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コロンビア戦で見えた真の課題。大迫の不在は、日本が“変わる”チャンス

清水英斗サッカーライター
3月12日、ブレーメンで練習中の大迫勇也(写真:アフロ)

「大迫不在の穴をどうやって埋めるか?」という、昨今よくある提起には、少し違和感がある。

コロンビア戦を振り返ると、前半は良い内容だった。コンパクトな[4-4-2]の守備が機能し、中盤でボールを奪って、何度もカウンターを仕掛けた。フィニッシュに至る仕上げに、あと一歩の消化不良を抱えたとはいえ、敵陣にグイグイとボールを運ぶ推進力は、森保ジャパンの大きな魅力である。

しかし、後半は風向きが変わった。その推進力が影を潜め、日本は一方的に押し込まれた。いったい、何が前半から変わったのか? 

キーポイントは、中島翔哉と堂安律のポジションだ。前半は攻撃的な守備ができていた。この2人のサイドハーフは、中に絞って縦パスのコースを切りつつ、相手サイドバックにパスを出されたら、素早く寄せてワンサイドに追い込む。守備のスイッチを入れていた。そして山口蛍らが奪ったボールを、素早く受け取ると、巧みなテクニックで運ぶ。

「良い攻撃は、良い守備から」とサッカー界でよく言われる金言が、この前半は表現されていた。

ところが、後半。コロンビアの両サイドバックが高い位置に張り出してきた。前線のアタッカーと共に、日本のDF佐々木翔や室屋成に2対1の状況を強いる。ここへ通された縦パスに中島や堂安は後追いで下がり、対応せざるを得ない。前半のようにゾーンの守備ポジションを保てなくなった。その結果、日本はズルズルと押し込まれ、中島や堂安は奪ったボールを当てる攻撃の起点としても、その優位を失っている。

前半とは真逆である。良い守備ができず、良い攻撃もできない。循環がひっくり返ったために、押されっぱなし。素早いトランジション(切り替え)を押し出すチームほど、この無限地獄にはまりやすい。

そして中盤が押し下げられたために、鈴木武蔵と南野拓実、2トップは孤立しがち。

大迫勇也がいる場合は、ラフに蹴っても前線にタメができるので、味方の押し上げを待つこともできる。それは無限地獄を脱出するための大切な時間だ。しかし、大迫がいなければ、それは叶わず、ひたすら押し込まれてしまう。コロンビア戦の後半は、その症状が見られた。

となれば、脱出のために取るべき手段は一つ。前で収まらなければ、後ろからつなぐしかない。

だが、後半のコロンビアは、特に12分のFWドゥバン・サパタ投入から4-4-2に変更し、ハイプレスを浴びせてきた。日本はビルドアップでも苦戦し、攻守一体で押し込んでくるコロンビアに防戦一方だった。あのハイプレスを剥がし、ビルドアップできれば、失点する前にペースを握り返すことも可能だったが……。

日本代表の「ポゼッションサッカー」は、対戦相手が日本のセンターバックに、フリーでボールを持たせてくれる、という条件がある。実はハイプレスを浴びせられると、かわせない。これは最近出てきた課題ではなく、ずっと昔から見かける症状だ。GKを含めて、プレッシャーを剥がすビルドアップが確立されておらず、結局、蹴り出すハメになる。

この課題を解決してくれるのが、ラフに蹴ったボールで起点を作ってくれる大迫だった。そして、「大迫不在の穴をどうやって埋めるか?」という提起に対する違和感も、そこにある。

大迫の不在は穴ではない。むしろ、その穴はずっと空いていた。今は大迫という詰め物が取れたために、泣き所がむき出しになって痛むのだ。大迫は穴ではない。詰め物だ。ハイプレスにうぶな日本が、大迫という詰め物に依存してきた。根本的には、圧力をかけてくる相手に対する攻守のチーム戦術が、ずっと確立していないのが問題だ。

森保ジャパンの兆しと、副次発生する課題

ただし、解決の兆しがないわけではない。森保ジャパンはビルドアップでプレスを剥がすことを、意識している。

アジアカップでは勝負事のプレッシャーもあり、リスクを避けるか、逆に挑戦しても危険なミスを犯す場面が目立ったが、親善試合ではチャレンジしてきた。今回のコロンビア戦でも、遅まきながらビルドアップの改善に成功した。

それは乾貴士と小林祐希が投入された、後半26分から。

柴崎岳が最終ラインへ下りて3バック変形し、相手2トップとのかみ合わせで、1人を自由にする。ボールを逃がす場所を増やした。そして柴崎が消えた中盤へ、乾、香川真司、中島が下りて、ボールを受ける。そしてサイドには室屋と佐々木が上がり、高い位置を取った。

乾ら2列目の3人が中盤へ下がり、柴崎も低い位置へ落ちているので、前半のような縦に速い攻撃は難しい。しかし、最後尾や中盤に技術のある選手を増やし、横パスで幅を使いながら、ゆっくりと一歩ずつボールを運ぶ。試合終盤の20分は、完全に日本が試合をコントロールした。

だが、この場合の難点は、ゆっくりと一歩ずつ攻めるために、相手の守備への戻りが間に合ってしまうこと。ゴール前にたどり着いても、人海戦術でスペースを固められる。日本はサイドを中心に崩したが、混雑した守備を破るには至らなかった。

大迫という詰め物を欠く状況から、ビルドアップの重要性が再浮上し、回り回って、混雑したゴール前の決定力にまで、課題が派生してきた。この課題を解決できるFWは誰か? 堅守速攻とされる次のボリビア戦では、より大きなポイントになるだろう。

また、このビルドアップと混雑をこじ開ける決定力の課題は、今年9月から始まるカタールW杯・アジア2次予選でも鍵を握る。前半のコロンビアのようにボールを持ち、日本がカウンターをねらう展開は、アジア2次予選では想定できない。もちろん、ボリビアはアジア2次予選の対戦相手よりも遥かに強いが、試合展開としては似たものになるのではないか。

森保監督がこれまでの親善試合と同じく、全員を起用する方針だとすれば、ボリビア戦はDF三浦弦太、西大伍、畠中槙之輔らの起用が予想される。ビルドアップを得意とするDFばかりだ。コロンビア戦で出場時間が少なかった、香川、乾、小林、鎌田大地らも起用が予想されるが、ボリビア戦で想定される展開に、フィットしそうな選手ばかり。

コロンビア戦は、コパ・アメリカの試金石。ボリビア戦は、W杯予選の試金石。そう考えると構図は見えるし、それに合う選手が実際に選ばれている。次のボリビア戦でインパクトを残した選手は、そのままW杯予選でも主力になっていくかもしれない。

大迫を欠く状況は痛い。しかし、日本代表が抱える課題を治療する機会とすれば、むしろ良いことだ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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