プレミアムフライデーに見るニッポンの分断

(ペイレスイメージズ/アフロ)

はじめに

今月24日から、毎月最終金曜日に、15時までには仕事を切り上げて、消費や余暇活動の充実に充てるプレミアムフライデーが始まります。昨年12月に設立された経団連等15の経済団体と経済産業省による官民連携の「プレミアムフライデー推進協議会」が検討してきたものです。

【消費喚起策】

今週末から米国で始まるブラックフライデーは、ナショナルキャンペーンとして大きな成果をあげている。経団連としては、生活サービス委員会で具体的な消費喚起策の検討を進めてきたが、2月の最終金曜日よりプレミアムフライデーと称するキャンペーンを開始したいと考えている。毎月最終金曜日をプレミアムフライデーとして、全国的な消費拡大を目指していく。消費者の将来不安や保守的・防衛的な消費行動を転換し、明るい雰囲気を作り出すような運動を展開していきたい。会員企業にも、月末の金曜日は遅くとも午後3時ぐらいには退社して、社員が映画鑑賞や外食、泊りがけの旅行など特別な時間を過ごしてもらえるよう呼びかけていく。国も巻き込みながら、プレミアムフライデーを消費拡大につながるような大きな行事にしていきたい。

出典:記者会見における榊原会長発言要旨(2016年11月22日 一般社団法人 日本経済団体連合会)

政府もプレミアムフライデーを全力で後押しするそうです。

プレミアムフライデー 首相 個人消費喚起に取り組む(NHK 2017年2月15日)

ただし、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社のインターネット上のアンケート調査によりますと、「勤務先でプレミアムフライデーを実施するかどうかを聞いたところ、「導入をする」と回答をした人は 3.4%、「導入しない」と回答をした人は 68.2%」と、この調査から判断する限り、プレミアムフライデーの恩恵を受けられる人々はごくごく少数であることが分かります。

働き方に関するアンケート調査(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 2017年2月15日)

官製花金

要は、プレミアムフライデーというのは、金曜日は半ドンで、都心(中心地)にくり出してパーッとおカネを使ったり、土日とくっつけて旅行に行って、地方におカネを落としましょうっていうイベントですね。バブルの頃には花金(花の金曜日)という流行語(もちろん今は死語)がありましたが、プレミアムフライデーは官製花金であると言えるでしょう。

この官製花金ならぬプレミアムフライデーの基本発想は、国民は十分おカネを持っているにもかかわらず、拘束時間(労働時間)が長すぎておカネを使う時間的な余裕がないから、余暇時間を多く与えることでおカネを使ってもらおう、というものだと斟酌できます。

なぜなら、先のNHKニュースの中にも「(経済財政諮問会議の民間議員は)賃金・所得の伸びに比べて回復のテンポが伸び悩んでいる消費の活性化が喫緊の課題だ」と指摘しました」とありますので、この発言を深読みしますと、国民はもう十分もらってるのだからあとは使うだけのはず、それなのに使わないのは使う暇がないからに違いない!という認識が根底にあると理解できるからです。

しかし、こうした認識に全くその通りだと納得できる人は、よほどの大企業や一部の官公庁勤務の人に限られるのではないでしょうか。大多数の人々は、そもそもおカネを使いたくてもおカネそのものが手元にない!と思われるのではないでしょうか。

2つの分断

分断1

私は、こうした自分にはおカネがあるから他の人もおカネを持っているはずだと決めてかかる点に、政策決定者(やそのアドバイザー)と一般国民の間の大きな断絶を感じます。そもそも政策決定者は国民の生活状況を理解できているのでしょうか。自分の半径30cmの世界が世界のすべてと思い込んではいないでしょうか。これは経団連の会員企業の勤労者や経営トップにも言えるかもしれません。

分断2

次に、プレミアムフライデーを楽しめる大企業の労働者や官公庁の一部職員が、金曜日の午後に仕事から解放されて余暇活動を楽しむには、余暇活動を支える誰かが必要になります。そしてその誰かの多くがサービス業従事者でしょうし、彼ら彼女らの多くは、大企業や官公庁勤務の方々よりも低賃金です。要は、裕福な特権階層(=大企業・官公庁勤務)を支えるために貧しい労働者階層が働かされる構図です。ここにもう一つの分断が見出せます。

