いざなぎ景気は超えていない!

(ペイレスイメージズ/アフロ)

いざなぎ景気を超えたのか?

今般の景気回復は2012年12月を底として現在に至るまで回復を続け、いざなぎ景気超えしたと内閣府経済社会総合研究所長の研究会である景気動向指数研究会が認定したとのことです。

景気回復「いざなぎ」超え、正式認定 戦後2番目の長さ(2018年12月13日 日本経済新聞)

そもそも、研究所長の研究会って政府としてはどんな位置付けなの?という素朴な疑問はとりあえず脇に置いておいて、今般の景気回復が本当にいざなぎ景気を超えているのか検証してみたいと思います。

内閣府経済社会総合研究所によると、景気基準日付(いわゆる景気の山・谷)は、ヒストリカルDI(一致指数)を材料として、

(1)転換点を通過後、経済活動の拡大(収縮)がほとんどの経済部門に波及・浸透しているか(波及度)

(2)経済活動の拡大(収縮)の程度(量的な変化)

(3)景気拡張(後退)の期間について検討する。

併せて、念のため、参考指標の動向が整合的であるかどうかについても

確認する。

ことにより設定されるとしています。

そこでヒストリカルDI(一致指数)の動きを内閣府経済社会総合研究所景気統計調査部の資料により確認してみると、下図のようになっていて、2014年4月から景気後退局面入りの目安である50%上から下に横切っていることが確認できます。

そしてその次に景気回復局面入りの目安である50%ラインを下から上へ横切っているのは2016年3月であることも分かります。

図 ヒストリカルDI(一致指数)の動き(内閣府資料に筆者追加)
図 ヒストリカルDI(一致指数)の動き(内閣府資料に筆者追加)

つまり、ヒストリカルDIだけで判断すれば、景気は実は2014年4月には後退局面入りし、2016年3月に新しく景気回復が始まった訳で、全然いざなぎ超えてないよーとなるのです。

当然この程度のことは、景気分析の専門家である内閣府はよく分かっているので、後退局面入りと認定しなかった理由を平成29年6月25日の資料(第 15 循環の景気の谷以降の状況について(概要))では、下記のように述べています。

本日、第17回景気動向指数研究会を開催し、第15循環の景気の谷以降の景気動向指数の動き等について、

・景気の波及の程度を示すヒストリカルDIの動きをみると、2014年以降、50%を下回った期間があるものの、経済活動の収縮が大半の部門に持続的に波及したとはいえない(別紙2)

・ヒストリカルDIが50%を下回る期間におけるCI一致指数の量的な変化をみると、1980年以降、低下幅が最も小さかった第10循環の後退局面より大きいものの、過去の後退局面と比べて小さい(別紙3)

等のデータを基にご議論いただいた。

議論いただいた結果、2014年の状況は景気の山を設定する要件を満たさず、研究会としては、第15循環の景気の谷以降、景気の山はつかなかったとの結論となった。

では、特に重要な第1点目「経済活動の収縮が大半の部門に持続的に波及したとはいえない」という点について確認してみましょう。

別紙2(上の資料の3ページ)を見ると、2014年4月から2015年1月までは、9系列中プラス系列が3、マイナス系列が6、2015年2月、3月はプラス系列が2、マイナス系列が7、同年4月から6月はプラス系列が4、マイナス系列が5、同年7月から2016年2月まではプラス系列が3、マイナス系列が6となり、同年3月から再度プラス系列の数がマイナス系列の数を上回ったのが分かります。

内閣府(の判定基準)によれば、マイナス系列の数が基準に達しなかった(おおむねマイナス系列の数が9系列中8系列以上を目安としてるようです)ので、景気後退局面入りを見送る判断材料としたということなのでしょうが、採用系列のうち、2015年4月以降プラスに転じた「C6 商業販売額(小売業)(前年同月比)」「C7 商業販売額(卸売業)(前年同月比)」は前年同月比である点にご注意ください。

要すれば、これら2つの系列は消費増税の反動減からの再反動でプラスとなったのです。これを回復系列とするのは無理があるような気がします。つまり、特殊要因でプラスになったと考えれば、プラス系列の数は一つ減ります。

また、様々な景気指標のうち雇用関連指標を見ていれば自然と気が付くのですが、近年では有効求人倍率はあまり景気と連動していないようです。つまり、人口減により労働力の需給バランスが構造的に人手不足なっており、景気とは無関係に有効求人倍率が上昇を続けています。これも景気の方向を判断するにはミスリーディングな指標と言えるでしょう。(ちなみに所定外労働時間も残業時間短縮の流れを受けて景気に反応しているかと言えばとても怪しくなっていると思います)

したがって、内閣府が言うように、景気後退局面入りとは判断しなかった根拠として「経済活動の収縮が大半の部門に持続的に波及したとはいえない」を挙げるのはとてもは苦しく、丁寧に指標を吟味すれば、実際には経済活動の収縮が大半の部門が持続的に波及していたとみるのが自然だろうと思います。

さらに、2点目の「CI一致指数の量的な変化」については、少なくとも第10循環という前例がある以上、かなり苦しい言い訳と言わざるを得ません。あるいは第15循環の景気後退期ともそん色ないように見えます。

なぜ、内閣府がこうした苦しい判断をしているかと言えば、ここからは私個人の勝手な邪推ですが、2014年4月の消費増税が景気の腰を折ったと世間から指摘されたくなかったからではないか、と思います。

景気後退の決定打は消費税引き上げではなく中国景気の減速

では、内閣府が懸念するように消費増税が景気回復を反転させたのでしょうか?

私は、ポイントは、「C2 鉱工業用生産財出荷指数」の動きにあると思います。この系列の動きを見ると、消費増税後も順調な動きを見せていたのが、2015年2月以降突如としてマイナスとなってしまいます。これは消費増税のマイナスの影響が生産にも波及したからでしょうか?

もし消費増税の影響であればもっと早くにマイナスとなっていたでしょうから、そうではなく中国景気の減速が主原因であると考えます。

当時の中国経済では、民間企業が過剰債務・過剰設備を抱えるいわゆるバランスシート調整圧力に直面し、投資が大幅に減少する中で経済成長が鈍化していたのです。この中国経済の不調が日本経済にまで波及したと考えられます。

その結果、日本での生産も低調となり、景気の減速が起こったわけです。

丁度、1997年の消費税引き上げがその後の東アジア金融危機の影響を受けて減速したのと同様、景気低迷のダメを押したのは海外経済の不調であるわけです。

たまたま、消費税が引き上げられたその年に日本と密接な関係にある海外経済が不調になり、景気減速が引き起こされたというのは、財政規律を重視する勢力からは不運と言わざるを得ません!

したがって、その点を丁寧に説明すれば、内閣府は一時的な景気後退局面入りを否定するのに無理な言い訳を考える必要もなかったように思いますが、いかがでしょうか?

結論としては、2012年12月を底として上向きだした景気は2015年2月頃には一度景気後退局面入りし、2016年3月には底入れし、再度回復軌道に乗ったの現在の景気回復局面であり、直近の景気回復局面は、いざなぎ景気超えはしていない!との判断が妥当だろうと思います。

蛇足

ヒストリカルDIや中国経済の動き(米中貿易戦争!)を見ると、足元の景気はなんとなくピークに達しつつあるようだというのが個人的な感想です。だとすれば、三度、消費税引き上げに景気減速が重なることとなり、次の引き上げはどの政権も言い出せないのではないかと愚考いたしております。