失業を嫌悪するよりも、失業しても安心して生活できる社会を実現すべき

(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

失業が自殺者を増やすとされています。

実際、経済・生活問題を苦にして自殺した方と失業率の関係を図1で見てみますと、正の相関が存在することが分かります。

図1 自殺者数と失業率の関係((出典)厚生労働省「自殺統計」、総務省統計局「労働力調査」をもとに筆者作成)
図1 自殺者数と失業率の関係((出典)厚生労働省「自殺統計」、総務省統計局「労働力調査」をもとに筆者作成)

やはり、失業を減らすことが自殺者を減らすことにつながるわけですから、政府は雇用の維持を最優先すべきと言えそうです。

次に、図2をご覧ください。図2は経済・生活問題を苦にして自殺した方と日経平均株価の関係ですが、負の相関が存在することが分かります。

図2 自殺者数と日経平均株価の関係((出典)厚生労働省「自殺統計」、日経平均プロファイルをもとに筆者作成)
図2 自殺者数と日経平均株価の関係((出典)厚生労働省「自殺統計」、日経平均プロファイルをもとに筆者作成)

それでは、日経平均株価を維持することが自殺者を減らすことにつながるわけですから、政府は日経平均株価の吊り上げを最優先すべきとの意見に、みなさんは賛成できるでしょうか?少なくとも、わたしは全く同意できません。

失業率、株価の背後には、日本経済のパフォーマンスの良し悪しがあるはずです。

そこで、経済成長率と自殺者数との関係を、図3で見てみますと、やはり、負の相関関係が存在することが確認できます。

図3 自殺者数と経済成長率の関係((出典)厚生労働省「自殺統計」、内閣府経済社会総合研究所「四半期別GDP速報」をもとに筆者作成)
図3 自殺者数と経済成長率の関係((出典)厚生労働省「自殺統計」、内閣府経済社会総合研究所「四半期別GDP速報」をもとに筆者作成)

つまり、失業率や日経平均株価の変動が自殺者数に影響を与えていますが、その根っこには日本経済のパフォーマンスの良し悪しが存在し、結局、日本経済のパフォーマンスの悪化が自殺者を増やしていると言えます。

したがって、自殺者数、特に、経済・生活問題を原因とした自殺者数を減らしたければ、政府は、日本経済のパフォーマンスをよくすることに注力しなければなりません。

少なくとも、今般の経済危機においては、新型コロナの社会的蔓延を防ぐために、経済活動に実質的に大きな制約を中央地方問わず政府が課したわけですから、政府が景気を下支えすることで、経済パフォーマンスを高めることが正当化されるでしょう。

しかし、最近では、日本経済のパフォーマンス(ここでは景気動向)は、主に米国や中国など海外経済動向に大きく左右される構造になっていますし、日本企業の国際競争力の低下、新技術開発競争の激化、人口構造の変化など、持続的な右肩上がりの経済成長も見込めません。政府の下支えにも限界があります。

要するに、右肩上がりの経済成長が見込めないなか、失業が自殺者を増やすとしても、企業に無理に雇用を抱え込ませようとすれば、企業が倒産してしまうことになるでしょう。企業が倒産してしまえば、失業者はもっと増えてしまいます。失業が増え、経済パフォーマンスがより悪化すれば、もっと自殺者が増えてしまう事態になりかねません。それでは本末転倒と言わざるを得ません。

ポイントは、失業のコントロールではなく、国民の生活を守ることにあります。

つまり、失業を無理に減らすのではなく、解雇を企業に認めやすくすることで、企業を守り、解雇された労働者は、失業手当の拡充もしくは生活保護のハードルを大きく下げることで、その生活を保障するのです。さらに、職業訓練を充実する(強制する)ことで、解雇された労働者の労働市場への復帰を力強く後押しする施策もあわせて実施する必要があるでしょう。

日本では失業がとかく嫌悪されがちですが、いかなるリスクに直面するか皆目見当がつかないこれからの時代、失業しても、自分の会社が倒産しても、病気になっても、安心して生活できる社会の実現を目指すほうが現実的だと思うのですが、いかがでしょうか?