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シュトレンの次はパネットーネ? 2022年のクリスマスはイタリア伝統の発酵菓子「パネットーネ」に注目

清水美穂子ブレッドジャーナリスト
パネットーネのブームが始まっている (画像提供:マンダリン オリエンタル 東京)

クリスマス時期のベーカリーにドイツの発酵菓子「シュトレン」が並ぶようになって久しいが、今、イタリアの伝統的な発酵菓子「パネットーネ」がじわじわと、ブレイクの兆しを見せている。

パネットーネもシュトレンのように、見た目は素朴ながらハレの日を彩る伝統の発酵菓子で、家族や友達とシェアして楽しむ。手土産向けの商品でもある。シュトレンとの大きな違いはその質感。ふんわりと柔らかく、しっとりとなめらかで、縦に伸びた気泡がほどけて口の中でスッと溶ける、シュトレンにはない「パンらしさ」を特徴としている。フルーツケーキとの違いもこの質感だ。そして発酵による芳醇な香りがある。それは柑橘果実などの香りとあいまって、そのパネットーネの個性のひとつとなる。

「パネットーネのパネットーネたる所以は、自家培養発酵種を用いることにあります」。パネットーネの普及と啓蒙を行う「パネットーネ・ソサエティ」の柴田香織さんは言う。

パネットーネ発祥の地といわれているイタリア・ロンバルディア州で正統派とされるパネットーネは、小麦粉、水、砂糖、卵、牛乳、バター、サルタナレーズン、オレンジピール、チェードロ(シトロン)の砂糖漬け、塩、自家培養発酵種を用いてつくられる。このほか、使用可能な素材として、コンデンスミルクやヨーグルトなどの牛乳由来製品、カカオバター、はちみつ、麦芽、バニラなどがある。使用してはならないものとして、ビール酵母、インスタントイースト、コーンスターチ、植物油脂(カカオバターやオリーブオイルを除く)、合成香料や合成着色料、乳化剤、保存料などがある。それら使用してはならないものを除き、最近では自由な発想でアレンジされたパネットーネも広まっている。

日本初のパネットーネコンテスト「パネットーネ・コンテスト in Japan 」にエントリーした20作品(筆者撮影)
日本初のパネットーネコンテスト「パネットーネ・コンテスト in Japan 」にエントリーした20作品(筆者撮影)

ここ数年、日本でもパネットーネを目にする機会が増え、認知度が高まっている理由について柴田さんは言う。「まず本国のイタリアでパネットーネが非常に盛り上がっているという背景があります。イタリア各地でパネットーネのコンテストが開催され、日本からも本国の大会に挑戦する人が出てきたこと。ピアット スズキの鈴木弥平シェフが2019年、イタリアで5大会に出場し、すべてファイナリストとなったことは大きな刺激になったと思います」。

筆者はベーカリーシーンに注目してきたが、1980年代に「ドンク」でパネットーネに出合ったのが最初だったと思う。2019年、「ドンク」の佐藤広樹さんや「シニフィアン シニフィエ」の志賀勝栄さんがパネットーネの世界大会に出品したのも記憶に新しい。2019年は日本でパネットーネがブレイクし始めた年と言えるだろう。同年、恵比寿にパネットーネをシグニチャーとしたパティスリー「レス」がオープンし、話題になった。

2022年11月24日、パネットーネ・ソサエティ主催で初のパネットーネコンテストが開催された。出品されたトラディショナルな「パネットーネ・クラシコ」20作品の中から、世田谷の「コシュカ」の秋元英樹さんの作品が最優秀賞に選ばれた。コシュカはハード系のパンのおいしさに定評があるが、これからはパネットーネにも注目だ。

左から「栗とカシス」「アマレナチェリーとピスタチオ」「クラシコ」(画像提供:マンダリン オリエンタル 東京)
左から「栗とカシス」「アマレナチェリーとピスタチオ」「クラシコ」(画像提供:マンダリン オリエンタル 東京)

