自民党総裁選を前に地方創生を勝手に検証してみた

地方創生を進めた石破茂元幹事長が自民党総裁選に立候補(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

夢よもう一度!

 今月7日告示、20日投開票予定の自民党総裁選に立候補を表明している石破茂元幹事長は、地方創生、地方重視を公約の柱の一つに掲げ、安倍晋三総裁との一騎討ちに臨みます。

 石破氏が地方創生を強調するのは、国会議員票の7割以上を固めているとされる安倍総裁に対抗するためには、2012年総裁選の再現を狙って地方票を押さえるしかないという戦略上の要請だけでなく、離党歴があり国民受けの割には実績に欠ける石破氏にとっては、地方創生は貴重な実績の一つであるとの思い入れがあるからだろうと思われます。

きっかけは日本創生会議試算

 増田寛也元総務大臣を座長とした「日本創成会議」が、地方から都市部への人口流出が継続する前提で、2010年から2040年までに20歳から39歳までの若年女性の人口が50%以上減少し、消滅する可能性がある市区町村(消滅可能性都市)は全国で896自治体あり、なかでも人口が1万人未満でさらに消滅の可能性が高い市町村は532自治体にのぼるとの衝撃的な試算を2014年5月に公表したのを機に(いわゆる増田レポート)、「東京への一極集中の是正」「地方の人口減少に歯止めをかける」を旗印とした地方創生が始まり、なかには東京23区内の私立大学と短大の定員抑制など悪乗りした施策も交えながら、そのうち平成版人返し令が出されるのでは?という冗談が冗談には聞こえないほど、その流れは今なお続いています。

 裏を返して言えば、今のまま推移すれば地方は持続可能ではないという強烈な危機感の現れとも言えます。

地方創生のレールを敷いたのは石破茂氏

 当時の安倍内閣においても増田レポートは衝撃を持って受け止められ、2014年9月には石破茂氏が担当大臣となり、その後の地方創生のレールが敷かれました。

 石破氏が2016年8月に地方創生担当大臣を退いても地方創生は今に至るまで内閣の重要施策の一つであることに変わりはなく、2015年度以降、当初予算と補正予算とで合計1兆円程度の金額が毎年度決まって用意され、2018年度当初予算までの累計額は4兆円弱となっています(表1)。

表1 地方創生関連予算の累計額
表1 地方創生関連予算の累計額

 予算はある程度前年度踏襲になるのは仕方のない面もあり、そういう意味でも最初の制度設計が肝心で、スタート時点の担当大臣の責任は非常に重いですし、その分成功した場合の功績も大きいと言えます。

 そういえば、やはり石破氏の肝煎りで地方の人材不足を補うとの名目で中央省庁等の優秀な人材が地方に派遣されたりもしています(地方創生人材支援制度)。予算と人材が突然降ってきたわけですから、石破氏の思惑通り、地方はさぞかし特需に沸き活性化したことでしょう。

地方創生は大失敗だった!

 果たして、地方創生の本当のところはどうなのでしょうか?地方創生、地方創生と連呼されている割には、その成果についてはあまり耳にはしないようです。

 というわけで、前置きが長くなってしまいましたが、本記事では、地方創生を勝手に検証してみたいと思います。

 地方創生の目標は、地方から都市への人口流出を食い止めることで、持続可能な地方を創出することにあるのは論を待ちません。

 

 地方創生のきっかけとなった増田レポートにおける将来人口推計は、国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)が2013年に公表した将来人口推計をもとに、独自の視点を加えて推計されています。具体的には、社人研推計では、地方から都市への人口流出が収束していくものと楽観的に仮定しているのに対して、日本創生会議試算では、地方からの人口流出が収束しないものと悲観的に仮定して、各自治体の将来人口を推計しているのです。したがって、日本創生会議試算の方が社人研推計よりも足元の人口流出のマイナス(人口流入のプラス)の影響が将来まで強く残る特徴があります。なお、社人研の将来人口推計はその時々の最新時点の国勢調査をもとに作成されており、2015年の国勢調査をもとに2018年に公表されたものが最新のものです。

