わたしたちは財政赤字を気にしなくてもよい世界に舞い戻ったのかもしれない

(写真:アフロ)

10月に消費税が10%に引き上げられます。ただ、消費税引き上げといいますか、財政再建には根強い反対があるのも事実です。

財政再建は、景気が回復するのを待つべきなのでしょうか?そもそも、財政再建を実行できる景気の状態あるいはマクロ経済のファンダメンタルズはどのようなものなのでしょうか?

マクロ経済のファンダメンタルズのうち、国債金利と経済成長率の大小関係は、財政再建に大きな影響を与えます。

国債金利が経済成長率より大きい場合は、財政赤字の継続は、政府債務残高対GDP比率を発散させるという意味で財政破綻を惹起しますから、財政再建が必要になります。こうした国債金利が経済成長率より大きな世界は「新古典派的な世界」と言えます。

一方、経済成長率が国債金利より大きい場合は、一定の条件のもとでは、財政赤字が継続しても、政府債務残高対GDP比率は放っておいても一定の値に収束するので、財政再建は不要です。しかも、消費を奨励したほうが国民の厚生(ハッピーさ)も増すので、消費税引き上げは愚策となります。こうした経済成長率が国債金利よりも大きな世界は「ケインジアン的な世界」と言えるでしょう。

では、日本では、これまで、国債金利と経済成長率はどのような関係にあったのでしょうか?

下図を見てください。国債金利と経済成長率の関係は、3つの時期に区分できます。

図 国債金利(加重平均)と経済成長率の関係(財務省、内閣府経済社会総合研究所のデータをもとに筆者作成)
図 国債金利(加重平均)と経済成長率の関係(財務省、内閣府経済社会総合研究所のデータをもとに筆者作成)

まず、バブル期を含む安定成長期(1975年から1991年まで)です。この時期は、1975年以降の国債の大量発行によりようやく国債流通市場が整備され始め、国債金利が実質的に自由化されたころです(それ以前は、実質的に規制金利の時代)。また、高度成長は終焉したもののバブルを経験するなど、平均してみれば、経済成長率が国債金利を上回っています。個別の時期を見れば、財政非常事態宣言が出されるほど、財政危機が深刻と認識されたこともありましたが、総じてみれば、財政は安定していました。

次に、バブル崩壊から旧民主党政権の崩壊までの失われた20年の時代です(1992年から2012年まで)。この時期は、デフレが深刻化し、経済成長率が低迷したこともあって、国債金利が経済成長率を上回っています。この時期、プライマリーバランスの黒字化を目指す政策が指向されたのも当然です。そうしなければ、いずれ財政が破綻してしまうからです。

実際、この時期、政府債務残高対GDP比は急上昇しています。

問題は、2013年から現在に至るアベノミクスの時代です。経済成長率と国債金利の大小関係を見ますと、平均的には経済成長率が国債金利よりも大きくなっていますので、財政赤字を気にする必要はありません。

したがって、わたしたちは財政赤字を気にしなくてもよい世界に舞い戻ったのかもしれないとも言えます。もしくは、バブルへGO!!

このとき、財政再建は不要ですし、消費税の引き上げもナンセンスです。逆に、消費税の引き上げで消費を冷え込ませるのは悪手で、国民をアンハッピーにさせてしまいます。

しかし、問題は今後です。

先のグラフを見ますと、2000年代半ばまで低下を続けた国債金利は現在横ばいになっていて、これ以上低下する様子がありません。一方、経済成長率はアベノミクス開始初期の勢いはなく、低下していくようにも見えます。つまり、いつまで経済成長率が国債金利を上回り続けるのか、予断を許さない状況と言えます。

財政健全派(財政再建が必要)と財政不健全派(財政再建は不要)の路線対立は、結局、今後も日銀が国債金利を低位で封じ込められ続けられるか否か、(潜在)成長率がマイナスからゼロ近傍にあるか否か、の見立てにあるといえるでしょう。

経済学的には、新古典派対ケインズ経済学と言えるでしょうか。

さて、国債金利がマイナスのうちに国債を大量に発行して、国債金利をさらに引き下げればよいというギャンブルも魅力的ではあるのですが、個人的には、潜在成長率はゼロ近傍で推移するだろうと思っていますし、財政に関しては政治家を全く信用していないブキャナン派ですので、いつ国債金利が経済成長率を上回る新古典派的な世界に転じてもいいように、堅実な財政運営が必要ではないかとの立場です。

なお、わたしは財政健全派だとしても、「経済成長率は今後も国債金利を上回り続ける!」との財政不健全派(積極財政派)の立場を否定できるだけの材料を持ち合わせているわけではありませんから、彼ら彼女らの意見も尊重すべきと考えています。

その上で、政府の立場にも矛盾があるのではないかと思っています。

というのは、今後の財政政策を考える上では、経済成長率と国債金利が将来的にどう推移していくのかをしっかりした根拠をもって見通すことが最低限必要だと思うのですが、肝心の政府の見立ては、内閣府「中長期の経済財政に関する試算(令和元年7月31日経済財政諮問会議提出)」にあるように、経済成長率が国債金利を上回るケース(成長実現ケース)と国債金利が経済成長率を上回るケース(ベースラインケース)という相反する2つのケースが示されています。絶妙なバランス感(笑)。

ちなみに、成長実現ケースはアベノミクス成功ケース、ベースラインケースはアベノミクス失敗ケースに他なりません。

財政再建の必要性が真逆となる2つのケースを予測されても、今後の財政政策の方向性を考える上ではまったく意味がありませんね...。政府は、出たとこ勝負!で財政運営をするつもりなのか、とても心配になってしまいます。本当に経済・財政の舵取りを任せても大丈夫なんでしょうかね?

まぁ、実際には、消費税を引き上げて財政再建を目指しているわけですから、政府としては、成長率が国債金利を下回るベースラインケース(アベノミクス失敗ケース!)を念頭に置いて経済・財政運営を行っていると思われますが、じゃあ、成長実現ケースというのはなんなのか、それはそれで不信感を抱かざるを得ないのは仕方ないでしょう。

さらに、足元では、経済成長率が国債金利を上回っている訳で、その点ではアベノミクスは成功しているとも言え、このトレンドをどう評価した上で、アベノミクスが失敗するというベースラインケースを採用しているのか、つまり、アベノミクスがどういう理由でうまくいかないと考えているのか、国民にハッキリ説明しておく必要があると思います。

特に、政府が経済・財政運営の基本と考えている(らしい)マクロ経済想定と矛盾する成長実現ケースが2019年財政検証の事実上の基本ケース(ケースIII)として、わたしたちの老後の年金の(所得代替率)見通しにも多大な影響を与えている訳ですから…。

まとめると、現在われわれは財政赤字を気にしなくてもよい世界にいるのかもしれない可能性をしっかり検証した上で、現在の財政運営と2019年財政検証を評価し、その整合性をチェックしなければならないのだと思います。