日本人のさんま離れ?さんまの日本人離れ?

(写真:アフロ)

日本人のさんま離れ?さんまの日本人離れ?

今年もさんまのシーズンがやってきます。さんまは落語「目黒のさんま」によらずとも、長らく下種魚(げすうお)と相場が決まっておりました。

しかし、近年、近隣諸国の乱獲等を原因として、さんまの水揚げ量が減少し、さんま価格の高騰が続いています。その結果、かつてのような庶民の食べ物との印象は薄れつつあります。

わたしたち日本人がさんま離れしているのか、はたまた、さんまが日本人離れしつつあるのか、本記事ではさんま消費の実態について、例のごとく、総務省統計局「家計調査」を使って調べてみました。

減少する世帯のさんま支出金額

一世帯当たりさんま支出額を図1により見ますと、1978年以降では1983年の2065円をピークとして、増減を繰り返しながら、2010年以降はそれ以前より明らかな低水準で推移し、多い時でも2014年の1263円とそれ以前の最低水準の1995年1372円を上回ることなく、2017年では880円と最低水準となっています。

図1(筆者作成(以下同じ))
図1(筆者作成(以下同じ))

図1の支出額は世帯当たりで見ていますので、世帯人員の減少がさんま支出額に影響している可能性も当然あり得ます。そこで、世帯人員減少の影響を調整したものが図2です。図2によれば、やはり1983年をピークに増減しつつ、2010年以降は低水準で推移し、やや回復した2014年にはそれ以前の最低水準を上回りはしているものの、2017年には最低水準となっていることが分かります。

図2
図2

しかし、さんまへの支出額は減ってても食べている量には変化がないか増えている場合もあるだろ!との罵声も聞こえてきそうですので、さんまの重さを1匹当たり150グラムとして一世帯当たり消費量と一人当たり消費量に換算したものを示したのが図3です。図3によれば、消費量に関しても支出額と同様の動きを示していて、2010年以降下方屈折しているように見え、足元の2017年では一世帯当たりでは6匹、一人当たりでは2匹と最低となっています。

図3
図3

以上から、支出面でも消費量の面でも、その水準において、日本人のさんま離れは2010年以降進行していることが分かります。

旬の消費が三分の二弱を占めている

では、さんまはいつ頃消費されているのでしょうか。月別のさんまへの支出額を見たものが図4、図5です。両図によれば、1年間を通して見たさんまへの支出額のうち三分の二弱がさんまの旬とされる8月・9月・10月の3か月間に集中しています。つまり、われわれはさんまの一番おいしい季節に一番多く食べていることになります。

図4
図4
図5
図5

さんまを食べている世代は?

さんまへの支出額と消費量を世代別に分解したのが図6です。これによれば、いずれの世代も2017年では10年前と比べて、さんまへの支出額も消費量も減らしていること、一世帯当たりでは60歳世代が、一人当たりでは70歳以上世代がさんまへの支出額や消費量が多いことが確認できます。

つまり、さんまを食べているのは高齢世代であると言えます。

図6
図6

消費ランキングベスト1は秋田県、ワースト1は福井県

今度は、都道府県別にランキングを見たものが図7です。図7からは、秋田県がベスト1、福井県がワースト1で、その格差は実に4.3倍に及ぶことが分かります。秋田県は県民魚ハタハタの他にさんまも好むんですね。逆に、焼き鯖寿司や鯖街道で有名な福井県は魚好きな県民だと思っていただけに意外でした。

図7
図7

マクロのさんま支出額は770億円

さんまの家計消費額を前提にマクロで見たさんま支出規模(付加価値ベース)を試算したのが図8で、それをGDP比で見たものが図9です。

図8
図8
図9
図9

図8によれば、マクロの支出額は名目額では2002年の1360億円、実質額では1992年の1450億円がピークであり、2017年ではそれぞれ770億円、640億円となっています。

なお、1980年以降の最低規模は名目では1980年720億円、実質では1982年570億円となっていて、2017年の方が水準が高いです。しかし、これは経済成長の結果現在の方が経済規模が大きいからである可能性を排除できないため、GDPに対する比率(1000分率、‰)で見た図9では、確かに、2017年は名目でも実質でも最低となっていることが確認できます。

