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国際女性デーを振り返って-アフリカのジェンダー問題

下村靖樹フリージャーナリスト
20キロ近い重さの水を運ぶ女性たち(ウガンダ)(撮影/著者)

一昨日、3月8日は国際女性デー、女性への差別撤廃と女性の地位向上を訴える日でした。

世界各地で様々なイベントが行われ、インターネット上にも多種多様な興味深いコンテンツが掲載されるなど、大きな盛り上がりをみせていました。

なぜ、アフリカで水汲みは女性の仕事なのか?

ジェンダーに関して私はあまり明るくないため、アフリカ取材中も特に意識しているわけではありません。

しかしそんな私ですら、疑問に思う光景を頻繁に目にします。

避難民キャンプでは、水汲みは少女の仕事だった(コンゴ民主共和国)(撮影/著者)
避難民キャンプでは、水汲みは少女の仕事だった(コンゴ民主共和国)(撮影/著者)

初めて違和感を覚えたのは、23年前ルワンダで地方の村を訪れた時でした。

なみなみと水が入った黄色いジェリ缶を頭に乗せ、覚束ない足取りで歩いてくる10~14歳くらいの少女の集団。その横には身長の1.5倍ほどの高さに積み上げられた薪を背負う、少女の母親らしき女性たちの姿。

ジェリ缶は縦横30~40センチ、厚さ10センチほど。少なくとも重さは10キロ以上でしょう。母親たちの背に山積みになっている薪も、その量からみて20キロ近くはありそうです。

ジェリ缶に井戸水を詰める女性たち(中央アフリカ)(撮影/著者)
ジェリ缶に井戸水を詰める女性たち(中央アフリカ)(撮影/著者)

アフリカのインフラが十分に整っていない地域では、川や池への水汲みは毎日必須。食事を作るときに燃料として使用する薪も、週に一度は拾いに行かなければなりません。

家族のため、歯を食いしばりゴム草履を履いた細い足で一歩一歩踏みしめるように歩いている女性たち。しかし、そのすぐ側の木陰で筋骨隆々たる男たちが、片肘をついて横になったり椅子に座ったりして談笑しているのです。

その光景を見て「見るからに暇そうなのに、なんであの男性たちは手伝わないんだろう?」と疑問がわき、通訳をしてくれていたルワンダ人男性に聞いてみました。

「水汲みや薪拾いは、女性か子どもの仕事って昔から決まってるからね。大人の男がする仕事じゃないんだよ」と、一瞬驚いた顔をした後、「変なことを聞く外国人だな」と訝しげに私を見た彼の表情を今も覚えています。

一袋50キロの食料が入った袋を運ぶ女性(撮影/著者)
一袋50キロの食料が入った袋を運ぶ女性(撮影/著者)

世界一になったルワンダ

先週3月2日、世界178ヶ国および12の地域協力機構などが参加する列国議会同盟が発表した各国議会の女性進出に関する報告書で、ルワンダは193ヶ国中最も女性議員の比率が高い国(61.3%)であると伝えられました。(日本は10.1%で158位)

また同国は、2017年11月2日に発表された世界経済フォーラム(WEF)の世界男女格差(GGI)年次報告書2017年版(PDF/10.9MB)では、日本を始めとする多くの先進国を抑え4位に位置するなど、一見すると非常に女性が暮らしやすい社会を、すでに実現しているように思えます。(日本は114位)

ルワンダでは 1994年の内戦時に80~100万人ともいわれる人々が ジェノサイドと呼ばれる大量殺戮により犠牲になり、残された世帯の1/3において女性が世帯主になりました。

そのため、復興において女性の力が非常に重要となり、議員・閣僚などの一定数を女性に割り当てる制度「クオータ制」を導入するなど、従来は男性が独占していた職にも積極的に女性を登用し、「アフリカの奇跡」と呼ばれる復興を果たしています。

ところがGGIに加え、ジェンダー格差を考えるうえで重要な(内閣府男女共同参画局「男女共同参画に関する国際的な指数」)HDI(人間開発指数)GDI(ジェンダー開発指数)GII(ジェンダー不平等指数)の数値は以下の通りです。

  • HDI 日本17位、ルワンダ159位/188ヶ国中
  • GDI 日本55位 ルワンダ18位/160ヶ国中
  • GII 日本21位 ルワンダ84位/159ヶ国中

国際連合開発計画 2015年

また、国民の幸福度を測る「世界幸福度ランキング2017」では2013年には3.715(10点満点)だったものが2017年には3.471(151位/155カ国)と、ほぼ変化がありません。

私は1998年から、毎年首都キガリ郊外に暮らすある家族を取材させてもらっています。

本年初頭も、配偶者と死別した母、結婚をしてその近くに暮らす2人の娘たちと会ってきたのですが、幼い子どもたちを抱える娘たちは大学を出ているものの安定した職に就けず、60歳近い母が夜勤専門の看護師として三つの家庭を切り盛りしていました(娘たちの配偶者も失業中)。

その生活は非常に厳しく、ルワンダで低所得者層と中所得者層の間に位置するその家族には、残念ながらルワンダの良い指標の恩恵はまだ届いていませんでした。

一方、今回の国際女性デーに掲載されていた記事の中に「2018年の世界女性デーを契機に、バイクタクシーのドライバーとして働きはじめる」というものがありました。

Rwanda’s SafeMotos adds female moto-drivers to platform(Disrupt Africa)

バイクタクシーのドライバーは現在完全に男性が独占している職場で、また比較的間口が広い職でもあります。

痴漢や無賃乗車など女性がゆえのトラブルも考えられるので、正直なところ女性のバイクタクシードライバーが誕生するとは、私の頭にはまったくありませんでした。

恐らく今後様々なケースを想定して、法律なり条令が作られていくのだと思います。

これから一波乱二波乱ありそうですが、2018年の国際女性デーに、ルワンダ人女性が新しい職業の選択肢を得たことは、とても素晴らしいことだと思います。

「水汲みや薪拾いは、女性と子どもの仕事。大人の男がする仕事じゃない」。

古往今来、男性だけではなく女性も子どもも、それが当たり前だと信じてきた風習を変えるのは、容易ではないと思います。

ただ、少なくとも数年後には、「なぜ、あなたは水汲みをしないの?」と男性に問いかけると、ばつが悪そうに言い訳する姿が見られる事を期待しています。

ルワンダの少女たち(撮影/著者)
ルワンダの少女たち(撮影/著者)
フリージャーナリスト

1992年に初めてアフリカを訪問し、「目を覆いたくなる残酷さ」と「無尽蔵な包容力」が同居する不思議な世界の虜となる。現在は、長期テーマとして「ルワンダ(1995~)」・「子ども兵士問題(2000年~)」・「ソマリア(2002年~)」を継続取材中。主に記事執筆や講演などを通し、内戦や飢饉などのネガティブな話題だけではなくアフリカが持つ数多くの魅力や可能性を伝え、一人でも多くの人にアフリカへの親しみと関心を持ってもらう事を目標に活動している。 

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