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「なぜ、日本の選手は英語でインタビューに答えないんだ?」

清水英斗サッカーライター

10月14日にシンガポールで行われたブラジル代表との国際親善試合。日本代表はネイマールに4得点を許し、0-4の完敗を喫した。

この試合に大差で敗れたことも悔しかったが、それ以上のショックを受けた出来事もある。それは試合前日、『アジアサッカー研究所』が開いたメディア交流会の場で、シンガポール人記者の一言によってもたらされた。

「なぜ、日本の選手は英語でインタビューに答えないんだ?」

11日にはブラジル対アルゼンチンの『スーペルクラシコ』が北京で行われた。そして14日にはシンガポールで日本とブラジルが対戦。ブラジルにとって今回のアジア遠征は、世界のサッカーを大きく潤す『アジアマネー』を獲得するための興行の意味合いが強い。

もちろん、それは現時点で「アジア最強」とされる日本代表にとっても同じこと。ただし、日本とブラジルで事情が大きく異なるのは、我々にとってアジアは同じ地域の仲間であるということだ。彼らは年間を通して、国際大会やワールドカップ予選で相まみえる対戦相手であり、日本にとっては互いに切磋琢磨するべき存在である。つまり興行と競技の両面において、日本はブラジル以上にこの試合の意義が大きいと言える。

そのような状況において、シンガポール人記者から聞かされた前述の言葉は、実に耳の痛いものだった。

彼らの話では、ミックスゾーンで英語インタビューに答えたのはGK川島永嗣とFWハーフナー・マイクの二人のみ。今回は吉田麻也が負傷のために招集されていないが、海外遠征の際には、川島や吉田が外国人記者に対するスポークスマンのような役割を果たしている。今回、シンガポール人記者たちは、他の選手にも話しかけたが「No English, sorry」と断られてしまったそうだ。(もちろん全員に話しかけたわけではないが)

話したくない理由は個々にあるだろう。英語力に自信がない、あるいは拙い英語で話したことが曲解されて広がることを恐れる、といった考え方もある。中学と高校の6年間で英語を学びながらも、実際の場で話せないという状況は、サッカー選手に限らず、多くの日本人に共通している。

あるいは、選手たちは集まってきた日本の報道陣に気を使い、優先してくれたのかもしれない。だが、個人的なスタンスにはなるが、そういうときには「先に現地メディアに英語で答えるので少し待ってください」と言ってくれれば、それで全く構わない。ほとんどの記者は同意するだろう。

シンガポール人記者たちは、「アジア戦略を成功させるための最大の鍵は、言語だ」と断言する。

スポークスマンたる川島にしても、別に難しい英語を話しているわけではない。中学生レベルの文法や単語を使い、場数を踏むことでコメントに慣れている印象だ。今年は本田圭佑もACミラン入団時の記者会見に英語で臨んでいるが、それも川島と同じようなレベルだった。他の選手との違いがあるとすれば、川島や本田はアグレッシブに外国語を話そうとしている。それだけだ。

シンガポール・ナショナルスタジアムに訪れた観客の様子を見ると、現地ファンの中にも、日本代表のユニフォームを着る人の姿がたくさん見られた。

日本代表の選手たちは、試合が終わると必ず、日本のサポーターグループに近づいて感謝のあいさつをする。今回のブラジル戦の後も同様だ。しかし、この日のナショナルスタジアムで日本代表に拍手や声援を送ってくれたのは、日本人だけではない。もし、彼らに対する感謝の気持ちがあるとすれば、現地メディアを通して自分の言葉で伝えるべきではないだろうか。

セルフプロデュースの意識が高い個人競技の選手の場合、現地メディアに自分の言葉で伝えようとする姿勢は珍しいことではない。「No English, sorry」は、ある意味ではチームスポーツでこそ起こりやすい、組織への逃避行動とも言える。自分がやらなくても、川島がやってくれる。それでいいのだろうか。

流暢な英語など誰も求めてはいないから、ミスを恐れずやってほしい。そうした姿勢を打ち破ることこそ、昨年に本田が語っていた『個』の成長であり、ひいてはサッカーの競技力アップにつながる。そう信じて、この原稿を書いた次第だ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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