消費税は、日本では、消費税法において、地方消費税に回すほかは、年金・医療・介護・少子化対策のいわゆる社会保障四経費に充てる「社会保障目的税」とされています。

第一条

2 消費税の収入については、地方交付税法(昭和二十五年法律第二百十一号)に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。

消費税法(e-Gov法令検索

では、なぜ、諸外国では例を見ないにもかかわらず、消費税が「社会保障目的税」とされているかと言えば、財務省によれば、

国民が広く受益する社会保障の費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合い、社会保障の安定した財源を確保する観点から、消費税を社会保障の財源としています。また、税収が景気の変化に左右されにくく安定していることも消費税の特徴です。

(出典)日本の財政を考える「12 社会保障費を賄うのになぜ消費税なのか

との理由からだそうです。

実際には、消費税はなぜか蛇蝎のごとく嫌われ、様々な理由から拒否感が根強くあるのも事実です。社会保障にカネがかかるからと言っておいそれとたやすくは引き上げることは難しそうです。

しかし、政治的な合意を得るのが難しいからと言って、このまま社会保障に伴う財政赤字を放置しておくのでは、財政の持続可能性がいつ怪しくなるとも分かりません。

逆に言えば、財政の持続可能性が誰の目から見ても危機的な状況に陥って初めて財政健全化が民意の多数を占めるようになるのかもしれませんが、「遅かりし由良之助」という最悪の事態になっては元も子もありません。

本記事では、財政の持続可能性確率を90%から10%ポイント刻みで10%まで外生的に与えたうえで、(1)財政再建せずとも逃げ切れた場合の各世代の生涯純税負担率、(2)運悪く逃げ切りに失敗し財政「破綻」した場合の各世代の生涯純税負担率、(3)財政再建を実行した場合の生涯純税負担率に基づいて、現在生きている世代がすべて消費税の引き上げに賛成する消費税率と財政の持続可能性確率の組み合わせを考えてみます。

生涯純税負担率とは、世代会計という手法を応用して求められ、生涯負担額(一生涯の所得税や消費税等の税負担及び医療保険料、年金保険料や介護保険料等の社会保障負担)から生涯受益額(主に生涯に受け取る年金等の社会保障給付であり公共サービスは含まない)を控除して定義される生涯純税負担額(=生涯負担額-生涯受益額)を生涯所得で除したものです。

なお、ここでは便宜的に財政再建として消費税率の10%ポイント、15%ポイント、20%ポイント引き上げを考えていますが、消費税率10(15、20)%ポイント相当規模の財政再建策であれば、以下で見る結論に影響はありません(消費税率1%は2兆円ほどですから、それぞれ20兆円、30兆円、40兆円ほどの規模となります)。

試算結果によれば、消費税率を20%に引き上げる場合、財政の持続可能性確率が60%以下であればすべての現在世代が財政再建を支持、消費税率を25%に引き上げる場合、財政の持続可能性が30%以下であればすべての現在世代が財政再建を支持、消費税率を30%にまで引き上げる場合、財政の持続可能性が10%以下であればすべての現在世代が財政再建を支持することが示されました。

表1-1 消費税率20%・財政持続可能性確率90%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)
表1-1 消費税率20%・財政持続可能性確率90%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)

表1-2 消費税率20%・財政持続可能性確率60%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)
表1-2 消費税率20%・財政持続可能性確率60%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)

表2-1 消費税率30%・財政持続可能性確率90%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)
表2-1 消費税率30%・財政持続可能性確率90%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)

表2-2 消費税率25%・財政持続可能性確率30%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)
表2-2 消費税率25%・財政持続可能性確率30%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)

表3-1 消費税率30%・財政持続可能性確率90%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)
表3-1 消費税率30%・財政持続可能性確率90%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)

表3-2 消費税率30%・財政持続可能性確率10%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)
表3-2 消費税率30%・財政持続可能性確率10%(筆者試算)((3)の右端の欄がマイナスの数値の場合、現状の財政路線より財政再建の方が負担が軽減されることを意味するので、財政再建に賛成)

