「修正エンゲル係数」という忖度?

(ペイレスイメージズ/アフロ)

修正エンゲル係数?

いつものようにネットの定期パトロール中、修正エンゲル係数という全く聞きなれないタームを目に致しました。どうもエンゲル係数に集約されているアベノミクス失政を隠蔽するために、官僚が忖度なのか指示を受けてなのか作り出したものらしいとのことでしたので、早速調べてみました。

エンゲル係数が国会論戦に登場

昨年1月31日の参議院予算委員会で民進党(当時)の小川敏夫議員がエンゲル係数の上昇をアベノミクスの失政と断じてからしばらくエンゲル係数が世間の耳目を集めていました。

そういえば、小欄ではそれを遡ること1年前の2017年2月22日にエンゲル係数の趨勢的な上昇は高齢化が原因であり、アベノミクス失政は脇役に過ぎないという記事を書いております。

要は、2015年、2016年に、エンゲル係数が急上昇しまして、アベノミクスの結果国民が貧乏になった!との報道が相次いだのが国会論戦の前触れと言えます。

官僚の忖度?

いま風に言えば、官僚の忖度か官邸の指示なのかは小職には全く判断しかねますが、昨年6月30日の総務省統計局 統計Today No.129「明治から続く統計指標:エンゲル係数」(出典:総務省統計局ホームページ (https://www.stat.go.jp/info/today/129.html))と題する資料が公表され、その中で修正エンゲル係数なる代物がエンゲル係数の欠陥を補う指標として提案されています。

御承知のように、エンゲル係数は消費支出に占める食費の割合なのですが、分母の消費額は所得の大きさにある程度左右され、消費以外の支出に所得から充てられるようになれば分母が小さくなる結果、食費が不変でもエンゲル係数は大きくなってしまいます。

つまり、家計のお金の使い道の変更がエンゲル係数に影響を与える可能性をエンゲル係数では把握できていないので、分母を消費額から所得へ、かつ物価変化も考慮した実質可処分所得に変更し、分子の食費も併せて物価で調整したものを修正エンゲル係数として計算しているのです。

その結果、修正エンゲル係数ではエンゲル係数ほどの急上昇は見られず、したがってアベノミクスの失政もなかったことになるというわけです。

よかったですね!(ニッコリ

修正エンゲル係数では考慮されない高齢化要因

しかし、修正エンゲル係数にも問題があります。小職の先の記事でも指摘していますように、最近のエンゲル係数の上昇の主因は高齢化なのですが、修正エンゲル係数では実は高齢化要因を把握することができません。なぜなら、家計調査では所得に関する計数は勤労世帯のものしか公表されていないからです。つまり、修正エンゲル係数は、主に現役世代の懐具合を表しているのであり、高齢者も含めた全国民の平均的な懐具合を表すことができないのです。

修正エンゲル係数で見えるもの

では、修正エンゲル係数からなにが読み取れるのでしょうか?修正エンゲル係数を分解すると、すべて実質タームですが、平均消費性向とエンゲル係数に分解することができます。つまり、平均消費性向が上がれば(=消費意欲が活発になれば)修正エンゲル係数は上昇し、同じことの裏返しですが、平均消費性向が下がれば(=消費意欲が減退すれば)修正エンゲル係数は低下し、さらに、エンゲル係数が上昇すれば(=勤労世代が貧しくなれば)修正エンゲル係数は上昇し、エンゲル係数が低下すれば(=勤労世代が豊かになれば)修正エンゲル係数は低下するという関係にあります。

ここでのポイントはエンゲル係数が不変でも、勤労者の消費意欲が活発化したり減退することで修正エンゲル係数が変化することです。しかも、今後予想される不景気などから家計を防衛するため勤労者の消費意欲が減退すれば修正エンゲル係数は低下することになり、勤労者の家計が順調だからエンゲル係数が低下したとは必ずしも言えないことになってしまうのです!

より正確に言えばバブル期のように勤労者全体が若く所得の伸びも大きい場合には所得の伸びが消費の伸びを上回り消費性向が低下することもありますが(つまり、マイホームの購入資金のための貯蓄に励む)、これは良い消費性向の低下であり、逆に現在のように勤労者全体の平均年齢も上がり、所得の伸びがそれほどでもなかったりマイナスだったりなのに、消費性向が低下するのは、解雇されるかもしれない、あるいは会社が倒産してしまうかもしれないという将来不安に備えた貯蓄が増えていることの裏返しであり、悪い(と言いますか通常の)消費性向の低下と言えます。

以上のことを念頭に、修正エンゲル係数を平均消費性向要因とエンゲル係数要因とに分解したグラフをご覧頂くと、アベノミクス開始以降の上昇は株価や経済成長率の上昇を背景とした良い平均消費性向の上昇が主因であり、一方、消費税率引き上げ以降の2015年からは悪い平均消費性向の低下が主因となって修正エンゲル係数を押し下げていることが確認できます。なお、2015年のエンゲル係数要因の激増は消費税引き上げの影響によるものです。

図 修正エンゲル係数の寄与度分解
図 修正エンゲル係数の寄与度分解

まとめれば、アベノミクスの結果エンゲル係数が上昇したとの説に反論しようと考えられた修正エンゲル係数は、かえってアベノミクスがうまくいっていないこと、つまり散々指摘されていることですが、所得の上昇に結び付いていないこと、ひいてはそれが消費の伸び悩みをもたらしていることを白日の下にさらしてしまう結果となっています...。嗚呼!

いつもの蛇足

結局、修正エンゲル係数は、アベノミクスが原因でエンゲル係数が上昇した訳ではないことを証明しようと考案されたのだろうと推測されますが、残念ながら、目的と手段がうまくかみ合わずに全くの徒労に終わってしまっています。

最近は味噌も糞も総理や官邸の指示と糾弾する風潮がありますが、以上から当然ですが、修正エンゲル係数の考案に総理や官邸が絡んでいることは100%あり得ないでしょう。なぜなら、そもそも、こうした筋悪な(失礼!)指標を無理やりひねり出さなくても、従来型のエンゲル係数を要因分解し、丁寧にその上昇の背景を探れば、高齢化が主因であることなんて簡単に分かるわけなので、妙な小細工をする必要もないからです。

いずれにしましても、

エンゲル係数は、時代の変化の下で変わりゆく私たちの食やライフスタイル、そして社会経済や景気の状況など、家計を取り巻く多くのことを凝縮させ、一つの数値となって映し出してくれています。エンゲル係数の変化を何らかの端的な判定基準として用いるのではなく、その裏側にある、私たちの生活の実態や変化をしっかりと紐解いていくことが肝要と言える

出典:明治から続く統計指標:エンゲル係数(総務省統計局「統計Today No.129」平成30年6月8日)

には全く同感であります。