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香川先発も、ルールダービーはスコアレスドロー。岡崎、清武、香川に共通する悩みとは?

清水英斗サッカーライター
写真はCLスポルティング戦の香川真司(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

29日に行われたシャルケとのルールダービー。ドルトムントの香川真司は先発出場し、後半34分に2枚目の交代カードでベンチに退いた。試合はスコアレスドローに終わっている。

決定的なゴールやアシストに絡むわけではない、近ごろの香川のプレー内容に、物足りなさを感じる人は多いかもしれない。現在の香川は、セカンドストライカーと言うよりも、中盤の組み立てにおいて役割を果たすようになった。

ドルトムントの攻撃は、中盤の底を務めるMFユリアン・ヴァイグルが中心になる。この選手がたくさんボールを受け取り、素早く展開することで、ドルトムントの攻撃はエンジンがかかる。

一方でその特徴は、相手チームもよくわかっている。今回のルールダービーに限らず、ヴァイグルを厳しくマークし、組み立てを制限する対戦相手は多い。そこで重要になるのが、香川の働きだ。香川がヴァイグルの脇のスペースに下がり、プレッシャーを避けてパスを引き出すことで、敵陣にボールを運ぶためのルートを複数生み出す。

これは、かつてのバルセロナにおける、シャビ・エルナンデスの役割に近い。中盤の底でセルヒオ・ブスケッツがマークされたとき、シャビが下がってボールを受け取り、縦に運ぶ。それと同じ役割を、香川は果たしている。10番のプレースタイルではなく、8番や6番に変化している現状だ。

この状況は香川の希望というより、今のドルトムント、つまりトーマス・トゥヘル監督が求めたものになる。

ドルトムントは、両サイドにウスマン・デンベレやクリスチャン・プリシッチ、アンドレ・シュールレといった個のアタッカーを備えている。彼らを生かすために、中盤は足下へのパスを安定供給しなければならない。

試合を決定付ける、質の違いを見せる、といった話も、まずはチームに要求されるプレーをしっかりとこなした上での話だ。その意味で、ルールダービーの香川は、少なくとも及第点と評価できるパフォーマンスだった。

しかし、ドルトムントの競争は、質が高い。及第点のままでは、チームにとって欠かせない選手とは言えない。今回はゴンサロ・カストロの筋肉系のトラブルもあり、出場機会が回ってきたが、ベストメンバーが組まれた場合、今の香川はベンチに回る可能性が高い。

香川がチームのために働きつつ、個でも違いを見せること。それは相反するアイデアではないが、そうは言っても、自分の身体は一つしかない。ヴァイグルの脇と、ゴール前、その両方に都合良く分身することはできない。

いつ、そこにいるべきか。どこで、個の強みを出すのか。

岡崎、清武、香川。みんな同じ壁に立ち向かっている

今季のチャンピオンズリーグ出場クラブに所属する、岡崎慎司と清武弘嗣、そして香川。実は3人共、似た環境にある。

エイバル戦の後、9月18日付けのブログに清武が記した文章は、印象的だった。

「自分自身は1アシストをしましたが、もっとゴールに絡まないといけないし、もっとゴールに向かう姿勢を出さなければと思います。まだ少しだけ迷いがあるかな。笑 迷いながら自分を探して、地位を確立していかなければいけない現状。自分がどうやったら生き残れるか! チームにとっての自分の役割は? でも自分を出したいという欲もある。んーサッカーって難しいけど、面白い。奥が深いスポーツです!笑」

清武はセビージャでの序盤戦、精一杯に走り回ってチームのために働き、出場機会を得ていた。しかし、チームプレーで評価を得つつも、個人でプラスアルファの印象を残すには至らず。その後はサミル・ナスリの加入、さらに代表ウイークの離脱もあり、戦力外に近い苦境に立たされた。

チームプレーに徹しつつ、自分の存在感も示す。レベルが高いチームでは、その両方を発揮できる選手が多く、厳しい競争にさらされる。

一方、今シーズンの岡崎も、ゴールという個の欲求と、チームのために働く献身性の狭間で苦しんだ。FWがチームプレーで試合に出ていても、それだけでは絶対的な存在とは見なされない。やはり、点を取った人は王様だ。最終的にストライカーは結果を残さなければ、試合によって、展開によって、ピッチに立ち続けることが難しくなる。

それを充分に理解する岡崎だったが、そのチャレンジに行けば、クラウディオ・ラニエリ監督から、ミドルシュートを打つ姿勢に苦言を呈された。お前にそんなことは期待していない、と言わんばかりに。岡崎も、チームに必要とされるプレーと、自分の意欲の狭間で、揺れた。その後、前節のクリスタル・パレス戦で「人生を変えるようなゴール」を決め、トンネルの出口が見え始めたが、それはレスターのチーム状態が良くない事情もあっただろう。

香川はどうだろうか。

ドルトムントも、リーグ戦は4試合勝利なし。最近は負傷者が多く、チームは下降している。存在感を示すなら、今が絶好のチャンスだ。

ルールダービーの香川に、決定的な仕事をする意志が足りなかったとは思わない。特に、ドルトムントが一方的に押し込んだ後半は、組み立ての負担が減った香川が、ゴール前へ走り込み、この伝統の一戦の立役者になろうとする意志が強く感じられた。

美味しいセカンドボールがこぼれても、おかしくないポジションを取ったが、この日の香川には届かなかった。しかし、これはやり続けるしかない。

もう一つ、この現状を香川が一変させる上で、鍵を握る選手は、1トップのエメリク・オーバメヤンではないだろうか。

この選手は、常に相手ディフェンスラインの裏へ抜け出すチャンスを伺っている。足下と見せかけて、裏へ行く素振りを見せたり、外へふくらんだり、オフザボールの駆け引きを常にやっている。

このエースの動き出しを生かすパッサーとして、いちばん巧さを見せているのがデンベレであり、あるいは負傷前のラファエル・ゲレイロだろう。それを香川がもっと狙って行けば、評価は変わってくるはず。その質も充分に備えている。たとえば、サイドに振り分ける際に、ときには、意表を突くような中央へのノールック気味のスルーパスを。そんな”違い”を見せる香川を、個人的には容易にイメージできるのだが。

監督の要求と、個の上積み。香川はどうやって実現するのだろうか。厳しい声が多い昨今だが、私はこれからも香川に期待して行く。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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