さんま価格は水揚げ量に影響される

ところで、さんまを含めた財やサービスへの需要は価格に反応するというのが経済学の基本原則です。したがいまして、家計のさんま需要も価格次第の面もあります。つまり、さんまの価格が上昇すればさんま離れが進み、さんま価格が下落すればさんま回帰が進むと考えられるのです。

実際、さんま価格と一世帯当たりさんま支出額の関係を見ると、経済学の想定通り、さんま価格とさんま消費量は負の相関関係にあることが確認できます(図10)。

図10
図10

さて、総務省統計局「消費者物価指数」によって、さんま価格の推移を見たものが図11です。同図によれば、1970年以降では2015年の価格水準を100とした場合1982年が129ともっとも高い水準ですが、足元では2009年を底として上昇を続け2017年は120とその水準に近付きつつあります。つまり、最近はさんまは値上がりを続けているので、日本人のさんま離れが進んでいるとも考えられるのです。

図11
図11

では、こうしたさんまの値上がりの背景にはどのような要因が考えられるのでしょうか?

図12は、さんまの水揚げ量とさんま価格の推移を示したものです。この図によれば、水揚げ量とさんま価格は反対に動いていて、つまり、水揚げ量が多ければさんま価格は下落し、少なければ上昇していることが分かります、したがって、最近のさんまの値上がりはさんまの水揚げ量の減少が影響していると言えます。

図12
図12

価格への反応を強めつつあるさんま消費

さらに、経済学には需要の価格弾力性という概念が存在します。ある財・サービスの価格が1%変化すると、その需要量つまりは消費量が何%変化するかという指標です。需要の価格弾力性が1を上回るということは、価格1%の変化に対して需要量が1%以上変化することを意味し、その場合、消費者はその財・サービスの購入に際しては価格にとても敏感に反応することを表します。逆に、需要の価格弾力性が1を下回る場合には、価格1%の変化に対して需要量は1%より小さくしか変化しないわけですが、このときは、消費者はその財・サービスの価格変化には無頓着であることを表します。つまり、需要の価格弾力性が1より小さいほど、その財・サービスはその消費者にとってはなくてはならない必需品に相当することになります。

そこで、日本人のさんま需要と価格の感応度を1978年から2009年までと2010年から2017年までの2期間に分けて需要の価格弾力性を推計してみました。その結果、前者は0.93、後者は1.50と推計されました。

要すれば、2000年代初め頃までとそれ以降とで日本人のさんまの価格と需要に関する態度が変わってしまい、最近ほど、より価格に敏感に反応するようになった可能性が高いことを指摘できます。

結局、さんまの価格が上昇すれば価格の上昇率以上に需要量が減退してしまうのです。逆に言えば、今後さんま価格が反転すればそれ以上にさんま需要量が増加することになります。

つまり、やはり、今後、日本人のさんま離れが進むか、さんま回帰が進むかは、さんまの価格が握っていると言えそうです。

さんまの水揚げ量が減っているのは中国(爆食!)や台湾等の乱獲が原因とされていますが、下記の記事によりますとどうもそれだけとも言えず、ハッキリしないみたいです。

台湾・中国のせいだけではなかったサンマ不漁のワケ(2016年9月29日 読売新聞)

先に、日本人のさんま離れがこのまま進むか否かはさんまの価格次第だと申し上げましたが、さんまの消費量がさんまの価格に左右され、さんまの価格がさんまの水揚げ量に影響されるとすれば、中国・台湾等の乱獲であれその他の要因であれ、さんまの日本人離れが進むほどに日本人のさんま離れが進むという状況になります。

つまり、さんまの日本人離れを回避するにはさんま資源を大事にしてさんまの価格を低位安定に保つことが必須です。さんま資源を大事にするには・・・

ようやく結論が見えてきたようです。

まとめますと、日本人のさんま離れを防ぐには日本人のさんま離れを加速するしかない、との落語も真っ青なオチになるようです。