消費税依存で進む世代内扶養機能の弱体化-所得階層別世代会計による試算-

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

今月20日、第201回常会(通常国会)が召集されます。桜を見る会やIR汚職、イラン問題など問題が山積してはいますが、20年度予算案の審議も重要です。

20年度予算では、税収の中で、消費税収が所得税収を抜いてはじめて最大の項目になったのが注目されます。しかも、政府の方針として、全世代型社会保障を支える貴重な財源として消費税が位置付けられているわけですから、今後も消費税収への依存を強めていくのは間違いないでしょう。

図1 高まる消費税収の存在感((出典)財務省資料により筆者作成)
図1 高まる消費税収の存在感((出典)財務省資料により筆者作成)

ところで、これまでの日本では、総じてみれば、税負担が所得累進的な構造となっています。社会保障負担も、上限が設けられていますが、所得税と同様所得累進的な構造となっています。そのため、所得の再分配機能が働き、所得の高い階層に属する人々が相対的に高い負担を負っていると考えられます。一方、1989年4月の消費税創設以降、累次にわたって、消費税率の引き上げと所得累進税率上限の引き下げ及びフラット化を進めたことで、日本の税制が持っていた所得累進的な機能が低下した可能性も考えられます。

つまり、今後、消費税への依存が強まれば、世代間格差という視点から眺めた場合、所得税よりは高齢世代の負担も高まりますから、望ましいと言えるのかもしれませんが、所得階層間の再分配という視点で見ると、その機能を弱めますから、望ましいとは言えなくなるかもしれません。

従来の世代会計では、各世代の平均的な個人-世代代表-に関して、世代別の生涯純税負担率の違いがどの程度存在するのかについて、定量的に把握し、提示してきました。つまり、世代代表で比較した世代間格差のみ推計できたのです。裏を返せば、同じ世代内の所得階層別の際については無力でした。

そこで、政府を通じた受益と負担が、世代間のみならず、世代内の所得階層の違いによってどの程度異なるのかを、世代会計の手法を用いて、所得階層別のコーホートに分けた生涯純負担率を推計することで、近年進む消費税への依存の影響を明らかにしてみたいと思います。

戦争によって、人的資本及び物的・金融的資産を十分に蓄積できなかった戦前・戦中世代(75歳世代まで)を例外として、戦後生まれで高度成長の恩恵を最大限に享受している団塊の世代(70歳世代)以降の世代について、所得階層間で世代間比較をしてみると、低所得層から中高所得層まではおおむね若い世代ほど純負担が増していることが分かります。一方、高所得層は60歳世代をピークに低下しています(図2)。

図2 所得階層別世代別生涯純負担率の推計結果((出典)筆者試算)
図2 所得階層別世代別生涯純負担率の推計結果((出典)筆者試算)

次に、同一世代内で、5つの所得階層(低所得層・中低所得層・中所得層・中高所得層・高所得層)に属する個人の生涯純税負担率がどの程度異なるのか、つまり世代内格差を比較してみますと、高齢な世代ほど高所得階層ほど生涯純税負担率が大きく、低所得層ほど生涯純税負担率が小さく、つまり世代内格差が大きいのに対して、世代が若くなるほど高所得階層と低所得階層の間の生涯純税負担率の差が小さく、つまり、世代内格差が縮小しているのが分かります。

図2-2 弱まる所得階層間再分配機能((出典)筆者試算)
図2-2 弱まる所得階層間再分配機能((出典)筆者試算)

そもそも世代間及び所得階層間での所得再分配は、貧困や老後のさまざまなリスクに対処するための社会扶助や公的年金や医療制度を根幹とする世代間及び世代内扶助機能を反映しているものと考えられます。つまり、低所得層や高齢世代において受益が負担を超過することは現行制度を反映した当然の結果であって、所得階層別、世代別の世代内・世代間の所得再分配機能の大きさを示しているのです。つまり、最近の世代ほど所得階層間で生涯純税負担率の差が縮小しているということは、世代内の所得再分配機能が低下していることを意味します。

図3により、各所得階層ごとに団塊の世代(70歳世代)を基準に純負担の推移を見ると、各所得階層ともにより若い世代になるほど純負担が増しています。しかし、高所得層では40歳世代以降ほぼ横ばいで推移しています。また、より低い所得階層ほど生涯純税負担率の比率の増加幅が大きく、特に、0歳世代では、低所得層と高所得層を比較すると、低所得層が60ポイント弱の増加、高所得層が2ポイント程度の増加と低所得層の増加幅が圧倒的に大きく、同一世代における生涯純税負担率の差が縮小することで世代内格差が縮小していることが分かります。

