財政再建から「逃げ切れる世代」と「逃げ切れない世代」の損得勘定

(写真:アフロ)

今回の記事のポイント

  1. 日本には2つの深刻な世代間不平等が存在
  2. 将来世代は生涯所得の半分以上を搾取されている
  3. 55歳以上は逃げ切れ、54歳以下は逃げ切れない
  4. 財政再建から逃げ切れない世代の損は最大で2300万円

財政再建のタイムリミットは2035年

前回の記事(財政再建までのタイムリミットを再試算してみたよ)では、いわゆる氷河期世代が高齢者になり、(現在の制度を前提すれば)年金や医療、介護の負担者から需要者に替わる頃の2035年までには歳出削減や増税のような何らかの財政再建を実行する必要がある、との結論になりました。もちろん、この原因は赤字国債に依存した全世代型社会保障です。

それはさておき、以下では、2035年に急遽抜本的な財政再建が必要になるとした場合、世代別の損得勘定はどうなるのか、世代会計の手法を用いて試算してみました。

財政が今のまま続けられるケース

まず、財政が今のままズルズル続いて、追加的な歳出削減や増税が不要なとても幸運な場合の、世代毎の生涯純負担率と金額の違いは図1の通りです。まぁ、高齢世代ほど負担が小さく、若い世代ほど負担が大きくなっているのは、これまでの先行研究とも整合的です。75歳以上の世代では純受益となっていますが、これら世代の多くは戦前戦中に多くの苦労をされた世代であり、社会保障がこうした世代のために形成されたことを考え合わせると、致し方ないと思います。ただ、他世代とのバランスはもう少し考える必要はあるかもしれません。

さて、世代毎の純負担の違いを見ると、生涯所得に対する割合で見ても金額で見ても将来世代が一番負担が大きく、マクロ経済環境が同じである0歳世代と比べると4200万円弱将来世代の負担が重くなっています。あるいは、70歳世代(団塊の世代!)と比べると、9000万円弱負担が重いのです!

一方で、0歳世代と団塊の世代とを比べると、0歳世代で4500万円強負担が重くなっています。

また、生涯所得に対する(政府に支払う負担額から政府から受け取る受益額を差し引いた)生涯純負担額の割合である生涯純負担率で見ると、将来世代は実に所得の半分以上!が政府を介して他の世代にバラまかれている!!ことが分かります。

図1 世代毎の生涯純負担率(額)
図1 世代毎の生涯純負担率(額)

さらに言えば、日本の世代間不平等とは、現在世代内(例、0歳世代と団塊の世代)の不平等と現在世代と将来世代間(例、0歳世代と将来世代、団塊の世代と将来世代)の不平等の2つの深刻な世代間不平等が存在していることが分かります。

よく言われることですが、戦前戦中世代のために作られた社会保障制度にそのまま乗っかった団塊の世代が一番得をしている世代であり、その負担を他の世代に押し付けていると結論できそうです。

財政再建ケース

では、財政がズルズルと続かず、2035年に抜本的な財政再建が必要になった場合の、世代毎の生涯純負担を見てみましょう。なお、ここでは歳出削減を行わずに消費税率の引上げで財政再建に対応するものと仮定しています。

図2及び図3によれば、2035年には既にお亡くなりになられているかすぐにお亡くなりになられる75歳以上世代では負担に変化はありません。一方で75歳未満の世代では事情は異なります。

つまり、現在世代内では若い世代ほど財政再建により追加的に負わなければならなくなる新たな負担が重くなる一方で、財政再建が進むことで将来世代の負担は軽くなるのです。

具体的には、65歳世代は残りの生涯で200万円弱の追加負担で済むのに対して、0歳世代では2400万円弱と実に12倍もの追加負担を負わなければならなくなります。

財政再建から「逃げ切れる世代」と「逃げ切れない世代」の損得勘定をみれば、逃げ切れない世代は2300万円の損(0歳世代と団塊の世代の追加負担額の差)と言えるでしょう!

ちなみに、子育て費用は1人3000万円と言われていますから、財政再建を先送りすれば子供一人の子育てに必要な金額が略奪されてしまうことになり、将来における更なる少子化要因となるでしょう。

図2 財政再建アリナシによる世代毎の生涯純負担率(額)の比較
図2 財政再建アリナシによる世代毎の生涯純負担率(額)の比較
図3 財政再建による世代毎に必要となる追加負担率(額)
図3 財政再建による世代毎に必要となる追加負担率(額)

現役世代は逃げ切れない

このように、来るべき財政再建により追わなければならなくなる追加負担の大小により、便宜的に世代を区切りると、75歳以上は逃げ切り世代55歳から74歳までは準逃切り世代54歳以下世代は逃げ切れない世代と言えると思います。

つまり、現役世代のほとんどは逃げ切れず、上の世代から先送りされた重い負債を粛々と返済していく運命にあるのです。

結論

結論はと言えば、与党野党を問わず政治は、負担をせずに受益を食い逃げする逃げ切り世代(正確には準逃げ切り世代)を許容するのかしないのか、どちらにしても態度をはっきりさせる必要がある。食い逃げを許さないのなら、逃げ切り世代に負担増が必要な理由を説明し納得してもらう必要があるだろうし、食い逃げを許すのなら負担させられる逃げ切れない世代にやはりその理由を説明し納得してもらう必要だあるだろう(もちろん、正当な理由はないので納得するはずもないけれど)。そうした態度の表明の場は、国政選挙こそふさわしいので、まずは今夏に実施される参院選の各党の公約に期待したい。

蛇足

それでは、逃げ切れない54歳以下の世代は財政再建に対してどのような態度をとるのが最も合理的なのでしょうか?次の記事ではその点について考察したいと思います。