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ロシアW杯に見られる新時代のトレンド

清水英斗サッカーライター
準決勝フランス対ベルギー。空中戦で競り合うポグバ、フェライニ(写真:ロイター/アフロ)

ロシアワールドカップに見られる、新時代のトレンドとは何か? 12日、ルジニキ・スタジアムでFIFAテクニカルスタディグループ(TSG)のメディアブリーフィングが行われ、準決勝までの62試合をもとに、各人の分析が語られた。

TSGのメンバーは以下のとおり。

カルロス・アルベルト・パレイラ(元ブラジル代表監督)

マルコ・ファン・バステン(元オランダ代表&監督)

ボラ・ミルチノビッチ(元メキシコ代表監督など)

エマニュエル・アムニケ(元ナイジェリア代表)

アンディ・ロックスバーグ(元スコットランド代表監督)

1994年にブラジル代表をワールドカップ優勝へ導き、5カ国を率いて6度のワールドカップを経験したパレイラは、「フットボールは大きく変わった」と変化を強調。

スピード感があり、攻守の切り替えが目まぐるしく、さらに対戦相手を分析して準備を行う。現代サッカーのワールドカップでは、それが当たり前になったと冒頭で説明した。

さらに、「それでも依然として重要なのはタレント(才能)だ。それは試合のパッション(情熱)。タレントはフットボールのすべてであり、武器だ。システムのパフォーマンスがどんなに良くても、タレントがいなければ強くはならない」と、彼らしいコメントも付け加えている。

ロックスバーグは、準々決勝のブラジル対ベルギーを例に挙げ、戦術的な柔軟性と、構造をアレンジする現代的なスタイルについて語った。

「(ベルギー代表監督ロベルト・)マルティネスの戦略は、ファンタスティックだった。強度が高く、ボールを奪って素早く攻めるアタッキング・フットボール。ポゼッションはハイレベルになり、保持をするだけの古い形ではなくなった。スペースへ侵入するスタイルのポゼッションだ。グアルディオラ・アフェクト(影響)が表れている」

本人がワールドカップに参加していないのにもかかわらず、ブリーフィングでは「グアルディオラ」という言葉が何度も登場した。無理もないだろう。2010年スペイン代表、2014年ドイツ代表と、過去2大会で彼によって鍛えられた選手が活躍してきたからだ。ただし、今大会の決勝は、フランスとクロアチア。彼の弟子と呼べる選手は少なそうだ。

また、ロックスバーグは、コーナーキックからゴールが決まる割合が上がっていることを挙げ、セットプレーの重要性が高まっていると語った。ミルチノビッチもこれに同調。むしろ、自らが指揮した過去の世界中の代表チームでも、常にセットプレーが重要であったことを力説している。

アムニケは、アフリカの話題に何度も触れた。

「アフリカの問題はいつも監督」と語る、アムニケ。今回はワールドカップボーナスの先払いが行われたこともあり、アフリカ諸国にありがちな騒動は聞かれなかった。とはいえ、チームマネージメントに問題を抱えるのは、アフリカの日常だ。

「監督を育てること、知識を蓄えること。プラットフォームを作らなければならない。監督の育成を変えていかなければ。外国人監督よりも優れた自国の監督を育てるために」

その意味では、日本と同グループのセネガルの監督アリウ・シセに注目が集まったが、今回は結果を残せなかった。次のワールドカップに向け、アフリカは自国の監督をどれだけ輩出できるだろうか。

ファン・バステンは、9番(ストライカー)が苦しむ状況が増えたことに触れた。

「ゴール前はDFが緊密で、オーガナイズされている。前線からDFまでが近く、スペースがない。たとえばスウェーデン、デンマーク、アイスランド。守備が閉じられており、崩すのは非常に難しい。メッシでさえ、大きな問題を抱えていた。何が最適な戦術か? 簡単な答えはない。リスクを負って侵入するためには、カウンターのリスクにも対処が必要だ」

GKの能力が向上していることも大きい。守備を固められた状況の打開は、今後も課題になるだろう。

支配と反乱

個人的に今回のワールドカップは、ポジショナルプレーで試合の支配を試みる側と、その仕組みの破壊を企てる側の、せめぎ合いが面白かった。その構図は、攻撃と守備というより、支配と反乱。現代サッカーの試合は、そう表現したほうが合うかもしれない。

典型的な試合は、グループリーグ初戦のドイツ対メキシコだ。世界王者が確立したポジショナルプレーでさえ、それが画一的なパターンに陥って対応力を欠くと、メキシコにシステムの根幹を撃ち抜かれてしまった。

ベルギーも印象的なチーム。日本は彼らのポジショナルプレーに打ち破られた。3バックがあえて左に寄り、計算されたボール運びをすることで、ボールの失い方も計算する。後半に起きたことも、日本にとっては苦い経験だった。194cmのマルアン・フェライニを、日本DF陣の高さが無い側、昌子源と長友佑都に付けられ、空中戦を仕掛けてきた。日本はこの状況への対抗策がなく、最後は2-3の逆転負け。

さらにベルギーは、続くブラジル戦で、デ・ブライネを偽の9番に置くシステムに変更し、中盤の守備強化と、サイドからのカウンター、さらにボール奪取後のデ・ブライネの推進力を生かす、見事なブラジル対策を成功させた。

しかし、フランス戦では、そのポジショナルプレーが通じなかった。ベルギーは両翼にエデン・アザールとナセル・チャドリを置いて1対1で仕掛けさせ、序盤こそ有効だったが、徐々にフランスの早いアプローチを受けて苦しむことに。中盤でボールを奪われる回数が増えた。

ならばと、パスワークに難のあるフェライニを中盤から外し、日本戦と同じく大外のクロスのターゲットとして送り込んだのだが、フランスはポグバが下がって対応。ベルギーが次々と繰り出すポジショナルアタックを、フランスの柔軟性がすべて退け、1-0で完勝した。

刻一刻と変わる試合の中で、引き出しを開けるチームと、引き出しを塞ぐチーム。このチーム戦術の応酬は、現代サッカーを戦うベースとも言える。しかし、それでもふと思い出すのは、「重要なのはタレント」というパレイラの言葉だ。ベルギーのマルティネス監督はフェライニの配置を修正したが、フランスはポグバの動き一つで対応した。それができるのは個のタレント故だ。仮にポグバがいなければ、フランスの対応は一手では済まず、二手、三手と必要になったかもしれない。

チームに柔軟性を与えるのもまた、個のタレントである。フランスが隙のないチームと言われるのは、さまざまな能力を兼ね備えた個のタレントがいるからだ。日本は戦術的な応酬に慣れていくことも重要だが、その引き出しを広げる個のタレントを育てることも、やはり重要になる。

世界のサッカーが目まぐるしく発展していることは明らかだ。日本代表の監督人事も、このような状況を踏まえた上で、発展のプロジェクトを示さなければならない。

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サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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