同コンテストのファイナリストにも残った中村友彦さん(マンダリン オリエンタル 東京「ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ」)も、パネットーネに意欲的に取り組むベイカーのひとりだ。「ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ」でのパネットーネの製造数は年をかさねるごとに増えており、伝統的な「パネットーネ クラシコ」(3780円)は通年販売されるようになった。今年のクリスマスシーズンには毎シーズン人気の「栗とカシスのパネットーネ」(4104円)、今年初の、中身が二層になった最新作「アマレナチェリーとピスタチオのパネットーネ」(4752円)が加わっている。「本格的にパネットーネに魅了されてから今年で5年目になります。今年は乳酸発酵の香りとおいしさにフォーカスできました」と中村さんは言う。

身体への優しさを感じるパネトーネ「レーズン&オレンジ」(画像提供:シニフィアン シニフィエ)
身体への優しさを感じるパネトーネ「レーズン&オレンジ」(画像提供:シニフィアン シニフィエ)

通年バリエーション豊かなパネットーネを販売する「シニフィアン シニフィエ」の志賀勝栄さんの「パネトーネ」の特徴は、身体への優しさ。製造には5日間を要するミラノの伝統的な製法で、素材の小麦粉は北海道産100%。はちみつや卵黄がしっとりとしたとろけるような食感をつくりだす。オレンジピールは洋酒とGI値の低いアガベシロップに漬けている。クリスマスシーズンはこの「レーズン&オレンジのパネトーネ」(4860円)のほか、贅沢にグレートリュフ(オータムトリュフ)を刻んで発酵バターと合わせ、3種類の栗とともに生地に練りこんだ「パネトーネ<トリュフ>」(5400円)も発売。

イタリアンベーカリー「プリンチ(R)」の松田武司さんの「パネトーネ」も、イタリア本国からレシピを受け継ぎ、昔ながらの本格製法をとる。特徴はその大きさ。本場サイズで重さ1kg、直径約20センチ。今年は伝統的な「パネトーネ クラッシコ」(6415円)に加えて、「パネトーネ チョコラート マローネ」(7065円)が登場している。ビタースイートなチョコレートを練りこんだ、ラム酒の香る生地に、チョコチップとヘーゼルナッツ、渋皮栗入り。スターバックス リザーブ(R) ロースタリー 東京、プリンチ(R) 代官山T-SITEなどでは、店内利用でクリームを添えた一切れサイズが楽しめる。

表面のカリカリ食感もおいしいプリンチの「チョコラート マローネ」。甘く大きい一切れも軽やか。(筆者撮影)
表面のカリカリ食感もおいしいプリンチの「チョコラート マローネ」。甘く大きい一切れも軽やか。(筆者撮影)

職人技術の活きる伝統的なパネットーネは、発酵種の管理が難しく、誰でもつくれるというわけではないため、日本で急速な流行にはならないと思うが、パネットーネはふんわりしっとり軽やかで、日本人の大好きな食感だ。朝食にもなればコーヒーブレイクの時にも、デザートにも楽しめる。未開封の状態でひと月ほどの賞味期限があるものが多いので、ギフト好適品でもあるだろう。パネットーネがいつか、シュトレンを凌駕する日が来るかもしれない。

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ブレッドジャーナリスト

東京出身。2001年より総合情報サイトAll Aboutでガイドを務めることにより、パンに特化した取材執筆活動を開始。注目のベーカリーとつくり手についてWeb、TV、ラジオ、新聞、雑誌等メディアで発信、紹介する一方で、消費者動向やトレンド情報を業界に提供、ベーカリーと消費者の相互理解を深める活動をしている。取材執筆、企画監修、講師、各種コンテスト審査員、コンサルティングなども行う。主な著書『BAKERS おいしいパンの向こう側』(実業之日本社)『日々のパン手帖 パンを愉しむsomething good』(メディアファクトリー)『おいしいパン屋さんのつくりかた』(ソフトバンククリエイティブ)他

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