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大人になった手倉森ジャパン。リオ五輪でメダルを獲るために、克服するべき2つの課題

清水英斗サッカーライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

AFC U-23選手権(リオ五輪最終予選)の決勝、日本は韓国に2点リードを許しながらも、後半途中から3点を奪うゴールラッシュで、試合をひっくり返した。

67分に浅野拓磨、68分に矢島慎也、81分に再び浅野。

後半も半ばを過ぎてから、3点もラッシュして勝つなんて、そんな馬鹿なことがあるはずはない……いや、そういえば、あった。

思い出されるのは、2009年に行われた日本代表対オランダの試合だ。といっても、ラッシュされた記憶だが。

テンポの良いパスワークと、積極的なプレッシングで、日本は現地ファンからも「美しい!」と褒め称えられた試合内容で、前半からオランダを攻め立てた。しかし、決定機自体は、それほど多くなく、日本の運動量がガタッと落ちてくると、69分にファン・ペルシー、73分にスナイデル、87分にフンテラールにゴールを決められ、0-3で大敗している。

当時オランダの選手たちは、「あのハイペースでは持たない。日本が落ちることはわかっていた」と試合後にコメントしたが、今回の決勝では、日本の選手や手倉森誠監督が「韓国が終盤に落ちてくることはわかっていた」と口々に言っている。

すばらしいゲームマネージメント。いつの間にか、大人になったものだ。ボールを蹴るのがうまくなったわけではない。サッカーをプレーするのがうまくなった。

あのとき岡田ジャパンがハマった『魔の60分過ぎ』。その落とし穴を、日本が掘る側に回ったことは、ひとつの成長と言える。

サッカーが90分間の駆け引きであることを、これほどうまく利用できた日本の代表チームは、あまり記憶にない。浅野のジョーカー戦術を確立させたのは、Jリーグ王者のサンフレッチェ広島であり、その点では森保一監督に足を向けて寝られない。

4年前のロンドン五輪では、堅守速攻をベースとする関塚ジャパンが4強に進出したが、そのスタイルの中心である永井謙佑や大津祐樹はスタメンで出場しており、途中から試合の流れを変える力に欠けた。同じことは、南アフリカW杯の岡田ジャパンにも言える。

岡田ジャパンや関塚ジャパンのように、堅く守ってカウンタースタイルの日本代表は、技術やパスワークを押し出したジーコジャパンやザックジャパンよりも、大きな結果を残してきた。今回の手倉森ジャパンは、ゲームマネージメントとターンオーバー(入れ替え)という新たな長所もある。リオ五輪が俄然、楽しみになってきた。

重要な課題は、18人ターンオーバーと守備の改善

ただし、今のままでは本大会を勝ち進むことはできない。

手を付けるべき最も重要な課題は、守備戦術だ。

韓国のように2-0とリードしながら、後半の終盤にあれほどのカウンターを許すチームなど、本大会にはいないと考えるべきだ。リスクオフで守備を固められれば、浅野カウンターの威力は半減してしまう。試合の展開上、少なくとも0-0で『魔の60分過ぎ』を迎えたいところ。

そこで韓国に2点を先行されたシーンを振り返ると、日本の守備連係のまずさが、浮き彫りになる。

前半20分の失点場面、最初に隙を作ったのは中島翔哉だった。

右サイドをオーバーラップする相手サイドバックに対し、クロスを上げさせないようにスライディングタックルでブロックを試みたが、あっさりとかわされた。この無茶なタックルで相手がフリーになり、7番のムン・チャンジンは余裕を持ってサイドチェンジ。日本の守備が崩された。

間に合わないのなら、中島は寄せるだけで構わない。タイミングが限定されるので、仮にクロスを蹴られても、跳ね返す中央のDFは対応しやすい。スライディングタックルはかなりリスクが大きい守備であり、本来は、それ以外にどうしようもないような相手の決定機でのみ、使用されるべきだ。

そして、サイドチェンジへの対応も良くなかった。

右サイドバックの室屋成が行くべきか、右サイドハーフの矢島が行くべきか、迷った。ポジション的には室屋が近いので、素早く室屋が寄せ、矢島がカバーに下がればいいのだが、連係はうまくいかず、遅れて矢島がゆっくりと寄せて行った。その結果、韓国が楽々とクロスを入れることになり、日本は中央のマークも遅れて、先制ゴールを許した。

後半2分の2失点目も良くない。

日本は攻撃に転じるところで、再びボールを奪われ、“カウンター返し”を食らう格好になった。サッカーでは、最も危険なシーンのひとつだ。

左センターバックの植田直通がサイドに釣り出され、空いたスペースへ8番のイ・チャンミンが飛び出す。中盤の底にポジションを変えた遠藤航が少し遅れてついていくが、そこへ、右センターバックの岩波拓也まで、自分のマークを捨てて行ってしまった。

岩波が行って遠藤がスペースカバーに下がる、という選択肢もあるが、それが有効になるのは同サイドのケース。右センターバックの岩波が左サイド側まで張り出すというのは、考えられない。無茶に過ぎる。その結果、中央にぽつんと1人残された右サイドバックの室屋は、1対2の数的不利をどう対処することもできず、股抜きシュートを決められてしまった。2失点目は岩波の責任が大きい。

これらの場面に限らず、日本はセンターバックとサイドバックの間に隙があり、韓国はそのギャップへの飛び出しを常にねらっていた。2失点で済んだのはラッキーだ。

ターンオーバーと個別のコンディショニングを重視した手倉森ジャパンでは、守備連係の構築があまり進まなかったのではないか。メンバーが固定されない故の弊害。そういう側面もあるはずだ。

とはいえ、ターンオーバーが引き続き、本大会の重要ポイントになることは間違いない。このU-23アジア選手権と同じく、リオ五輪の本大会も、ほぼ中2日の過密日程が組まれているからだ。しかも、抽選でB組に入れば、アマゾン地域の街、マナウスでの試合になる。長距離移動の疲労は避けられない。

成功したターンオーバーを、23人から18人に狭まった五輪の登録メンバーで実践しつつ、さらに、今回露呈した綻びの多い守備を改善できるか。短期大会で大切なのは、一にも二にも守備だ。

この2つの課題をクリアすれば、メダルは獲れる。このチームなら。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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