結局、プレミアムフライデーという施策を題材に考えますと、実は、政策決定者、大企業や官公庁勤務者とそれ以外の国民との間に分断があると言えるのではないかと思います。

問題点

分断という深刻な課題にまで飛躍しなくても、消費喚起策としてのプレミアムフライデーにはいくつかの問題点があると思いますが、そのうち主要な論点を2点ほど挙げてみます。

1.トータルで見た消費総額

まず、トータルで見た消費総額ですが、どういうことかと言いますと、もし仮にプレミアムフライデーにより毎月最終金曜日の消費額が増えるとして、他の日の消費額を調整つまりは減らすことで対応するのであれば、結局、トータルで見た消費総額は増えないことになり、消費喚起策としての意味はまったくないということです。あと、ややテクニカルですが、他の事情が一定であれば、ワンショットで家計調査等の統計の前年同期比は上振れするでしょう(これは政権にとっては好都合ですが、昨年はうるう年...)。前月比については、季節調整のかけ方にもよるので確たることは申し上げられませんが、季調のかけ方によっては上昇することになるでしょう。つまり、景気の見映えが外見上よくなります。

もちろん、そもそも、プレミアムフライデーの(労働時間削減の)恩恵を受けられない労働者やその多くがフルタイムで働いていない高齢者には全く無縁な話です。

2.トータルで見た労働時間

次に、トータルで見た労働時間ですが、プレミアムフライデーは、消費喚起策の他、働き方改革の意義付けもなされています。プレミアムフライデーはそうだとすると毎月最終金曜日だけとはいえ半ドンになるわけですから、他の事情が一定である限りにおいて、労働時間は減少します。したがって、仕事を早めに終わらせるために工夫もするのでしょうし、働き方改革になるでしょう。

しかし、もし他の事情が一定でなければ、つまり他の日に労働時間を調整つまり増加させるのであれば、結局、トータルで見た労働時間に変化はありませんし、働き方改革の目的は達せられません

しかも、プレミアムフライデーを支えさせられる側は、場合によっては労働強化となり、逆効果となるかもしれないことには留意が必要です。もし、増えた労働時間に見合う所得が得られたとしても、プレミアムフライデーの推進側の理屈に従えば、彼ら彼女らはそのおカネを使う暇がない!なんという皮肉でしょう。もしかすると、プレミアムフライデー推進の当事者たちに眼中には彼ら彼女らのような自分の属する階層と異なる人々はないのかもしれません!

おわりに

経済学的には、家計は、現在や将来の所得の見通しに基づいて、現在から将来までの大まかなおカネの使い方を決定すると考えられています。もちろん、所得が低すぎておカネが入ればすぐに入っただけ使わざるを得ないという家計も存在するでしょう。しかし、日本の多くの家計はそれほどまでには流動性制約が厳しくないとは考えられていますが、時間さえ与えられればおカネを余分に使える家計もそうは多くないはずです。

結局、家計が合理的な水準だと考えて実際に消費している以上に消費を増やしたいのであれば、プレミアムフライデーのような小手先の策に頼るのではなく、今後所得が確実にそして永久的に増えるんだと見通しを持たせることが大事であって、それは継続的な賃上げ以外ありえません(小手先の策と言えば、少子化対策に関しても、ワークライフバランスとかイクメンとか、重要な課題ではありますが、やはり王道は所得水準の底上げと安定した職の供給ではないでしょうか?)。

アベノミクス以降の円安で、輸出製造企業等一部の勤労者を除く国民を犠牲にして得た所得増を享受する人々には無縁な世界なのかもしれませんが、大企業や官公庁に属するエリート層は自分たちの半径30cmより外に広がる世界にも目を向けないと、日本も欧州やアメリカのような本格的な分断が生じるかもしれません。

イギリスのEU離脱の原動力となったのはleft behindされた人々、アメリカでトランプ大統領を生み出したのはforgotten peopleだったわけですが、日本でも断絶が欧米並みに進行していけば、欧米並みのポピュリズムの嵐が吹き荒び、エスタブリッシュメントたちとそうでない人々の間の断絶は埋めがたく、国論が二分されるようになるかもしれません。果たして、その時の反エスタブリッシュメント運動の原動力となるのはどのような人々なのでしょうか?