そもそも東京オリンピック・パラリンピックの反動では不景気にならない理由

(写真:つのだよしお/アフロ)

東京オリンピック・パラリンピック終了後、その反動減によって景気の落ち込みを心配する声が聞かれます。

日本経済全体のGDPの19・7%、約2割を占める東京都の経済の動向は、日本全体の経済の動向を左右すると考えるのは当然とも言えます。

実際、前回大会の時には、オリンピック終了とともに、いわゆる40年不況がやってきました。

倒産企業数は開幕前年の1738社から6141社に急増し、経済成長率は63年度の10.4%から65年度の6.2%へと落ち込んだ。政府は景気対策の財源として戦後初の赤字国債の発行に踏み切り、現在まで続く国の借金依存に道を開く形となった。

出典:64年大会後は倒産3倍、「五輪不況」の回避焦点=前回との比較・五輪あと1年(時事通信、2019年07月27日08時43分)

しかし、もし、今回もオリンピック後に景気後退が起きたとしても、それはオリンピックの反動減のためではありません

なぜそう言えるのでしょうか?

まず、足元の状況を見ると、2016(平成28)年度以降、東京都の経済成長率は全国の経済成長率を下回っています(図1)。

図1 東京都と全国の経済成長率の比較((出典)東京都総務局統計部調整課資料)
図1 東京都と全国の経済成長率の比較((出典)東京都総務局統計部調整課資料)

東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる東京都を中心にして整備が行われ、観光客を見込んだホテル建設や新店舗建設が進むわけですから、東京都に多額の資金が建設投資や住宅投資、設備投資として投下され、東京都の経済が刺激されます。結果、民間企業や東京都の投資をエンジンとして東京都の方が経済成長が高くなるはずなのですが、実際には全国の経済成長率を下回っているのです。

つまり、足元では、東京都以外の(どこかの)地域の方が東京都よりも高い成長をしていて、全国の経済をけん引していることになるのです。

マクロでみると、東京都がオリンピック特需で全国の景気を引っ張っているわけではなさそうです。

図2の、東京都の資料(「都民経済計算 速報・見込(平成3 1 年1 月)」)によって、産業別の経済成長への寄与度を見ると、2015(平成27)、16(平成28)、17(平成29)年度と確かに建設業は経済成長にプラスに寄与していましたが、足元の18(平成30)年度ではすでにマイナス寄与に転じています。つまり、東京オリンピック・パラリンピックに伴う建設投資はすでにピークを過ぎているのです。

図2 東京都の経済成長率の産業別寄与度の推移((出典)東京都総務局統計部調整課資料)
図2 東京都の経済成長率の産業別寄与度の推移((出典)東京都総務局統計部調整課資料)

これは、東京都オリンピック・パラリンピック準備局の資料にも、工事のほとんどが終わりを迎えていることからも裏付けられます(図3)。

図3 東京都が整備する競技会場等の進捗状況((出典)東京都オリンピック・パラリンピック準備局資料)
図3 東京都が整備する競技会場等の進捗状況((出典)東京都オリンピック・パラリンピック準備局資料)

どうやら、東京都は、公共投資で全国の経済を引っ張っているわけでもなさそうです。

さらに、東京都の経済成長を需要項目別に寄与度分解したものを見ると、公共投資に民間住宅投資と民間設備投資を加えた都内総資本形成(つまり、都内の総投資額)の経済成長への寄与の度合いが最近になればなるほど低下し、消費の方が寄与度が大きくなっていることが分かります。

図4 東京都の経済成長率の需要項目別寄与度分解((出典)東京都総務局統計部調整課資料)
図4 東京都の経済成長率の需要項目別寄与度分解((出典)東京都総務局統計部調整課資料)

やはり、東京オリンピック・パラリンピックに伴う投資の増加は民間分を含めたとしてもすでにピークを過ぎ、東京都の経済成長を引っ張るエンジンとはなっていないこと、すなわち、投資面で見れば、オリンピック効果はすでにほぼ消滅しているのです。

いやいや、投資の効果は事実上消滅したかもしれないけど、東京オリンピック・パラリンピック開催中には、海外から多くの観光客が東京や各地を訪れ、お金をたくさん落としていくのでその反動はやはり大きいだろうとの意見もあるかと思います。

2019年の訪日外国人旅行消費額は、観光庁「訪日外国人消費動向調査」によれば、4・8兆円(速報)です。これは47都道府県全体での額です。このうち東京都が占める金額は大きいでしょうが、東京都の経済規模(105・4兆円)に比べれば無視できるほどの大きさでしかないわけで、しかも、経済成長に大きくプラスに寄与するには4・8兆円を大きく上回る必要がありますが、この金額にはラグビーワールドカップで訪日外国人が増えた効果も含んでいることと、最近、訪日外国人の消費額の伸びも鈍化していることを考えると、その実現可能性は低いと言えます。

したがって、東京オリンピック・パラリンピックで訪日外国人が増えその観光消費額が増えた分がなくなったからと言って、東京の経済にも日本全体の経済にも決定的な影響を与えるわけがないのです(なお、一時的需要増とその反動減の景気への影響についてはお団子理論にみる経済対策の評価についてをご覧ください)。

しかも、前回の東京オリンピックの時は、首都高や東海道新幹線の整備など、空間的にも金額的にも今回とは比較にならない規模で投資が行われたわけで、反動が大きかったのは当然です。

このように、東京オリンピック・パラリンピックによる投資増加の効果はすでにピークを過ぎているため、それがなくなったとしてもそれほど大きな下押し圧力にはなりませんし、開催期間中の消費の盛り上がりとその反動も大したことがないわけです。

したがって、すでに効果が消滅したものが将来の景気後退の原因になることはないわけですから、もし、東京オリンピック・パラリンピック後に景気が後退するにしても、それは反動減のためではないと言えるのです。

もちろん、すでに景気がピークを過ぎているという可能性は、内閣府の景気動向指数を、一切の邪念を排して虚心坦懐に見る限り捨てきれはしませんが、それはまた別の話になります。そして、残念ながら、東京都は景気動向指数を公表していない数少ない自治体でして、リアルタイムで景気動向を把握できないのです。

図5 全国の景気動向((出典)内閣府経済社会総合研究所景気統計部資料)
図5 全国の景気動向((出典)内閣府経済社会総合研究所景気統計部資料)

すみません、完全な蛇足でしたね...m(__)m