麻生財務大臣の特別定額給付金批判が時期尚早だと思う理由

(写真:アフロイメージマート)

麻生太郎財務大臣の特別定額給付金に対する批判が、ネットで批判されているようです。

麻生財務相「10万円給付、貯金に回った」発言に怒り殺到! 「あんたからもらったカネじゃない」「政治家辞めて!」(J-CASTニュース 2020年10月28日07時00分)

確かに、内閣府経済社会総合研究所「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」を見ると、2020年4-6月期の家計貯蓄は同年1-3月期から急増して80.1兆円、貯蓄率では23.1%と、1-3月期からそれぞれ+55.5兆円、+15.3ポイント増えています。

図1 家計貯蓄の推移((出典)内閣府経済社会総合研究所「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」により筆者作成)
図1 家計貯蓄の推移((出典)内閣府経済社会総合研究所「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」により筆者作成)
図2 家計貯蓄率の推移((出典)図1に同じ)
図2 家計貯蓄率の推移((出典)図1に同じ)
図3 家計貯蓄額(対前期差)の推移((出典)図1に同じ)
図3 家計貯蓄額(対前期差)の推移((出典)図1に同じ)

この点、麻生財務大臣のご発言には誤りはありません。

ところで、なにが貯蓄を急増させたのでしょうか?

4-6月期の貯蓄急増を要因分解してみると、麻生財務大臣がご指摘のように、貯蓄の増加額55.5兆円のうち、確かに、特別定額給付金、持続化給付金、家賃支援給付金などが含まれる「その他の経常移転(純)」が+39.1兆円と大きく寄与しています。

しかし、一方で、家計がロックダウン中、消費らしい消費もできず、また、将来の先不透明な中、消費を切り詰めるなどした結果、「家計最終消費支出」(の削減)が+24.9兆円と貯蓄を押し上げています。

さらに、所得が減少すれば、消費水準を維持するために貯蓄に回せるおカネも減ることから、「雇用者報酬」(の減少)が▼11.6兆円、貯蓄を押し下げていることもわかります。

図4 家計貯蓄額(対前期差)の要因分解((出典)図1に同じ)
図4 家計貯蓄額(対前期差)の要因分解((出典)図1に同じ)

つまり、貯蓄の増加は、特別定額給付金等の影響もあったわけですが、消費の切りつめによる影響も一定程度あったと指摘しなければバランスを欠くでしょう。

しかも、貯蓄をする余裕のある人は何のために貯蓄を行うかといえば、それは将来の万が一の事態(失業など)に備えてなのですから、新型コロナ禍で冬のボーナスの減少が確実視され、今後の所得も減らされることはあってもしばらくは増えないことなどを勘案すると、一人当たり10万円の特別定額給付金をゲットしたからといって、即座にそのおカネを使うことは考えられないでしょう。

特別定額給付金10万円を天から降ってきたボーナスのように、何のためらいもなく使えるのは、年金が比較的多めに貰える(かつて高給取りだった)高齢者や資産家だけなのではないでしょうか?

経済学では、所得は景気変動などで凸凹するのに対して、消費はそれほど凸凹しない(というよりも消費水準を大きく変動させることをわたしたちは嫌う)と考えています。わたしたちは、支出先や支出額を大まかに決めているので、所得のその時々の景気循環的な変動に対して、急に消費を大きく調整することは困難だからです。

今回の新型コロナ禍のように、イレギュラーな所得の落ち込みが今後も続けば、特別定額給付金のような一時金は、その所得の落ち込みの埋め合わせに回し、消費水準を何とか維持していこうとすることになるでしょう。

つまり、今貰った定額給付金は今貯蓄に回ったとしても、今後の所得の落ち込みを補う形で消費に回されていくものと考えられるのです。今年の4-6月期といえば、政策的に経済をロックダウンしていた時期ですから、特別定額給付金の10万円をもらっても消費らしい消費もできず、また、将来の先行き不透明な中、消費を切り詰める人も多いので、貯蓄が増えるのは当然です。

したがって、今の時点で多くが貯蓄に回ったからといって特別定額給付金に意味はなかったと判断するのは時期尚早であり、今後、所得が減るなかで消費を下支えするために、特別定額給付金が貯蓄から消費に回されることはほぼ確実であろうと考えます。

ただし、7-9月期は、まだ気分的にはロックダウンな時期でありましたし、そもそも特別定額給付金の支給も大都市ほど続いていたわけですから、やはり貯蓄の増加が観察されるものと思ってもいます。

対前期で見て(したがって、水準が新型コロナ前に戻るわけではありません)、所得の減少の割には消費が減らないか、消費が増えはじめるのは(GoToトラベルに東京も加わった)10月以降であり、その頃から特別定額給付金の効果が表れるものと思います。

なお、蛇足を承知で申し上げれば、特別定額給付金が本当の意味で貯蓄としてブタ積みされ、その政策に意味がなかったことになるのは、新型コロナ禍の影響から一瞬のうちにV字回復し、いままでと同じ所得水準や雇用、企業業績が復旧する場合だけだと思います。ですから、フライング気味でブタ積み批判されるよりは、わたしたちが安心して特別定額給付金をブタ積みさせられるほど強力で効果的な経済政策を実行して欲しいと申せば、ないものねだりになってしまうでしょうか?

※テクニカルな注

今回使用した内閣府経済社会総合研究所「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」、いわゆる国民経済計算(SNA)体系では、家計には個人企業も含まれますので、特別定額給付金だけではなく、持続化給付金なども含まれる点には留意が必要です。