレジ袋などのゴミが気になっていた」という、JICAニジェール支所の山形茂生支所長。

そこかしこに積み上げられたゴミの山は、町の景観を壊すだけでなくマラリアを媒介する蚊の発生源になるなど、公衆衛生面にも影響を与えかねません。

ニアメの中心地におけるゴミ溜まり(写真提供:京都大学アフリカ地域研究資料センター・大山修一准教授)
ニアメの中心地におけるゴミ溜まり(写真提供:京都大学アフリカ地域研究資料センター・大山修一准教授)

そんな状況を危惧した山形氏は、現地の鍛冶屋にゴミばさみを特注し、現地スタッフたちと共に自らもゴミ拾いを実践するなど、地域住民がゴミ問題に関心を示すよう様々な試みを行いました。

しかし、町中に散乱しているゴミはあまりにも大量で、風で巻き上げられるレジ袋は一向に減りません。

そこで氏は、住民の行動と意識を「ゴミは拾う、捨てない」と変える必要があると考え、「清掃キャンペーン」の実施を同国都市衛生省に働きかけました。

3ヶ月の準備期間を経て第1回目の清掃地として選ばれたのは、「フランス-アミチエ中学校」。広大な敷地を持つ、生徒・教諭合わせて2000人近くが在籍するニアメ市有数のマンモス校です。

清掃キャンペーンのスローガン「 みんなの力で 健全な環境づくり」という言葉が入ったビブスを着て待機中の生徒たち(写真提供:JICA)
清掃キャンペーンのスローガン「 みんなの力で 健全な環境づくり」という言葉が入ったビブスを着て待機中の生徒たち(写真提供:JICA)

ゴミ拾い開催日には、炎天のもと、同校の生徒たちだけでなく教諭や周辺住民も加わり約2000人が参加。

ニジェール製ゴミばさみも使って校内と学校周辺が清掃され、3時間で大型清掃車3台分のゴミが集まりました。

大型清掃車3台分のゴミが集まった(写真提供:JICA)
大型清掃車3台分のゴミが集まった(写真提供:JICA)

参加した生徒からは「学校だけでなく自宅やその周辺も綺麗にしたい」といった感想もきかれ、後日実施したアンケートでも「これからも清掃活動を継続する」と回答した参加者は96%に上りました。

「来年開催されるTICAD VII(※1)に相前後して、ニアメでアフリカ連合首脳会議が開かれます。TICAD開催地横浜に負けないよう、『きれいな街』で各国首脳をお迎えしようと、ニアメ市民に呼びかけます」

と山形氏は語ります。

ケニアでは400万円以上の罰金

レジ袋を含むプラスチックゴミの問題は、ニジェールだけではなく他のアフリカ諸国でも深刻な問題です。

私が取材した難民・避難民キャンプやスラム街、紛争地など特殊な環境下には、必ず強烈な悪臭を発している一画があり、発生源を辿ると、決まってレジ袋とプラスチックゴミ・生ゴミが積み重なっていました。

その臭いは、タオルで鼻を覆っていても10メートル以内に近寄ると吐き気を催す、今までに嗅いだことのない強烈な刺激臭でした。

ソマリアの首都モガディシュのゴミ(撮影/著者)
ソマリアの首都モガディシュのゴミ(撮影/著者)

一方、首都などの都市部でも前述の特殊な環境下ほど酷い状況ではないものの、排水溝に詰まったレジ袋が道路を冠水させ交通渋滞や事故の原因となったり、誤食した家畜が死んでしまったり、マラリアを媒介する蚊の温床となるなど多くの問題を生んでいます。

もちろんアフリカ諸国も対策を講じ、昨年8月にレジ袋(ビニール袋)の国内使用を法的に禁止したケニアでは、違反者に禁固刑4年もしくは4万米ドルの罰金を科すなど、レジ袋を含むプラスチックバッグの使用に規制設ける国も増えています。

しかし個人事業主や小規模店舗が多いアフリカ。

レジ袋の代わりとなる紙袋は一枚あたりの単価がレジ袋より高く、強い規制を設けられない国々が多いのが現状です。

アフリカからゴミを減らすには?

世界的には、「ゴミの終着地点」といわれる海洋生態系への影響が近年特に問題視され、海洋生物の誤食だけでなく、レジ袋などのプラスチック製品が劣化し破砕された「マイクロプラスチック」が海洋環境に与える影響なども危惧されています。(※2)

そのような状況を踏まえ、外務省がピコ太郎氏を起用してPRしていたSDGs(持続可能な開発目標)(※3)でも、レジ袋を始めとするプラスチックゴミなど廃棄物処理の問題は「12.持続可能な消費と生産」に。海洋生態系の問題は「14.海洋と海洋資源の保全・持続可能な利用」として――世界的な取り組みも開始されました。

またアフリカでは日本独自の取り組みも始まっています。

JICA(国際協力機構)、環境省、横浜市などが2017年4月に「アフリカきれいな街プラットフォーム」(※4)を設立。

参加各国の知見や経験などを共有し、SDGsの目標年である2030年に「きれいな街と健康な暮らし」がアフリカで実現することを目指しています。

しかし、SDGsや「アフリカきれいな街プラットフォーム」がうまく機能したとしても、人々の行動が変わらない限り、根本的な問題解決にはなりません。

清掃キャンペーンに参加した近隣住民による学校周辺の清掃活動(写真提供:JICA)
清掃キャンペーンに参加した近隣住民による学校周辺の清掃活動(写真提供:JICA)

ニジェールの「清掃キャンペーン」で山形氏が人々に伝えた「ゴミは拾う、捨てない」という「日本のゴミ拾い文化」が、さらに多くの人々と国々に伝われば、アフリカ大陸からアフリカの人々の手により、ゴミが減っていくことは間違いありません。

【参考】JICA広報誌「mundi」2018年5月号

(※1)TICAD(YouTube /外務省)

(※2)第2期漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査総括検討会報告書(環境省)

(※3)ピコ太郎 × 外務省(SDGs)~PRAP~

SDGs(コトバンク)

(※4)JICAプレスリリース「『アフリカのきれいな街プラットフォーム』を設立:アフリカの都市のごみ問題解決をめざして」

フリージャーナリスト

1992年に初めてアフリカを訪問し、「目を覆いたくなる残酷さ」と「無尽蔵な包容力」が同居する不思議な世界の虜となる。現在は、長期テーマとして「ルワンダ(1995~)」・「子ども兵士問題(2000年~)」・「ソマリア(2002年~)」を継続取材中。主に記事執筆や講演などを通し、内戦や飢饉などのネガティブな話題だけではなくアフリカが持つ数多くの魅力や可能性を伝え、一人でも多くの人にアフリカへの親しみと関心を持ってもらう事を目標に活動している。 

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