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GK川島永嗣を交代させるべきか? 急増したミスの意外な要因

清水英斗サッカーライター
オーストリア合宿中の川島永嗣(写真:ロイター/アフロ)

 大迫勇也、本田圭佑、吉田麻也、長友佑都など、主力組で臨んだスイス戦は、0-2で敗れた。その一方、サブ組を起用したパラグアイ戦は4-2で勝利している。どちらが、コロンビア戦の中心メンバーになるのか。序列はハッキリしない。

また、パラグアイ戦のサブ組には香川真司、乾貴士、岡崎慎司など、ケガで出遅れた選手も含まれる。彼らのコンディションは整うのか? さまざまな意味で、コロンビア戦のメンバーを予測するのは困難を極める。土壇場のハリルホジッチ解任で発足した“迷走ジャパン”だが、転じて、“迷彩ジャパン”になってきた。

 それは守護神も同じだ。ここに来て、GK川島永嗣の交代論が勢いを増している。根拠とされるのは、直近のいくつかのミスだ。ガーナ戦では後半4分にDFの背後に出されたボールに飛び出し、判断を誤ってPKを与えた。スイス戦でも後半29分にスローイングをインターセプトされ、無人のゴールに沈められそうになった。確かに、パフォーマンスは不安定だ。

 そこで交代論が出てくる。東口順昭と中村航輔。誰が第3GKなのかもよくわからない、“迷彩ジャパン”から、どちらかをコロンビア戦で起用してはどうか? そうした声があることは、川島自身も認識している。

「GKは一つのミスだとか、そういう部分が常に取り沙汰されるポジション。そこは今までも、今も、向き合っていくつもりだし、そこから逃げるつもりはない。キャンプの前から言っていますが、常に競争があるのがチーム。その中で一人ひとりがベストを尽くさなければいけない。自分自身も、この2試合(ガーナ戦、スイス戦)はパフォーマンスに満足してないし、自分が考えてプレーを出来ているとも思っていない。でも、そのパフォーマンスを上げられるのは、もう自分自身しかない。そこは切り替えて、やっていきたいなと思います」

 この競争を受け止めている様子の川島だが、少なくともハリルジャパンの頃は、明らかに良いパフォーマンスだった。突然の乱調は、なぜ起きてしまったのか?

 川島のミスの中身を紐解くと、前述したDFとの連係ミスや、ビルドアップの配球ミスなど、GK個人のプレーというより、チーム連係における判断ミスが大半を占めている。「自分が考えてプレーを出来ているとも思っていない」というのは、このことを指すのだろう。

 監督が変わり、チーム戦術も大きく変化した。前任者ハリルホジッチの場合、ビルドアップは最前線のFWに付けることが最優先で、GK川島もシンプルにロングボールを使ってきた。しかし、西野ジャパンでは、GKから足元でつなぐ意識が強くなっている。ガーナ戦でもスイス戦でも、シンプルに蹴り出そうとする川島を、フィールドプレーヤーが制止し、足元でつなぐように要求する様子が何度も見られた。

 その他、ディフェンス背後のスペースカバーについても、ガーナ戦では長谷部誠が相手FWをブロックしながらGK川島に処理を任せようとして、連係ミスが起きたが、それは最終予選アウェーのイラク戦、後半27分の失点を思い起こさせる。GK川島と吉田麻也の間で、一瞬お見合いになり、マフディ・カミルにボールを突かれて失点した場面だ。

 それについては、川島と吉田の間では、すでに解決した様子が見られ、ガーナ戦でもスイス戦でも、吉田は浮遊したボールをハッキリと、迷いなくクリアに行っていた。しかし、西野ジャパンでは3バックを含めて人選が変わったため、今度は長谷部との間で、ぎりぎりのカバー判断がうまくいかず、イラク戦と同じような問題が現れてしまった。

