選手とクラブのマッチングサイト『PLAY MAKER』は、日本のクローゼを生み出すかもしれない

PLAY MAKER記者会見より

ドイツ代表のエースストライカーとして長らく活躍したミロスラフ・クローゼは、もともと7部リーグの選手だった。

1999年、『1.FCカイザースラウテルン』のリザーブチームに引き抜かれたが、当時も大工として働きながら、サッカーを続けた。その後、プレーが認められ、2000年に同クラブのトップチームからプロデビュー。

大工だったクローゼが、ワールドカップの得点王に輝いたのは、それからわずか2年後のことだった。2002年の日韓大会で、5得点すべてをヘディングで挙げたクローゼは、ロナウドらを抑えて得点ランクのトップに立ち、ドイツ代表の準優勝に貢献。その後もエースストライカーとして活躍し、2014年ブラジル大会では、ついにワールドカップ優勝を成し遂げた。最初に7部リーグと出遅れた選手が、歴史に名を残すレジェンドになったのである。

クローゼほどのシンデレラストーリーは、稀有なケースだとしても、ここで注目すべきは、選手にたくさんの選択肢が用意されたサッカー環境だ。

ドイツに限らず、欧州の多くの国では、いきなりトップクラブから声がかからなくても、下部リーグに所属して実力を磨くことができる。あるいは、最初からプロ一本にかけるリスクを避け、手に職を持ちながら、5部や6部の選手として、月に数万の収入を得ながら、副業としてサッカーを続ける道も一般的だ。それこそ、大工とサッカーを両立したクローゼのように。そうやって彼らは、豊かなサッカー人生を築いているし、また、そのベースがあってこそ、ワールドカップ得点王を、草の根から生み出すことができた。

このようなストーリーが、日本でも聞かれる可能性があるかといえば、現状は「ゼロ」と言わざるを得ない。

高校や大学のサッカー部に所属した選手たちは、Jクラブから声がかからなければ、ほとんどが「引退」という言葉と共に、サッカーをすっぱりやめてしまう。セカンドチャンスにつないだり、仕事と両立して続けるといった選択肢が、極めて少ない。

もっとも大きな問題は、情報がないことだ。

日本にもクラブチームは増えてきたので、「GKが欲しい」「背の高いFWが欲しい」といった要望はある。その際、サッカーと両立する仕事の斡旋を行うこともできる。しかし、一般的な就職情報サイトに、このようなサッカー選手の募集は載らない。関係者がクラブとのコネクションをつないでくれない限り、高校生や大学生たちは、自らの人生設計にサッカーを加えることを想像できず、大半がすっぱりと諦めることになる。

一方、ドイツの場合は、下部リーグにもエージェント(代理人)がいる。くすぶっている選手を見つければ、彼らがクラブへ売り込む。そして実績を残せば、再びステップアップできるのだが、このような代理人は、日本の地域リーグや都道府県リーグにはいない。豊富なセカンドチャンスを与える環境が、日本は整っていないのだ。

なんと、もったいないことか。ここに、どれだけのロスがあるのか。

「サッカー選手に+1の選択肢を」

地域リーグでプレーした選手として、「(こんなシステムを)自分が欲しかった」と語る三橋良太は、選手とクラブのマッチングサイト『PLAY MAKER』を立ち上げた。

これは、ひとことで言うなら、サッカー選手とクラブチームの出会い系サイト。お互いの情報を登録し、「こんなプレーができます」という選手と、「こんな選手が欲しい」というクラブを引き合わせる。そこから練習参加やセレクション、契約に至る部分は、当事者同士で進められる。

『PLAY MAKER』は、コネクションがなければサッカーを続けられない環境を、インフラ化し、双方に出会いのメリットをもたらす。ドイツでは下部リーグの代理人が発掘しているセカンドチャンスを、このサイトが担うというわけだ。

運営責任者である三橋氏によれば、声をかけたほとんどのクラブが賛同し、すでに9チームが登録済み。男子サッカーだけでなく、女子サッカーや、フットサルも対象としている。

一方、選手の登録については審査制となる。誰も彼もが登録して、サイトの質を落とさないため、ひとりずつチェックしてアカウントを付与することを、運営努力として行う。

審査の条件は「ざっくりしていますが、上のカテゴリーを目指す志のある選手。プロフィールをしっかりと埋め、自己PRできること。礼儀と志を持って、自分の夢を追える選手であれば使用できる、という審査をさせていただきます」とのこと。つまり、選抜歴などはマストではない。

また、このサイトの重要な特徴は、選手に限らず、指導者やフロントスタッフ、トレーナー、カウンセラー、栄養士、ホペイロなども登録の対象としていること。

このような専門職は、選手以上に小さなコネクションに頼らざるを得ない現状があり、ともすれば、選手以上にありがたみのあるシステムかもしれない。

『PLAY MAKER』のアドバイザーを務めるサッカーコンサルタントの幸野健一氏は、「日本がFIFAランク10位以内に行くのに、何が必要か? 日本でJFAに登録している選手の総数は96万人。ドイツは人口が8000万人で、670万人のサッカー選手がいる。ドイツは特別多いが、ベスト10に入る国は、総人口に対するサッカー人口の割合が、明らかに日本より大きい。A代表のようなトップのサッカーを強化することはもちろん大事だが、それ以上に、アマチュア選手の数を増やすボトムアップのほうが大事という答えを、私は見つけた」と語る。三橋氏から『PLAY MAKER』の構想を聞いたとき、「ピンときた」そうだ。

スポンサー企業のひとつとして名を連ねる、ユーロプラスインターナショナルも、この試みに賛同する。サッカー選手の留学や、海外チームの斡旋を行っている同社にとって、海外から戻ってきた選手の受け皿が日本に整わない状況では、「事業を進めていくのも難しい」と、取締役COOの辻研一氏は語る。

同じくスポンサー企業で、サッカー選手のエージェント業務を行うジェブエンターテイメントの代表取締役、田邊伸明氏も次のように語る。

「(PLAY MAKERが)どんどん発展していくと、僕らの仕事がなくなるという、面白い関係にある。J1や代表クラスの選手がステップアップするクラブを見つけるのは、正直、そんなに難しい話じゃない。でも、クビになったり、0円提示された選手に、次のチームを見つけるのは大変です。そこに、ものすごくエネルギーを注いでいるが、その選手が契約できる条件ではエージェントに手数料を払うのが難しい、といったビジネスと相反することも多々ある。これを解消するポテンシャルが、PLAY MAKERにある」

サッカーを続けられるなら地方でも何処へでも行きたい、という選手はたくさんいる。仕事と両立したい、という選手もいる。今までは、そうした願いが成就する可能性は低かったが、この『PLAY MAKER』が軌道に乗れば、日本のサッカー環境は大きく変わるだろう。

いつか、日本のクローゼが生まれる日が来るかもしれない。