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ハリルホジッチを激怒させた要因は、田嶋会長の”コミュニケーション”

清水英斗サッカーライター
ハリルホジッチ氏と田嶋会長(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 元日本代表監督となったヴァイッド・ハリルホジッチの来日から、1週間が経過した。あらかじめ設定されていた記者会見は、明日27日16時から行われる。

「ハリルホジッチは往生際が悪い」とか「お金目当てに来た」とか、心無い報道も散見されるが、そもそも、この状況は日本サッカー協会の田嶋幸三会長が招いたものであることは、強調しておきたい。

 私はスペインで、ある指導者を取材したとき、こんな話を聞かせてもらったことがある。

 あるスポーツの日本代表選手がスペインで指導を受け、プレーの最中に大きなミスを犯した。すると、その選手は、指導者のところへ行き、「すみません!」と謝罪。それに対して、スペイン人の指導者は激怒したそうだ。

「すみませんとは何だ! それで終わりか! そんな言葉で、お前はミスをごまかそうとするのか! ちゃんと説明しろ!」

 彼らの感覚では、失敗の理由をしっかりと説明もせず、「すみません」で済ませる行為は、不誠実そのものだ。だから激怒した。

 思い返すと、ハリルホジッチもこの3年間、「言い訳のハリル」と言われることが多かった。しかし、何か失敗したときに、その理由を説明するのは、監督としては当然の責務。それを避けるほうが、彼らの感覚としては不誠実だ。実直な性格のハリルホジッチなら、なおさらである。だから彼は説明によって責任を果たしてきたが、それは日本的な感覚によって、「言い訳」「見苦しい」と受け取られてきた。

 一方、田嶋会長はどうだったか。解任を説明した記者会見から引用する。

「直接言ったときの状況で言えば、やはり(ハリルホジッチ氏は)ビックリしていたというのが僕の印象です。まさか、このことを言われるとはということで、多少動揺もしたし、怒りもあった。それも事実です。

どうしてなんだと、理由も含めて聞かれたのも事実です。ただ、あれがあった、これがあった、何があったというのを羅列するつもりはありませんでした。

事実として契約を解除するということを伝え、もちろん選手とのコミュニケーションが足りないというのはお伝えしましたが、実際には総合的ないくつかのことがあるのは事実ですけども、辞めていただく方を傷つけるというよりは、私たちはそこでしっかりと、もう線を引いたということをお伝えすることが大事だと思い、今のようなことを伝えました」

 線を引いたと伝えるだけ。理由を羅列しない。「辞めていただく方を傷つけるというよりは」と言って、説明責任を果たさない。だったら、何のためにフランスまで行ったのかよくわからないが、このような態度こそが、彼らを激怒させる要因そのものだ。この不誠実な対応では、ハリルホジッチの怒りを買ったのも無理はない。ひたすらダメ出しを食らわせるほうが、よっぽど彼らは納得できるだろう。田嶋会長の”コミュニケーション”は、まずいものだった。結局、ハリルホジッチは不透明に過ぎる解任の理由を求め、憤りと共に来日している。

 外国人監督を招聘するからには、彼らの文化を知り、受け入れる覚悟が必要だ。その上で、存分に手腕を発揮してもらわなければならない。しかし、その適応の覚悟が、日本サッカー協会になかったことは、図らずも田嶋会長の一連の対応で明らかになった。そして、サッカー協会は新たな体制を『オールジャパン』と命名し、次の代表監督にも、日本人を望んでいる。

 ハリルホジッチが就任してからの3年間、Jリーグはデュエルの激しさが増し、縦パスの割合が増えた。これはデータ上でも示されている。そのほか、厳格な規律、若手の抜てき、大胆な戦術、選手への強烈なプレッシャーで競争をあおることなど、日本人監督ではなかなか出来ない刺激があった。

 ハリルホジッチに限らず、ザッケローニやアギーレも外国人監督として、異文化からの刺激を与えてきた。しかし、それももう終わる。日本サッカー協会は、より居心地の良い鎖国へと舵を切るからだ。もちろん、クオリティーの高い指導者の競争の中から、「ぜひこの人に!」と世論が一致するような日本人の代表監督が出てくるのは喜ばしいことだが、今回の流れは違う。外国人監督に対するアレルギーが表れただけ。学びと刺激を捨てた、ネガティブな消去法だ。とても良い判断とは思えない。日本サッカーを憂う。

 その前に27日、ハリルホジッチが会見で何を語るか。注目してみよう。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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