ポストコロナの日本財政を考える

(提供:Paylessimages/イメージマート)

財政が未曽有の規模で拡大しています。3度にわたる経済対策で財政規模が膨らんだのと、経済低迷による税収減(そもそもの当初予算での税収見積もりが過大だったわけですが)とが相まって、2020年度の歳出総額は175.7兆円、新規国債発行額は112兆円超となるものと見込まれています。

第3次補正予算案の全容判明 国債の新規発行額は112兆円余に(2020年12月14日 18時55分 NHK)

これまで最大だったのはリーマンショック時の2009年度の52兆円でしたから、その2倍超にまで膨らむ計算です。

新型コロナ禍に対処するため政策的に経済を止めるのですから、国民の生活を下支えするために財政出動は欠かせないとはいうものの、赤字国債への依存が強まれば、より若い世代の負担が増える一方となるわけですので、新型コロナ禍が一段落した時点で、今後の財政のあり方を検討し、若い世代の負担増加を少しでも減らす努力が必要だと思います。

なお、「赤字国債は国民の資産なので負担ではない」との主張もあります。この主張の意味するところは、直感的に言えば、日本の国内で国債発行が行われている限り、誰かの負債は誰かの資産なので、足し合わせてみれば、プラスマイナスゼロという理屈です。まぁ、この理屈で言えば、政府の増税でわたしたちの所得が奪われても、日本全体で見れば、プラスマイナスゼロなので問題ないということになるハズなのですが、あまりそういう主張をされる方はいらっしゃいません。それはさておき、日本国民があまねく国債という資産を保有しているのであれば、同一主体同士での貸し借りですから、この主張はその通りなのですが、通常、全国民が国債という資産を保有しているわけではありませんから(一般的に、金融資産をより多く保有するのはお金に余裕のあるお金持ちですし、金融資産を保有する余裕のないのは貧乏な方です)、確かに、日本国内で見たお金の総量は変化ないかもしれませんが、個人の視点で見れば、負担が発生している人がいるわけです。より正確に言えば、お金持ちが購入した国債で賄われた政策の利益を貧乏な方も受けたのであれば、個人視点で見ても負担は発生していないと言えるでしょう。しかし、赤字国債の場合、(根拠のない)60年償還ルールの悪用で、現在の政策の費用負担を、現在の政策の利益を受けない60年後の子供や孫たちが負うことになっています。まさに、この仕組みこそが、国債が若者の負担となる元凶なのです。しかも、周知の通り、日本では少子化が進んでいますから、時間の経過とともに、わたしたちの子や孫が負担する金額は重くなってしまいます。例えれば、孫のクレジットカードでショッピングをしているようなものです。現実はさらに醜悪で、1975年に本格的に赤字国債が発行されて以降、実質的に45年にもわたって孫にお金をたかり続けているのです。つまり、世代間格差(不公平)の構図です。

先日の後期高齢者医療制度の窓口負担の引き上げ(「75歳以上の窓口負担2割では足りない。社会保障と税の一体改革を急げ!」)もそうした世代間格差是正策として解釈できます。

また、いまは財政赤字を出したとしても(つまり新規国債を発行したとしても)、「景気が回復すればその分経済が成長して税収が増えるので問題ない」と主張する方々もいらっしゃいます。しかし、その幻想はIMF(国際通貨基金)が公表している「循環的財政赤字(財政赤字のうち景気に連動して増減する財政赤字)」と「構造的財政赤字(財政赤字のうち循環的財政赤字を取り除いた財政赤字)」の内訳を見れば一目瞭然です。

図1から明らかなように、日本の場合、財政赤字の大半は構造的財政赤字です。つまり、景気が良くなったからといって、財政が急に好転することはないのです。もっと踏み込んでいえば、景気が回復するだけでは、日本の巨額な財政赤字が消えることはありません。

図1 循環的財政赤字と構造的財政赤字の推移
図1 循環的財政赤字と構造的財政赤字の推移

要するに、わたしたちが、孫のクレジットカードでの買い物をやめようと思えば、一念発起、今までの行いを心の底から悔い改めて、歳出を減らすか、増税するか、あるいはその双方を同時に行うしか手段はないのです。

では、現実はどうなっているでしょうか?

図2は、1969年から今年に至るまでの、一般会計歳出対名目GDP比(%)の推移を示しています。「ご利用は計画的に」というCMがありましたが、債務のすべてが悪いわけではありません。所得水準に見合ったものであれば、問題はないのです。そこで、日本の政府の債務が日本の所得であるGDPとの対比で見ることにするのです。

図2 一般会計歳出対名目GDP比(%)の推移
図2 一般会計歳出対名目GDP比(%)の推移

この図からは、

(1)バブル崩壊以降、経済危機を経験するたびに財政規模は拡大し、(2)危機が去った後も、高止まりが続いている(転位効果)。しかも、(3)元の水準に戻る前に次の経済危機が訪れ、やはり財政規模が拡大し、(4)財政規模の拡大幅は経済危機を経るごとに大きくなっている

ことが分かります。

なお、それぞれの経済危機時の財政規模の拡大幅は下表の通りです。

表 経済危機時の財政拡張幅
表 経済危機時の財政拡張幅

まとめると、バブル崩壊以降の日本財政の歴史は、経済危機を口実に財政を膨張させ、歳出削減する努力を行わないまま、次の経済危機に際しては、これまで以上に財政を膨張させているのです。

確かに、1997年、2014年、2019年の3度にわたって消費税は引き上げられましたが、税収が増えたら増えただけ(場合によっては増えた以上に)歳出に回してきた結果が、図3のような赤字国債の積み上がりということになるのです。

図3 赤字国債残高の推移
図3 赤字国債残高の推移

筆者たちが行った計量経済学的な検証の結果では、こうしたいわゆるピーコック・ワイズマンの「転位効果」が現在の日本財政において厳密に成り立っていることが示されましたから、これまでの傾向を踏まえれば、今回の新型コロナ禍をきっかけとした財政膨張が今後も高止まったまま維持されることが見込まれます。

さすがに、2021年度も100兆円を超える新規国債発行を続けるのは無理だと思いますが、遅くとも来年10月までには第49回衆議院議員選挙も予定されていますので、有権者受けを狙った大盤振る舞いが続く可能性も捨てきれません。

よく、「財務省はオオカミ少年だ。財政が破綻する破綻すると、ずっと言い続けているのにオオカミ(財政破綻)はいつまでたってもやってこない」と指摘されます。

確かに、財務省はオオカミ少年なのかもしれません。それはわたしには分かりません。しかも、問題は、財務省がオオカミ少年かどうか、財政が破綻するか否かではありません。

財政再建の必要性(この場合は、世代間の受益と負担のリバランスともいえるかもしれません)は、財政が破綻するしないにかかわらず、子や孫への負担の先送りを削減していくことにこそあるのです。

そのためには、新型コロナを口実とした、政治や財界、国民からの不必要な財政拡張圧力を排し、第3次補正まではなかったことにするゼロベースからの査定を財務省にはお願いしたいと思いますが、さて、どうなるでしょうか?

まぁ、「補正と翌年度予算を一体で編成する「15カ月予算」は10年連続」(「15カ月予算」緩む歳出 3次補正案21.8兆円、決定 査定甘く「抜け穴」拡大 2020/12/16付 日本経済新聞 朝刊)となっていますし、財務省原案もほぼ出来上がっているでしょうから、すでに勝負はあったのかもしれませんが...。