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歴史的勝利なるか? ブラジル戦で注目するべき4つの勝敗分岐点

清水英斗サッカーライター

本日14日、シンガポールでサッカー日本代表対ブラジル代表の国際親善試合が行われる。過去に何度も対戦してきたブラジルだが、A代表の成績に限れば、日本は3分け8敗と一度も勝利したことがない。(1996年アトランタオリンピックで1-0の勝利を収めた『マイアミの奇跡』は、U-23の五輪代表)

日本代表の歴史的な初勝利に向けて、この試合で注目するべき4つのポイントを挙げる。

1.コンディション面で日本が優位も、ピッチはブラジルに味方か

北京で行われたアルゼンチン戦から中2日で臨むブラジルと、新潟で行われたジャマイカ戦から中3日で臨む日本。サッカーの世界において、中2日と中3日の勝率の違いは、中3日と中4日のそれよりも大きくなる。コンディション面では日本が優位と言っていい。

その一方、日本を悩ませるのは、試合会場となるナショナル・スタジアムのピッチ状態だ。森重真人曰く、「固い砂がまかれたゴルフのバンカーのようなピッチ」とのこと。でこぼこの箇所もあり、イレギュラーも予想される。

「(アルゼンチン戦の会場となった)中国のピッチが悪くても、ブラジルは質の高いドリブルをしかけていた。今回のピッチも相当悪いですけど、ブラジルにとっては関係ないなと。おれは今海外でやっているので、そういうピッチは多い。下手なトラップミスやキックミスが出ないようにしないといけない。ひとつのミスで相当な距離を運ばれたりするので、気をつけます」(田中順也)

前監督のザッケローニが、「ホームでは良い試合をするのにアウェーになると途端にパフォーマンスが落ちる」と悩み続けた原因のひとつには、このようなピッチの違いが挙げられるだろう。日本の選手は総じて手入れの行き届いたピッチで育っているが、海外のアウェーに行くと、必ずしもそうではない。その中でも“普通に”プレーできる選手と、そうでない選手のパフォーマンスは大きく分かれるだろう。それはアギーレが今後のアジアでの戦いに向けてチェックしたい項目のひとつかもしれない。

2.本当に怖いときのブラジルは“堅守速攻”

攻撃的なチームとして知られるブラジルだが、パスをつないで攻めるフェーズでは、それほどの大きな脅威はない。むしろ、この王国が本当の怖さを思い知らせるのは、相手にパスを回されて自陣に引き、そこからカウンター主体の攻撃を繰り出す“堅守速攻”の地合いに移り変わったときだ。

「アルゼンチン戦を見たけど、ドゥンガ監督らしい堅い守備ブロックと、前線の個を生かした速い攻撃が明らかに出ていた。そこは警戒しなきゃいけない。間違いなく、うちが引いて守る時間もあると思いますし、それは本当に、相手がじれるまで耐えるしかないし、その中から1点を取って、1-0とかの試合に持っていかないと、現時点での日本はそういう戦い方になってくるんじゃないかと思います」(田中)

ブラジルが明らかにカウンターをねらっている場面で、ザックジャパンの場合はそこを突き破ろうとするようなチャレンジがあった。しかし、アギーレジャパンでは、相手が手ぐすね引いて待つような誘いには乗らず、じりじりと粘り強く、逆に相手を焦れさせるような戦いに持ち込むことが予想される。攻撃的なメンバーを並べたジャマイカ戦から6人の交代を宣言したことからみても、より守備やバランス重視にシフトする可能性は高い。

このゲームプランが功を奏するのか、それとも破綻するのか。ブラジル対抗策として、今後の試金石になりそうだ。

3.ワールドクラスの個を止める

ブラジルの速攻において、特に脅威になるのはドリブルだ。このチームには1人で長い距離を運べる選手が多い。たとえばJリーグならば、ディフェンスに追いつかれた時点でドリブルからパスに切り替えるような場面でも、ブラジルの選手の場合は並走してくる相手を引きずるように、これでもか、これでもかと、さらに運び続ける推進力がある。

「横に並んで走ってもスピードで行かれたりするので、縦に入ったり、相手のスピードをまず止めるところを意識しないといけない。それは本当に集中力としか言いようがないですね」(田中)

ゴリゴリと押し入っていくようなドリブル。これに好き放題にやられているうちは、日本の勝利は見えてこない。

また、ドゥンガ監督が就任した新しいブラジルは、堅い守備ブロックをベースとする一方、前線の流動性は高まっている。その中心にいるのはセンターフォワード、ジエゴ・タルデリだ。この選手が中央に留まらず、広く動き回ってスペースを作ることで、2列目のネイマール、オスカル、ウィリアンらも自由に攻撃に絡んでくる。ディフェンスとしては非常につかまえづらいところだが…、

「(ブラジルは)流動的にポジションを固定せずに来ると思うんですけど、フリーにするとパスもドリブルも能力が高い選手が多いので、誰がボールに行くかハッキリして、そのほかの選手に誰がつくか、しっかりコーチングして、ハッキリさせながらやれたらいいかなと思います」(塩谷司)

また、塩谷はブラジルのシュートの特異性にも警戒を強める。

「シュートのタイミングとか独特だと思うんで、自分が今までにやってきた間合いではやられると思う。それよりも、もう一歩詰めるディフェンスができたらいいかなと思ってます」(塩谷)

4.王国のプライドを傷つける覚悟はあるか

もしも日本のゲームプランがうまくはまり、1-0、あるいは0-0で終盤を迎えたとする。

ここで我々が覚悟しなければならないのは、王国のプライドを傷つけることで、「日本なんかに負けてたまるか!」と、それまで眠っていた猛獣を起こし、本当に怒らせてしまうような時間帯がやってくることだ。おそらく、彼らは勝つためにはどんなことでもやってくるだろう。それこそ、アギーレが日本代表に求める“ずる賢さ”の要素も含めて。

「当然ブラジルからすれば、日本に負けるというのは、ただの失態でしかない。実際、ドイツの同じチームの選手たちも、A代表ではないですけど、(マイアミの奇跡で)日本に負けたことに関して、“ただの失態のひとつだ”くらいのことは言ってきます。そういうことを言われたら、日本代表の選手としてはやっぱり悔しいというのはある。どうにかしてでも、という気持ちは強いですね」(細貝萌)

王国のプライドを傷つける覚悟はあるのか。終盤はその気持ちの強さが試される。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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