 ビルドアップと、スペースカバー。監督交代により、戦術やシステム、人の並びが変わった影響は、間違いなくGKにも及んでいる。

チーム戦術とのズレと、世界レベルからの逆算

 今のチーム戦術では、川島に不向きな部分があるのは確かだろう。しかし、その対案として、東口や中村への交代がベストチョイスかと言えば、それも微妙だ。ビルドアップに関しては、東口も川島と同じような難点はある。中村については、短くパスをつなぐ分には安定するが、ロングキックの精度と飛距離が足りない。ハイプレスをかけられた場合、自陣に一方的に押し込まれる危険がある。

 そして、それ以上に気になるのはクロス対応だ。パラグアイ戦の前半に先発した東口は、キックオフ直後に左サイドからクロスを蹴られるシーンがあったが、飛び出すのをやめ、クロスはゴール前を横切った。中村も後半2分、同様にクロスへ飛び出さず、ボールがゴール前を横切った。距離、コース、強さを考えると、GKが反応できないボールではない。結果的に相手アタッカーは届かなかったが、どちらも危険なシーンだった。

 行っていない。だから、ミスは起きていない。しかし……。

 こうしたボールにアグレッシブに飛び出し、相手のシュートチャンスを未然に潰すのが、川島のスタイルだ。それは現在の欧州で、スタンダードとされるGK像でもある。クロスに限らず、スルーパスやドリブルに対しても、相手の足からボールが離れた瞬間、川島は猛烈にアタックしてボールをもぎ取る。GKにとって、いちばん大事な仕事はゴールを守ることだが、近年はそれに留まらず、シュートを打たれる前に潰すプレーにも力点が置かれるようになった。それはドイツ代表GKマヌエル・ノイアーから始まった革命とも言える。

 クロスやスルーパスに飛び出し、未然にチャンスを潰すためには、相手にぶつかりながらでもボールを遠くへはじくために、パワーやボディーバランスも必要になる。前任者はGKにフィジカルの強化を求めてきたが、極めて重要なポイントだ。

 また、ハリルホジッチは、GKがゴール前で存在感を出すことも要求していた。この“存在感”とはつまり、最強のディフェンスであるGKが、ゴール前では誰よりも先にボールに触る、ということ。待つGKではなく、攻めるGK。この要求を満たすのが、川島だった。

 川島は確かに、2つの親善試合で不安を感じさせるミスを犯した。しかし、それはアグレッシブにチャレンジしたからこそ、起きたミス。行って失敗したなら、次は判断を修正することが可能だ。逆に、東口と中村の“行かなかったプレー”は、あまり注目されない。

 確かに中村はシュートストップに定評のあるGKだが、果たしてそれだけで、世界レベルのFWに通用するのか。そこには限界があり、止め切れないからこそ、現代GKは未然にシュートを防ぐアグレッシブな方向に進化してきたと、個人的には感じている。

 東口はパラグアイ戦の前に、「世界基準のレベルを肌で感じて、対応しなければいけない」と語った。まさにその点だ。これでワールドカップを戦えるのか。ワールドカップは何を要求してくるのか。コロンビア、セネガル、ポーランドは、何を突きつけてくるのか。東口と中村の経験値では、世界のレベルから逆算できるのか否か、その点が不透明だ。

 ガーナ戦とスイス戦は、チームが変化の過程にあり、川島としても頭でプレーしなければならない部分は大きかったはず。その点がクリアになれば、世界基準のプレーを知るGKをスタメンから外す理由はない。

 しかし、それがうまくいかないときは……。懸念されるチーム連係の部分は、改善するのか? 川島は次のように語る。

 

「全員の共通認識を上げていくしかないですし、“前向きになる”というのは、ただ単に自分たちの問題を見ないで笑顔でいることではないし、常にいろいろなことに向き合わなければいけない。今、自分に求められるのは、言葉ではなくプレー。こういう状況の中で自分に出来るのは、チームを後ろから支えていくことだと思う」

 

 言葉の端々に、葛藤がにじむ。コロンビア戦で100%の川島を出せるのかどうか。あとは近くで見ている、西野監督が判断することだ。

 これまでのワールドカップの試合を見ると、どのチームもGKの活躍が目覚ましい。スーパーセーブで勢いに乗ったGKがいるチームが、結果を手に入れている。そう言っても過言ではない。日本代表はどうなるか―。

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サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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