以上から、財政再建の規模が小さくて済むのであれば、財政がそれほど危機的な状況にならなくても全員一致で財政再建を承認するのに対して、例えば、現在の日本のように財政再建が大規模にならざるを得ない場合、財政が深刻な状況になって初めて財政再建を支持する(裏を返せば、財政破綻寸前まで財政を放置する)ことになるのです。

要するに、財政再建への賛成・反対を、世代別に見れば、高齢な世代ほど、財政再建の規模の大小にかかわらず財政再建を指向するのに対して、若い世代ほど、財政再建の規模が大きくなるほど財政再建を拒否し、ギャンブル的な財政運営を指向することになります。

つまり、そして財政破綻寸前まで財政を放置するインセンティブは若者世代ほど強いのです。

まとめると、なるべく多くの賛成を得て財政再建を進めるには財政再建の規模を小さくし、かつあらかじめ財政「破綻」処理の内容を提示しておく必要があること、つまり、運悪く財政が破綻した場合に備えて、どういう順序付けでどの歳出をどの程度まで削減するのか、「財政トリアージ(優先順位付け)」を、事前に示しておけば、国民は自分が課せられる追加的な負担(もしくは給付の削減)の大きさが可視化されるので、賛成するにしても反対するにしても、財政再建に対して合理的な判断が下せるようになるのだと思います。

現代の日本には、「財政は破綻しないのだから破綻した際のことを考える必要はない」との意見が蔓延しています。あるいは、「いまは財政再建を考える時期ではない」との意見もあります。しかし「土地神話」や「原発の安全神話」が突然崩壊したように、財政もいつ破綻するかは誰にも分かりません(財政が破綻する日時が確定しているのならば、今現在破綻してしまいます)し、私たちの都合を忖度してくれるわけでもありません。

「いつ破綻するか分からない」のと「破綻しない」は同値ではないのです。「備えあれば憂いなし」、「財政が破綻する・しない」に関わらず、危機管理のイロハとして財政破綻への備えは平時から準備しておくに越したことはありません。

さらに言えば、財政が破綻するか否かにかかわらず、若いほど負担が重く、高齢なほど負担が軽い深刻な世代間格差を是正するためにも財政や社会保障の再構築が必要なのです。

現状では、万が一にでも不幸にして財政が破綻するようなことがあった場合の対処策が示されていません。しかし、財政赤字や政府債務残高の現状から判断すれば、一朝事あれば、財政再建の規模が大きくならざるを得ないことが推察されます。

加えて、「弱者」とみなされがちな高齢者は政治的に守られ(そのうえ「シルバーデモクラシー」の存在!)、ツケを払わされるのが自分たち若者であることに薄々気が付いているのですから、現在の国民の多く、特に、若者が、一か八か、例え分が悪くても、ギャンブル的な財政運営に運命を託したとしても全く不思議ではないのです。

高齢者が財政再建を好むのは自分たちが作ってきた債務を他の世代にも負担させたうえで、自分たちに手厚い健全な財政と社会保障を温存できるからです。

一方、若者があわよくば逃げ切りたいと望むのは、上の世代が作った債務は上の世代がなんとかすべきで、財政再建で自分たちが上の世代よりも多くの負担を負わされるのは理不尽だと思うからです。

しかしそうは言っても、財政破綻にまで至り、グレートリセットされてしまえば、確かに上の世代にも相応の負担を負わせられるものの、自分たちの負担も(財政再建)より重くなるので、逃げ切りが無理だと悟れば、財政再建に乗っかることになるのです。

ですから、若者たちはグレートリセットは望んではいないけれども、なるべく財政再建は後回しにしたいので、財政破綻寸前まで行けるところまで行こうというチキンゲームをプレイしているとも言えるでしょう。

但し、若者たちがチキンゲームがプレイできるには、正確な情報にアクセスできることが大前提です。財政の持続可能性確率や財政再建の規模が分からなければ、無謀なチキンゲームに挑み、最悪の場合、本当は望んでいないグレートリセットに至るかもしれません。

結局、日本国民が財政再建に消極的なのは、日本の財政がまだそれほど切羽詰まった状況にあるようには見えない(財政の持続可能性確率が不明)のと、財政破綻した場合の負担増がハッキリしない(財政トリアージが示されていない)からだと言えるでしょう。