玉虫色に抱く不安。西野監督とハリルホジッチ監督の決定的な違い

ガーナ戦のメンバー発表会見より(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

クラブと代表では、監督の仕事は根本的に違う。

クラブは最初から、選手のグループが決まっている。そのグループを決めるのは、主に強化ディレクターの仕事。その一方、代表チームでは、監督自らが“選抜”を行う。対象者は1000人を超えるJリーガー、あるいは海外クラブの選手たち。その中から、わずか20数名のグループを選び出す。それは代表監督の最も大切な仕事だ。

1000人を超える対象者には、すぐに選ばれる可能性はゼロでも、将来的に日本代表に入るポテンシャルを持った選手もいる。そんな選手を含めて、全員が代表監督のメッセージに耳を傾けている。そして、学ぶわけだ。「そういう選手が評価されるのか」と。ファンも知る。そういう基準で集められた選手とチームを、自分たちは応援するんだと。

だからこそ、代表監督に求められるコミュニケーション能力は、チーム内のインタラクティブな対話に留まらない。一方通行の“メディアスピーチ”でも発揮されなければならない。

就任会見やガーナ戦のメンバー発表会見で、西野朗監督のスピーチを聞いたが、一言で言えば、わかりづらかった。話が回りくどい。論理構成ができていない。

中島翔哉の落選について、話したくだりが典型だ。

「ポルトガルリーグで非常に結果を出した選手ではあります。ただ、彼は1年間ポリバレント(多価)ではなかったですね。同じポジション、多少は違うポジションでも見ていましたけれども。そのポジションは日本代表の中で一番リストが膨らむ、成果を出しやすいポジションでもあると思います。そういうバランスの中で、今回は選出しませんでした」

この西野監督のコメントは、「中島はポリバレントでないから落選した」と受け取られた。そして、合宿初日のトレーニング後に、再び説明している。

「全員がポリバレントでなければいけないと言ったわけではない。(中島は)ポリバレントでないから外したと言ったわけではない。競争の中で、選択肢の中で選ぶことができなかったということ」

ポリバレント性の欠如を指摘しておきながら、次の機会には、ポリバレントでないから外したわけではない、と。説明が右往左往している。

面倒な言い回しばかりだが、よくよく聞けば、大したことは言ってない。大事なことは、最後の一文だけだ。他の選手をより高く評価した。それだけのことだ。

左ウイングは原口元気、乾貴士と、通常2人の枠がすでに当確クラスの2人で埋まっている。では、中島が他のポジションを兼ねつつ、3人目で名を連ねる可能性はあるのか。その点でも宇佐美貴史が、今季クラブでは右サイドでプレーしており、西野監督は宇佐美を買った。つまり、中島より上位であると西野監督が評価した選手が、どのポジションにも2人以上いた。だから起用の機会がなく、中島を選ばなかった。それだけのことだ。

ポルトガルリーグで2桁得点のベストイレブン受賞者よりも、イングランド、スペイン、イタリア、ドイツなどの世界トップリーグ、あるいはワールドカップでプレー経験がある選手が上位に来たリスト。環境的な実績を重視しており、岡崎慎司や青山敏弘の選出も、その軸にある。

というより、自分の眼で世界基準に合う選手かどうかを判断したハリルホジッチとは違い、西野監督の場合は、その見極めができないので、環境ベースの実績で個人を評価するしかなかったのではないか。

ポリバレントだの、スペシャルだのは、どうでもいいこと。どのポジションの起用でも、他の選手に対して中島が下回った。そう評価した。それだけのことだ。納得はしないが、理解はできる。

それにしても、こんな簡単なことを、西野監督が必要のない外来語「ポリバレント」を持ち出したため、かえって難解になり、ファンやメディアを混乱に引きずり込んだ。もっとシンプルに論理構成して伝えられないものか。

中島云々に限らず、西野監督の言葉は、玉虫色ではっきりしない。聞いていて、ストレスを感じることばかりだ。

シンプルで強かった前任者のメッセージ

それは前任者との対比かもしれない。ヴァイッド・ハリルホジッチのスピーチは、話は長くとも、いつも明快だったからだ。

クラブで出場機会がない選手は呼ばない。体脂肪率がオーバーした選手は呼ばない。縦の意識、相手の裏を突くことが大事。デュエルで戦うことが大事。メッセージがストレートで、伝わりやすかった。コミュニケーション不足で解任した監督が通訳を介して話したメッセージのほうが、自国出身の監督よりも、はるかにわかりやすいとは。皮肉なものだ。

どうすれば日本代表に選ばれるのか。ハリルジャパンでは、選手たちも基準がわかっていたはず。だからこそ、Jリーグはデュエルの意識が上がり、縦パスの比率が増え、それがデータにも表れた。正しい競争があったのだ。ハリルホジッチはシンプルで強いメッセージにより、代表メンバーの土壌を作り出したわけだ。

その一方、強いメッセージは揚げ足を取られやすい。たとえば、クラブの出場機会。欧州ビッグクラブで出場機会を失ってコンディションに不安があるからといって、地力に差のある選手を、公式戦で起用するのはリスクが大きい。実際にハリルジャパンでは、クラブで出場機会を失った時期の本田圭佑や、川島永嗣を起用したこともあった。

このような基準に反する起用をすれば、間違いなく突っ込まれる。「言っていることが違う」と。もちろん、基準外のイレギュラーケースが起こるのは当然のこと。しかし、そんなことは、誰もが理解するわけではない。シンプルに言えば言うほど、イレギュラーに揚げ足を取られるリスクは上がる。

だが、そんなリスクを、ハリルホジッチは少しも恐れていなかった。いつも退路を断ってストレートに話すので、相手にしっかりと届く。メッセージにパワーがあった。

「Aではあるが、Bのケースもあり、Cでないとも限らないし、Dの可能性もある」

こんな話し方では、メッセージが弱すぎる。たとえ状況を正確に描写したとしても、誰にも届かない。誰にも影響を与えない。「Aだ」とシンプルに言い切れるのが、ハリルホジッチだった。彼はそうやって、選手の土壌を作り出した。

代表監督のスタンダードを知る彼が、どのように3年の指揮を執ってきたのか。なぜ、競争が行われたのか。なぜ、ザッケローニ、アギーレの時代に進まなかった世代交代が、ハリルホジッチで一気に進んだのか。次の監督は日本人が有力だとか、そんな話を進める前に、ハリルホジッチの戦略を検証したほうがいい。良かったことは継承すべき。しかし、その立場にいたはずの西野監督が、玉虫色の発言で混乱を巻き起こしており、まったく、不安しかない。

とはいえ、このメッセージの曖昧さが、当面の日本代表で大きな問題になることはない。もう間もなく23人のグループは固まる。選考終了だ。その後の3週間は、代表がクラブチームと同様になる。西野監督のスピーチが下手でも、固まったチーム内でコミュニケーションを取るだけなので、目先のW杯は問題ない。

不安視されるのは、ロシア後だ。

結果によっては西野監督を留任させる可能性もあるようだが、今の玉虫色のまま、4年も代表チームを率いるのは荷が重い。いい加減に、この「結果によっては」という文言を外してくれないだろうか。短期決戦の3試合など、運次第でどうとでも転ぶ。勝とうが負けようが、適性のある人は続けさせればいいし、ない人は交代させたほうがいい。「結果によって」なんて、長期的視点を持つべき日本サッカー協会からは、いちばん聞きたくない言葉だ。ビジョンの無さは、行き当たりばったりの判断を生む病巣だ。