シェアリングエコノミーのGDP算入は内閣府による安倍政権への忖度なのか?

(ペイレスイメージズ/アフロ)

経済に合わせて変わるGDP算定ルール

国内総生産(GDP)は、国際連合が提示するSystem of National Accounts(通称SNA)という会計ルールにしたがって様々なデータを用いて推計することによって、日本国内では、内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部が『国民経済計算』として毎年度作成し公表しています。

SNAは1968年に最初に加盟国に提示されて以降、経済取引の実態の変化、国際的な経済のつながりの深化、特に金融取引の複雑化に応じて、改定が重ねられ、最新のSNAは2008年に作られています。要は、GDPが、各国経済の実態をより的確に反映できるよう各国が従うべき大もとのルールが変更されるのです。

したがって、SNAが変更されると、GDPに含まれる財・サービスの種類、あるいは推計概念等が変わるので、GDPをより実態に近づけるという目的から、(1)新しいルールに従うために(2008SNAへの変更は日本では2016年に16年ぶりに実施)あるいは(2)基幹的統計(国勢調査や産業連関表)の改定による5年毎の改定(基準改定)により、内閣府では新しい国民経済計算(したがってGDP)を公表することになります。

さらに、内閣府では、日々、実体経済を反映するよりよい統計を新たに採用したり(もしくはうまく実体経済を反映しなくなった統計を使用しなくなったり)、推計するための統計学手法や推計式のスペックを変えたりも行っています。

このとき年々スピードを増す技術革新に合わせて経済は進化していますので、多くの場合、GDPは足元ほど大きく再推計されることになります。このため、しばしば、GDPの改定後(SNA変更、基準改定)に、時の政権が経済の不調を隠し好調であるかの如く偽装するためにGDPの過大推計を行ったのだとの陰謀論が惹起されています。

特に、今回は、安倍政権下で、SNAの変更と基準改定が一緒に行われ、GDPが上方改定されてしまったため(年によっては下方改定)、反安倍政権、反アベノミクスの方々を痛く刺激してしまったようです・・・。閑話休題。

しかし、国連によるSNAの改定を受けて、国内のSNAを改定する際や基準改定を行う際には、当然ながら、専門家を交えた審議会を開催し、その資料や議事録はすべてインターネット上でも公開されていますので(そのためアベノミクスの失敗をごまかすために忖度して行なう余地は限りなく小さくなります)、陰謀論を信奉する方々は一度すべての資料に目を通していただくことをお勧めします(同時に、いかに担当者が真剣に日本のGDPを実態に近づけるために努力しているかがお分かりいただけると思います)。

つまり、国連も内閣府も、GDPをより的確に実態を反映するよう日々努力を重ねており、その結果がSNAの改定であり、GDPの改定であるということです。

シェアリングエコノミーの算入

近年、民泊やカーシェア、中古品の売買(メルカリ等)、個人間取引(minne等)といったシェアリングエコノミーが急拡大を続けています。しかし、こうした点は当然ながら2008年に改定されたSNAでは十分に考慮されていません。

そうだとすれば、GDPをより実態に近づけたい内閣府としては、当然、シェアリングエコノミーをなんとかうまく推計し、GDPに算入したいと思っても不思議ではありませんし、そもそも世界に先駆けていち早くシェアリングエコノミーをGDPに算入できれば、SNAの改定作業に向けた国際的な議論の場において、イニシアティブをとることができます。そもそも、日本はこれまで国際的なSNAの改定作業においてリーダシップを発揮し得たことがありません(SNAの専門家が不足しているからです)。

実際、内閣府によるシェアリングエコノミーの推計作業は進んでいるようです。

「シェアリング・エコノミー等新分野の経済活動の計測に関する調査研究」報告書概要(2018年7月、内閣府)

シェアエコ、20年度にもGDP算入検討 民泊など対象(2018年8月16日 朝日新聞)

そもそも、GDPとは、国内で新たに生産され市場で取引された財・サービスの付加価値の総額のことであり、調査統計や業務統計などの1次統計から把握し推計する2次統計(加工統計)です。

最近存在感を増しているシェアリングエコノミーは、こうしたGDPの推計ルールや手法に従えば、(1)中古のモノの売買ということで弾かれ、(2)1次統計が未整備という点で把握が難しいことになります。

その意味では現状のGDPはその分だけ過少推計となっています。

したがって、シェアリングエコノミーを推計し、GDPに含めるのは、SNAを所管する役所としては適切な努力であって、水増しとの批判は当たらないでしょう。さらに、先にも言いましたように、SNAに影響を与えるのは早い者勝ちなところもありますので、世界に先駆けてルーチン化しておくことが何よりも大事なのです。これが、なぜ今(有体に言えば、アベノミクスのほころびが目立ち始めたこの時期に!)シェアリングエコノミーを推計するのか?という疑問へのお答えということにもなるのではないでしょうか。

シェアリングエコノミーの規模は小さい

しかも、内閣府の推計ではシェアリングエコノミーの規模は、大きく見積もっても、市場規模で5250億円、付加価値換算では1350億円に過ぎず、2017年度の名目GDP規模548.7兆円に比べても、GDP比で0.02%と微々たるものに過ぎません。

もちろん、内閣府は、批判は批判として正面から受け止め、シェアリングエコノミーの推計に関して透明性をもって行い適宜適切に情報公開を行うなどして、水増し疑惑という懸念を払拭していく必要もあると思います。

蛇足ですが、GDPを水増ししたければ、市場で取引されていないためGDP算定のルールからはGDPから弾かれ算入されていない、家事労働(約88兆6千億円)、買い物(約27兆2千億円)、育児(約14兆8千億円)、介護(約3兆4千億円)、社会活動(ボランティア)(約4兆5千億円)のいずれかもしくはすべてをこっそりGDPに算入した方がよっぽど効果的だと思います。

無償労働関係(内閣府)