参議院の存在意義って?

一票の格差是正

先日の最高裁の判断を契機に、一票の格差問題がまた息を吹き返したようであります。多くは、一票の格差けしからん!はやくなんとかしろ!という意見でありまして、こと衆院に限る場合には、私も全く同感であります。

しかし、参議院でも一票の格差を是正しろ!と言われると、ちょっと待って、それは違うでしょう、と言いたくなるのであります。

その理由をこれから述べたいと思います。

投票価値の平等は一院制に通ず

先日の逆説的な記事一票の格差是正なら参議院は廃止すべきでも触れました通り、投票価値の平等を厳密に突き詰めて追求していきますと、当然、衆参ともに、全国を一つの比例区とした選挙制度に収斂せざるを得ないわけでして、そうなりますと、二院制を維持する理由が雲散霧消してしまいます。なぜなら、昨日の記事にも書きました通り、「代表原理」と「その代表原理に整合的な選挙制度」の双方が同一であるのに、なぜか別々の異なる組織を維持するのは無駄以外の何物でもなく、某議員さんに仕分けられてしまうのがオチでしょう。つまり、かなり高い確率で参議院が廃止されてしまうことになります。

一院制が語られる場合、意思決定の早さ(とコスト削減)が賞賛される由ですが、敢えてデメリットをここでは指摘したいと思っています。それは、多様な価値観が反映されなくなるというものです。もっとも、現状の参議院は「良識の府」とその昔呼ばれていたのが霞んでしまうほど、ある時は衆院のカーボンコピーに過ぎず、またある時は単なる抵抗勢力に過ぎないという有り様です。これでは廃止論が出てきてもなかなか時流に抗するのが難しいといえるでしょう。

一院になるとどうなるか。確かに法案処理速度は上がるでしょう。しかし、所詮は多数決制民主主義ですので、少数意見は多くの場合切り捨てられてしまいます。

例えば、シルバー民主主義の結果としての世代間不平等問題を考える上で避けては通れない社会保障を取り上げて考えてみましょう。社会保障の給付に関して、高齢者は、例えば内閣府が行った『高齢者の経済生活に関する意識調査』結果を見ますと、「負担を軽くすべきでそのためには給付水準の切り下げもやむなし」が8.9%と、多くが現状程度の給付水準を維持する方向で負担を考えていることが分かります(ちなみに、「給付水準を維持すべきで、負担が重くなってもやむを得ない」という鬼のような回答が34.3%ともっとも多くの支持を得たのはここだけの内緒にしておきたいと思います)。

まぁ、実際、給付の水準がマクロなのかミクロなのかで話は変わってくるのですが、後者である場合、一人あたりの給付水準を横ばいにしたとしても高齢化で高齢者の数は増えるため総額では増加してしまうのですから、こちらは少子化で少なくなる若者世代にとっては一人あたりの負担水準は増すことになってしまいます。

これに対して若者世代が「おいおい、これじゃあ、全然負担が抑制されないじゃん。選挙で現状を変えてやる」と意気込んだところで、所詮多勢に無勢で、現状は全く変わらないわけです。とどのつまりは、若者たちは、高齢者向けの給付を維持するための負担増に喘いで、社会保障の存立基盤であるはずの勤労世代の生活を危うくし、少子化が一層進んでしまう結果が容易に想像できます。小塩隆士一橋大教授が指摘されるような「社会保障の自己破壊性」が遺憾なく、しかも政治過程を経て増幅される形で発揮される次第であります。

しかし、この時、異なる観点から法案を処理する別の院が存在するとしたらどうでしょうか。制度設計をどうするかに依存しますが、高齢者側の都合ばかりでなく若者の都合も考える法案にするようにと、自ら必要な修正を施す権限を与えることもできるでしょうし、元の院に審議をやり直させる権限を与えることもできるでしょう。

衆参両院に所属する議員の先生方がそれぞれで異なる観点から法案を審議するためには、やはりそれぞれの院で異なる「代表原理(誰を代表するのか)」と「その代表を選ぶに適した投票原理」を考えるべきだと思います。

私の考えでは、まず、代表原理に関しては、衆議院は全国民の代表、参議院では世代代表から構成されるものとして、投票原理に関しては、衆議院では一票の格差が生じないような投票システム、参議院では逆に一票の格差を意図的に生み出す投票システムを採用すればよいと考えます。

まとめ

人口構成の変化がもたらす多数決制民主主義のもたらす弊害は、先日指摘しましたシルバー民主主義(政治側の過度な配慮も含んだ)にとどまりません。一票の格差が是正されれば、地方の利益の代弁者は減少するので、地方と都市の格差は拡大していくでしょう。

要すれば、若者のみならず地方であろうと性的マイノリティだろうとポケモンオタクだろうと構わないのですが、そうした少数派の利益保護の観点から、衆議院を通過してくる法案を衆院とは異なる観点から審査する参議院が必要でしょうということです。

付言すれば、国民の価値観がこれだけ多様化する社会にあってわざわざ一院化するメリットが感じられないというのが私の結論です。

つまりは、これから減り続けるとはいえ、1億人以上の人口を有する国にあって、多様な価値観が政治権力によって踏みにじられないようにするには、これまでの常識を超えたやり方でわれわれの政治代表を選ばなくてはならないですね、ということです。