 残念ながら、私の能力をもってしては、日本創生会議試算を完全には再現できなかったので、公正を期すため、2013年(地方創生前に公表)と2018年(地方創生後に公表)の社人研の将来人口推計をそのまま使って、地方創生前後での、消滅可能性都市の数を比較してみました(なお、福島県に関しては原発事故避難の影響等から市町村別の推計がなされていなため除外しました)。消滅可能性都市が減っていれば、石破氏に始まり石破氏が重視する地方創生が成功したと言えます。

 社人研ベースで見ると、地方創生前後では、消滅可能性都市は369から847へ+478増(全市区町村の21%から47%)、うち、さらに消滅の可能性の高い都市は239から535へ+296増(同13%から30%)とどちらも倍増どころではなく、かえって悪化してしまいました(表2)。

表2 消滅可能性都市数の推移
表2 消滅可能性都市数の推移

 つまり、地方から都市への人口流出が収束するものと楽観的に仮定している社人研推計でも、全自治体の半数近くが消滅可能性都市となってしまうわけでして、4兆円弱注ぎ込んだ地方創生によっても、地方消滅リスクの軽減どころかかえって加速してしまっていますので、控えめに言っても、地方創生は大失敗に終わったと評価できるでしょう。

 話しは逸れますが、以前「地方創生」が絶対に失敗する理由(2015年1月23日)を書きましたが、いまでも内容を見直す必要は一切ないと思っています。閑話休題。

地方創生か、撤退か?

 現在、日本全体でも、地方でも、少子化、高齢者の高齢化(後期高齢者の増加)、人口減少の三重苦が進行中です。特に、人口移動の面では、日本全体では東京一極集中、各地方ではその中心都市(例、東北地方では仙台市)、県レベルでは県庁所在地への集中傾向が進んでいます。そうした中、自治体はサバイバルを賭けて仁義なき人口争奪戦を繰り広げつつも、勝ち組と負け組とに二極化し、負け組は遠くない将来には消滅する運命にあるわけです。

 この運命に抗するのには、たった4兆円程度では金額が少なすぎたのかもしれませんし、そもそもの地方創生関連施策がダメダメだったのかもしれません。もちろん、安倍内閣が金融緩和に依存し過ぎたとの批判もあり得るでしょう。

 しかし、誤解を恐れずに敢えて言うならば、地方創生が政治家や地方から持て囃されている割には効果が出ておらず、それでいて抜本的な政策変更も求められてもいないのは、地方創生が体の良いバラマキと位置付けられていて、(もちろん、真摯に取り組んでおられる自治体もありますが)多くは中身にも効果にも興味がないからではないでしょうか。

 いずれにしても、これまでの地方創生は失敗であることに変わりはないわけですから、そのレールを敷いた石破茂氏は正直、公正に失敗を認めるべきだろうと思います。

 その上で、地方創生という実現不可能で無責任な夢を振りまき貴重な時間を浪費するのはやめて、日本では一強でもグローバルな都市間競争に負けつつある東京を弱体化させるのではなく、逆に、東京をいっそう強くしつつ、地方間再分配を強化するなど地方の突然死を防ぐ施策をあわせて行い、限界自治体からの撤退戦を成功させ中心都市への集中を図る戦略へと名誉ある撤退に転じた方がオールジャパンで見れば実りある結果をもたらすのではないかと感じています。

 安倍総裁も、石破候補も、それぞれ地方票を一票でも多く獲得しなければならない政治的な事情もあるようですし、地方創生や地方重視は政治的に思考停止させる魔法の言葉で、それに反する施策を打ち出しにくいのも理解はできますが、このまま無尽蔵に勝算の見込みのない地方創生にお金を投じ続ける余裕が今の日本財政にあるわけでもなく、自民党総裁は一国の指導者として良くも悪くもオールジャパンでの判断を迫られるお立場ですから、私利私欲でも、党利党略でもなく、国益ファーストで行動していただきたいと切に願っております。

蛇足

 なお、各自治体は、地方創生関連施策の効果を見込んだ2060年までの将来人口に関して、国の総人口1億人死守という手足を縛られた条件下であったとはいえ、社人研推計をベースに主に中央のシンクタンクやコンサルの力を借りつつこれでもかというほど人口マシマシ盛りに盛った見通しを推計・公表した(地方人口ビジョン)わけで、やはりこちらも正直、公正に検証されるべきではないかと蛇足ながら申し添えておきたいと思います。