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メキシコ戦は3-4-3で勝利するべきだ

清水英斗サッカーライター

日本のコンフェデレーションズカップ2013は、まだ終わってはいない。消化試合になってしまったが、現地時間の22日(日本時間の23日早朝)にはメキシコとの第3戦が待っている。

日本はこの試合に、どのような目的を持って臨むべきか? 

ザッケローニ監督は前日会見で否定したが、僕は、3-4-3システムを用いて戦うべきだと考えている。とはいえ、必ずしもスタートから使う必要はない。むしろ最初は慣れ親しんだ4-2-3-1で試合に入り、流れを見ながら途中で3-4-3に変えて、リズムチェンジするような展開がよい。

僕がそう考える理由は二つある。一つ目は、実戦で使えるレベルに習熟度を高めたシステムを増やすためだ。今回、改めてその必要性を感じたのがイタリア戦だった。

イタリアが用いたシステムは、クリスマスツリー型と呼ばれる4-3-2-1。ザックジャパンの4-2-3-1システムと対戦すると、スタートポジションでお互いにフリーになる選手が多い。つまり、お互いのシステムが『かみ合いづらい関係』にある。ここがポイントだ。

日本がイタリアに対して攻勢だったのは、かみ合いづらく、お互いにフリーになりやすい関係の中で、前線の前田遼一、本田圭佑、香川真司、岡崎慎司の4人がイタリアのフリーな選手に素早くプレスをかけ続け、逆に攻撃時には、フリーになった遠藤保仁や長谷部誠が自由にプレーしてボールを動かすことが出来たからだ。

(この辺りのシステム論を詳しく述べると長文になるので割愛する。著書『サッカー観戦力が高まる ~試合が100倍面白くなる100の視点~』で解説しているので参考にして頂きたい)

日本は全員が運動量を上げてお互いをサポートすることで、『かみ合いづらい関係』を日本有利に引き寄せることに成功した。

ブラジル戦を思い返してほしい。1対1の球際のぶつかり合いにさらされる場面が増えると、日本はフィジカルの弱みを見せてしまう。これでは試合を有利に進めることはできない。『運動量』と『かみ合いづらいシステム』の相乗効果により、イタリア戦のように球際の場面を出来るだけ減らすことが、日本の長所を生かすことにつながる。

そのためにはシステムのオプションを増やし、『かみ合いづらい関係』を意図的に作り出せるチームの駆け引きが不可欠になるのだ。

その手段として、ザッケローニ監督の3-4-3が最適なのかどうかはわからない。しかし、オプションを増やす必要があるのは明白であり、3-4-3は現状のシステムとは特徴が大きく異なるので、オプションとしての価値は高い。2011年アジアカップや2010年南アフリカの岡田ジャパンが用いた中盤の底にアンカーを置く4-3-3システムと共に、3つのシステムを使いこなすことは、ワールドカップ優勝を目指す上で絶対に必要になる。

そして、3-4-3システムを用いるべき二つ目の理由は、同じく消化試合となったアジア最終予選の最終戦、アウェーのイラク戦に対する不満からだ。

正直、あの試合の目的は未だによくわからない。イラクは高い位置からプレスをかけてきた。アウェーの環境、ピッチコンディション、いろいろな要素を含めて、日本が安全にロングボールを蹴ったことは通常の試合では間違いではないかもしれない。しかし、そういう対戦相手にこそ、日本は自陣でもしっかりとボールをつないで時間を作り、『大人のサッカー』をするための実戦的トレーニングをして欲しかった。

もし、その能力があればイタリア戦でも、もっとボールロストを減らし、ゲームを支配し、4失点を2失点くらいに減らせたのではないだろうか。

ブラジル戦もそうだ。早々と日本からリードを奪ったブラジルは、ボランチのグスタボをディフェンスラインに下げて、3バック気味に変化してボールを支配した。1トップと本田が2人でプレスをかける日本は、前線のプレスがはまらず、ブラジルにのらりくらりとゲームを支配された。たとえば日本が3-4-3に変えて、前線の3枚がブラジルのディフェンスラインの3枚にぴったりプレスをはめるくらいのリスクを負ったチャレンジが出来れば、もっと内容は違ったのではないだろうか。

しかし、日本が試合を動かせなかった結果、ブラジルのポゼッション率は63パーセントにまで伸びた。他方、ものすごく魅力的だったにもかかわらず、イタリア戦における日本のポゼッション率は55パーセントに過ぎない。

この8パーセントに、大人のサッカーと子どものサッカーの『差』が潜んでいる。そのためにも、日本はシステム上のオプションをたくさん用意し、その過程で戦術理解度をより高めなければならない。

メキシコ戦は負けてもいい、などと言うつもりは毛頭ない。しかし、消化試合なのだから、勝ち方にこだわっても構わないだろう。

繰り返すが、別にスタメンから3-4-3である必要はない。むしろ、途中から3-4-3に変更するほうが、より実戦的になるという考え方もできる。

「3-4-3」と聞くだけでアレルギー反応を起こす人もいるかもしれない。まだパフォーマンスが上がっていない戦い方なのだから当然だろう。裏を返せば、3-4-3は日本にとってそれだけの異物であるということだ。今は苦しくても、思い切って使いこなしたときに得られるものも大きい。

ここでは、あえて3-4-3を「試す」「テストする」という言葉は避ける。3-4-3で必死に戦い、メキシコから勝ち点3を奪う。そのチャレンジをしてほしい。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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