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W杯決勝のVARは誤審だった? グリーズマンのダイブ。ペリシッチのハンド…

清水英斗サッカーライター
ワールドカップ決勝、フランス対クロアチア(写真:ロイター/アフロ)

決勝トーナメントでは特に存在感がなかったVARだが、ワールドカップの最後の最後、フランス対クロアチアの決勝の舞台で、大きな議論を呼ぶことになった。

対象となったのは2つのシーンだ。

グリーズマンのダイブ疑惑

1つめは、前半18分にグリーズマンのフリーキックからフランスの先制ゴールが生まれる、そのきっかけとなったファウル場面。グリーズマンは相手の足がかかる寸前、自分から足を抜いて転んだように見える。「ダイブだ!」「VARは何をやっているんだ」と、大会の最終盤になって、ビデオ判定に疑問符が付けられた。

ただし、これはVARの対象外であると、最初から決まっている。

得点、PK、退場、人間違い。この4つがVARの対象だが、「得点を生んだフリーキックの前、それを与えたファウル」といった具合に、2つ前の過去に遡るVARの適用はルール上できない。フリーキックでインプレーになった瞬間、それまでのプレーは確定する。そうなったら、遡れないのだ。逆に、それ以上に遡ってVARの適用を認めるようにルールを改正すると、対象シーンが大幅に拡大され、試合の進行に大きな影響を与えることになる。

難しいところ。今大会はVARが入ったことで、PKを貰おうとするアクションは抑制されたかもしれない。ところが、直接FKを貰おうとするアクションは、むしろルールのすき間で有効であることがわかってしまった。サッカーの流動的なゲーム性を保つなら、直接FKは、審判が自分の目でリアルタイムに、今までどおりに見極めるしかないのだが。

また、VAR導入により、執拗な“ダイブ狩り”が散見されることも危惧している。グリーズマンは自分から足を抜いて転んだように見えるが、そもそも激しいタックルに対してケガを防止するために自ら避けることは、認められて然るべきアクションであり、それをすべて狩り始めるとアタッカーの選手が逃げ場を失ってしまう。

その後、実際に接触もあったわけで、ノーマルコンタクトとしてノーファウルとするのはOKだが、“ダイブ”と安易に断定するのは好ましくない。

昨今のダイブ狩りは行き過ぎている。そもそもVARは、そのために存在するわけではない。「試合結果を左右する明らかな誤審や見逃しを無くす」ために導入されたのであり、ダイブや汚いプレーを抑制した云々は、結果論であり副産物だ。それを無視して各人が都合よく解釈し、都合よくVARに期待すれば、このシステムは失敗するだろう。

ペリシッチのハンドリングは?

そして、議論を呼んだ2つめのシーン。

前半34分にグリーズマンのコーナーキックを、ペリシッチが手で防いでしまった場面だ。約4分間の中断があり、VARからの指摘以外に、主審もレビューに走った結果、PKが宣告された。

これは“ハンドリング”の反則とするべきなのか?

大きなポイントは、手がボールに当たったのか、ボールが手に当たったのか。前者ならハンドリングの反則だが、後者はノーファウルだ。

これらを各々が自分の経験則で「ハンドだ!」「ハンドじゃない!」「これをハンドって言うやつはフットボールを知らない!」などと感覚で言い始めると、ろくなことにならない。客観的に判断するために、今年5月のJFAレフェリーブリーフィングで解説された、ハンドリングの基準を用いて考えてみよう。

●手は自然な位置にあるのか?

●意図的にボールを止めているのか?

⇒ボールとの距離は? スピードは? 予測は可能か? 腕を避けることができるか? それによって利益を得ようとしているか? ボールの方向に腕が動いているか?

まず、ペリシッチは手を大きく開いたわけではない。ちょっと微妙な上げ方をしているが、空中でバランスを取る姿勢としては、ギリギリ自然な位置と言えるだろう。

次は意図的にボールを止めたかどうかだ。コーナーキックなので、距離は約30m。ボールスピードがあるとはいえ、当たらないようにすることは充分に可能な距離だ。また、利益を得ようとする可能性は充分に考えられる。後ろの状況はゴチャゴチャとしていて、ペリシッチにはよくわからないが、少なくともそのポジションに走ってブロックに行ったのだから、そこでボールを防ぐ利益は、本人が感じていたはずだ。

ただし、難しいのは、予測の部分になる。

もし、ペリシッチの目の前に誰もいなかったら、100%間違いなくハンドだ。避けられるのに避けていないから、それは当然ハンドになる。

もし、目の前にいるマテュイディが頭で触って、その跳ね返ったボールが1mも離れていないペリシッチの手に当たったとしたら? 逆にそれはノーファウルだろう。避けようがない。

その意味では、目の前にいるマテュイディが触りそうで触らなかった、というパターンは最も難しい。予測するのは難しいが、手はボールに向かって動いている。正直、ハンドでもノーファウルでも、どちらでも理解できる場面だ。非常に難しい。

もう一つの問題は、これをVARの判定対象とするか否かだろう。「明らかな誤審、見逃し」という要件に合致しているとは言えないのではないか?

この「明らか」という部分は、ビデオ判定の審判トレーニングでも重要視されてきた部分だ。何度も再生しなくてもわかること、ほぼ全員の意見が一致すること。そういった部分を満たすのが、「明らか」となるが…。

このような判定をスローモーションで見ると、意図についての印象が変わってしまうため、主審がレビューエリアで観るときは、通常の再生スピードで確認することになっている。そして、主審は何度も再生をしていたようだ。確認に時間を要する時点で、「明らか」とは言えないかもしれない。

そもそもレビューエリアで主審が自ら確認しなければ判定できない、その時点で、「明らか」に接触する可能性が高くなる。たとえば、レビューを行う場合は、「明らか」を今一度確認するために、VAR室と多数決を取ってはどうだろうか。今回は4人のVARがいるので、たとえば5人中主審を含む4人が同じ方向に傾いたら、ビデオ判定で結果を訂正する。逆に3票しか集まらなければ、「明らか」に該当せず、流す。そんな方法もあるのではないか。

今回はPKを取ったことで様々な批判を受けたが、PKを取らなかったら、それはそれで批判されたに違いない。だとしたら、レビューの際に客観的な根拠を作るように、審判側は工夫しても良いかもしれない。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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