図3 所得階層別世代別生涯純負担率(団塊の世代を基準として)((出典)筆者試算)
図3 所得階層別世代別生涯純負担率(団塊の世代を基準として)((出典)筆者試算)

そこで、この原因を解明するために生涯純税負担率を生涯受益率と生涯負担率に分解してみます。

図4により受益面を見ますと、70歳世代では、低所得層125・6%、高所得層25・8%と、受益率の差は100ポイント程度あるのに対して、0歳世代ではそれぞれ74・8%、16・0%と60ポイント弱程度の差にまで縮まっていることがわかります。

図4 所得階層別世代別生涯受益率((出典)筆者試算)
図4 所得階層別世代別生涯受益率((出典)筆者試算)

図5で、負担面を見ますと、70歳世代では、低所得層55・6%、高所得層66・8%と、負担率は高所得層の方が11ポイント弱大きいに対して、0歳世代ではそれぞれ61・6%、58・4%と低所得層が高所得層が3ポイント程度逆転して上回っていることが分かります。これは所得税における累進税率の引き下げと消費税への移行などによる負担面での累進機能の低下と、近年の社会保険料率の上昇が低所得層の負担率を押し上げていることを反映しているものと思われます。また、中所得層がどの世代で見てもほぼ一貫して一番低い負担率を示していることから、中間層の負担率が低いことも指摘できます。

図5 所得階層別世代別生涯負担率((出典)筆者試算)
図5 所得階層別世代別生涯負担率((出典)筆者試算)

つまり、現在の高所得×高齢世代ほど、より年上の世代のための負担をしつつ自分と同世代の低所得層を扶養していたのに対して、より最近の世代×高所得層ほど世代内扶養に資源を割いていない、要するに、世代内の所得再分配機能が低下している可能性を指摘できます。

ところで、一般的な世代会計の試算結果から導き出されます「高齢世代ほど生涯純税負担率が小さく、若い世代ほど生涯純税負担率が大きい」という世代間格差の実態は、所得階層別に分解してみると、世代が若くなるほど、同一世代内における所得階層別の生涯純税負担率の差が小さくなるという意味での世代内格差が縮小する中で、世代間格差が拡大していると解釈し直すことができます。つまり、各世代の平均的な個人の生涯純税負担率で見た世代間格差の拡大は、各世代の中での低い所得階層への再分配が薄くなり、同一世代で平均を取ってみるとその世代の平均的な生涯純税負担率が上昇したことに原因があると考えられるのです。

この点を確かめるために、低所得階層の0歳から25歳世代までの生涯負担額と生涯受益額を30歳世代のそれに置き換えて、各世代の生涯純税負担率の平均値を取ってみると、2ポイント弱(25歳世代)から6ポイント(0歳世代)、当該世代の生涯純税負担率は低下し、その結果、世代間格差が小さくなることが分かります。

この仮想実験からは、世代間格差を是正するための政策対応を行う際には、世代間所得再分配にだけ着目するのでは不十分であり、世代内所得再分配についても留意する必要があることを指摘できます。

図6 低所得層への再分配を厚くした場合の世代間格差の推計((出典)筆者試算)
図6 低所得層への再分配を厚くした場合の世代間格差の推計((出典)筆者試算)

ただし、現在世代内の世代間格差が縮小するということは、世代会計のゼロサムゲーム的な本質を考えますと、しわ寄せは将来世代に及ぶことになります。つまり、若い世代の低所得層への再分配を、現在世代が負担することなく厚くすることは、そのコストを将来世代に付け回すことになるのです。

したがって、現在の日本が抱える格差問題、つまり、世代内格差(の縮小)と世代間格差(の拡大)、しかも「現在世代内の世代間格差」と「現在世代と将来世代の世代間格差」という二重構造の世代間格差を睨みつつ格差の解消を図るには、(1)同一世代内でより高い所得階層からより低い所得階層への再分配を強化する(対世代内格差)、(2)より高齢の世代の負担を増やす/受益を削減する(対現在世代内の世代間格差)、(3)現在世代の負担を増やす/受益を削減する(対現在世代と将来世代の世代間格差)を実施すべきということになります。