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「ひとりだけ違う絵を描いた」と語る酒井高徳の苦悩。本田圭佑が果たすべき仕事は、そこにある

清水英斗サッカーライター
日本対ウクライナ。酒井高徳とコノプリャンカ(写真:ロイター/アフロ)

キリンチャレンジカップ、日本代表対ウクライナ代表は、2-1でウクライナが勝利を収めた。

酒井高徳にとっては、厳しい試合だった。前半16分のオウンゴール未遂は、クロスバーに救われたが、対面する10番のFWコノプリャンカに対し、多くの場面で背後を取られてしまった。

さらに後半24分、酒井高は自分が守る右サイドをドリブルで突破され、2点目の失点に絡んでしまった。試合後、次のように振り返っている。

「前半は飛び込んでしまうことが多かったので、後半は飛び込まない、ということを意識して対峙しました。ただ、2失点目のところ。飛び出してはいなかったけど、(相手に)ついて行くところでスライディングをしてしまった。ディフェンスが地面に倒れる形を取ると、攻撃側が有利になってしまうので、先に行かれたとしても、我慢して走って追いつくことが大事でした。だけど、そこは自分の悪い癖で。今日は好き勝手やられたので、自分は反省しかないと思うし、せっかく良い戦いをした中で、失点につながってしまったのは申し訳ないと感じます」

ウクライナは強かった。このレベルの相手と戦ったからこそ、浮き彫りになる守備の課題が、個人もチームもたくさん見つかった。

そして、もう一つ。酒井高は攻撃面についても興味深いことを語っている。

「今日は正直に言うと、各シチュエーションで自分がボールを持ったとき、ロングボールを蹴るときもそうですけど、組み立てのところで、今来てほしいところで(味方が)来なかったり、あるいは向こうが今はほしくないというところでパスを出したり、すべてのアクションにおいて、今日はみんなと一人だけ違う絵を描いちゃってるな、という感覚がすごく強かったです。それがどうしてなのかは、もうちょっと見ないとわからない。僕の中では、明らかにここに来てほしい、ここに来るだろう、というイメージで出したのに、違うところに動いていたり、違うタイミングだったり。技術的に修正しなければいけないところはあるけど、みんなと攻撃を共有できたかというと、自分だけが違う絵を描きすぎたかなと思っています」

「違う絵」の理由は何か?

なぜ、酒井高は「違う絵」を描いてしまったのか。その理由はいくつかあると思う。

まず、自分自身がわかりやすいミスを犯しすぎて、リズムに乗れていなかった。シンプルだが、大きな要因だ。

もう一つは、隣りのセンターバックに吉田麻也や昌子源ではなく、植田直通が起用されたことにも影響があるのではないか。植田はアグレッシブなインターセプトなど、守備では良いところを見せたが、ビルドアップに関しては、まったく貢献がなかった。

前線に蹴ったロングボールはほとんどつながらない。中盤に出したパスはほとんどインターセプトされる。結局、出したパスの先は、隣りの酒井高か、あるいは引いてきた本田圭佑ばかり。ウクライナはそこに強くプレスをかけることを徹底した。植田から前にパスが出ない以上、その責任を逃れるような横パスを受けた酒井高が追い込まれ、余裕を失うのは当然だ。

また、酒井高はもう一つ、前回のマリ戦を振り返って、興味深いことを語った。

「あの試合は決して50%とか60%とか、手を抜いてプレーしたわけではないけど、日本は相手をリスペクトしすぎたり、味方の状況に合わせてしまったり、そういう習性がある。自分たち発信で試合ができない。それが日本のウィークなところ(弱点)かなと感じていて。自分もそうだし。マリ戦はそれが大きく出てしまったのかなと」

マリ戦は、日本の各選手がフリーでボールを持って考える時間が多く、時間があるだけに、いろいろなことを考え、各自の判断が暴走した面もある。マリが50%や60%のリズムだったとしても、日本がハイテンポを作り、100%に引きずり込むような試合ができれば、消化不良にはならなかったはず。

ウクライナ戦も、逆の意味で似ている。こちらは、相手の120%に引きずり込まれた。超過スピードになれば、連係も技術もミスが起きやすいのは当然だ。酒井高から中央の杉本健勇や柴崎岳、あるいは山口蛍らに出したパスは、多くの場面でミスになった。あのような場面は「違う絵」を描いたというより、ウクライナのプレッシャーを受け、超過スピードにさせられたこと。それが本当の要因ではないか。100%でプレーするのがちょうどいいのに、無理に120%でプレーさせられている。だから、タイミングが合わなかった。技術的なミスも起きやすかった。そういうことではないか。

マリ戦とウクライナ戦は、ゲームスピードが全く違う試合だった。それは日本によって作られたものではない。相手のリズムに、日本が合わせただけだ。

日本の攻撃は単調とか、変化がないと言われることもあるが、そもそも自分たちでリズムを作ることができない。だから、相手のリズムに合わせてしまう。ちょっとここ、速くしてみよう。ちょっとここ、遅くしてみよう。そんな駆け引きがない。その点で遠藤保仁は、まさに名手だったが。

はみ出し者に、その価値がある

その意味では、本田が面白いプレーをしている。

もちろん、右ウイングとして、ハリルホジッチが要求する裏への動きが足りていないのは、確かだ。これから点を取りに行く!という後半19分のタイミングで、久保裕也に交代させられたのは、その典型的な現象だ。

しかし、本田はボールを収めている。ウクライナが「取る!」と寄せてきたタイミングで、奪わせず、ボールキープして味方につなぎ、いなしている。このように相手のリズムを壊し、自分たちのリズムを作ることができる選手は、唯一、本田だけだ。本田を経由したときだけ、120%のゲームスピードが、100%以下に落ちた。そのことに「助かった」と感じた選手は、長友佑都だけではないと思う。

もし、このプレッシャーの鋭いウクライナに対し、しかもディフェンスラインで選手が代わって同じ質を出せない状況にある日本に、本田のタメがなかったら、一体どうなっていたのか。ボールの逃しどころが、どこにもなく、さらに壊滅的な試合になったのではないか。「違う絵」どころか、何も描けなかったかもしれない。

明らかに本田は、ハリルジャパンのメインストリームではない。しかし、このチームの選手ができないこと、やらないこと、あるいは意識していないことを、体現できる選手でもある。

たとえば、エネルギッシュな対戦相手の攻撃を、60分受けとめ、残り30分に賭けるための布石のスタメン。

ベンチスタートだとしても、日本が先制した後、逃げ切りを図る一手として投入したり、あるいは相手のセットプレーの守備に弱点を見つけたら、数少ない左利きとしてキッカーに起用したり。メインストリームではないが、無いものがあるのも、本田だ。

このチームのはみ出し者。しかし、本田は23人に入るべき重要な選手だ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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