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なぜ「詐欺求人」は「野放し」なのか?

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
せっかく履歴書を書いても騙される。。。(写真:アフロ)

1 「詐欺求人」問題とは

ハローワークの求人、民間の求人サイトなどの求人を問わず、「詐欺求人」の被害が大きくメディアで取り上げられています。

「詐欺求人」とは、求人票(募集要項)が実際の労働条件と異なる(または、重要な契約内容が十分説明されていない)という問題です。

例えば、こういったケースです。

1 「正社員」の求人票に惹かれて募集したのに、入社後に「半年間はアルバイト」と言われ、半年後に解雇された。

2 「正社員」の求人票だったのに、働き始めるときに「業務委託」だと言われて、社会保険にも加入できない

3 募集要項には「残業は少ない会社です」と書いてあったのに、働き始めたら月100時間を超える長時間の残業があった

4 求人サイトの募集要項では「交通費支給有り」と書いてあったのに、交通費が支払われない

5 求人票では基本給が27万円だったのに、最初の給料日にもらえた基本給は25万円だった

6 求人票では「給与25万円」しか記載がなかったが、実際には20万基本給・5万円固定残業代で、長時間残業しても残業代が支払われなかった

2 被害の深刻さ

このような被害は、いずれも深刻です。

正社員になる期待を奪われる(1、2)といった被害は分かりやすいでしょう。

約束とは違う長時間残業を強いられるのも生活設計が大きく変化してしまい(3)大きな被害を受けます。特に、固定残業代を悪用して長時間労働を強いられる被害(6)は、近時の相談には多いケースです。

一見すると軽微な被害と思われがちな、交通費支給(4)2万円程度の給与の差異(5)であっても、被害を回復する手段が乏しい、当事者は受け入れるか、辞めるかという選択肢しか採りづらい現状では、無視できません。

もし皆さんが、新卒入社でこんな被害に遭ったら、簡単に退職を決断できるでしょうか?

新卒採用後に短期間で離職したら、「根性無し」と思われて、次の就職にも影響がでないか考えてしまう方も多いです。

そうすると、深刻な被害に遭っていても(騙された労働条件には納得がいかなくても)、簡単には辞められないというケースも多いのです。

こういった、被害者の心理を考えた上で行われているのが「求人詐欺」であり、被害が顕在化しづらく、悪質なのです。

もちろん、直ぐに退職を決意して、次の会社を探すという選択肢を選ぶ方もいます。

でも、その場合には、「詐欺求人」によって他の就労先を選ぶ機会を奪われており、大きな不利益を被ります(特に新卒採用の場合)。

そして、そういった被害者は、被害回復(少しでも良い就職先を探す)を優先するため、騙した会社に対する責任追及を考える方は殆どいません。

3 潜在化し易い被害実態

こういった形で、被害が潜在化しているのが、この求人詐欺問題の特徴でした。

実際に弁護士が扱う事件としても、これまでは、この「詐欺求人」問題だけを取り上げる裁判というのは、本当に数が少ないのです。

例えば、実際に裁判になった「詐欺求人」問題のはグリーンディスプレイ事件。この事件では、「詐欺求人」により長時間労働を強いられた当事者の方が事故で亡くなられるという痛ましい結果が生じ、刑事告訴や民事訴訟が提起されています。

ハローワーク「求人票を信じた息子は戻ってこない」遺族が「虚偽記載」で勤務先を告訴 弁護士ドットコム 1月23日(土)14時6分配信

ですが、もしこの事件で被害者がご存命であれば、今でもこの会社の「詐欺求人」の問題は、公にならなかった可能性が高いです。通勤労災事故による死亡という痛ましい結果が出たからこそ、事件化したに過ぎないのです。

こういった潜在化し易い被害実態が、騙した詐欺求人会社の逃げ得を生む原因でもありました。

4 拡大する被害

このような「詐欺求人」の被害の件数が、近時は増大しています。

厚生労働省が調査した、ハローワーク求人票の記載内容と実際の労働条件の相違について、求職者からハローワーク等に苦情等がなされた件数は、以下のとおりです。

平成24年度      7,783件

平成25年度      9,380件

平成26年度     12,252件

本来あまり表に出てこない(顕在化し難い)この「詐欺求人」の問題が、しかも民間の就職支援サイトなどは一切含まずハローワークの求人だけでも、年間1万件を超える苦情が寄せられているのです。

それだけ、この「詐欺求人」の被害が激増しているといえるでしょう。

5 実は社会全体が被る被害

既にみた通り、多くの被害者は、騙されたと気がついても、直ぐ退職するか、我慢して働き続ける、のいずれかを選択するのが通例でした。

敢えて弁護士などに相談し、法的解決を試みるケースは殆ど存在しなかったのです(=野放し)。

結果として生じる被害は、何も個別の当事者だけでは済みません。

そのため、「詐欺求人」を行う悪質な企業が野放し状態となることで、就職市場での不公正な競争(=悪い労働条件を隠して募集する企業が得をして、正しい情報を提供した企業が損をする)が放置されるという状態が生まれています。

これでは、まともな会社(正直に求人情報を出す会社)が不利益を被り、詐欺求人を出す会社が利益を受けます。

結果として、特に人手不足で悩む業界では、詐欺求人を出す会社が生き残り、まともな会社が淘汰されてしまいかねません。

こういった状況を放置すると、ますます詐欺求人が増える(まともな会社も生き残るため詐欺求人に手を出す)という悪循環が生まれるのです。

6 「詐欺求人」に解決策はあるのか?

「詐欺求人」には、2つの解決策があると思います。

一つは、法的規制の強化です。

現在の法律(職業安定法、労働基準法)では、この詐欺求人をきちんと取り締まることができません。

これが、詐欺求人を生んだ要因でもあり、しっかりとした法規制の強化が重要です。

現在、法改正に向けた動きが進んでいるので、実効性のある早期の法改正を期待したいところです。

少し専門的になってしまいますが、例えばこんな新たな法規制が望ましいと考えています。

◇労働契約時に明示した労働条件よりも就労時の条件が低下している場合には、指導・監督できるような規定の整備

例)「明示した労働条件は、実際に就労開始した後の労働条件を下回るものであってはならない。」

◇職安法65条が定める罰則規定は「虚偽」であることを用件としており適用が困難であるから要件緩和

◇労働基準監督官が、募集段階の詐欺行為についても、一体的に監督できる規定の創設

*労基法15条の明示時期として、「募集段階」も含まれることを規定する

◇「詐欺求人」を出した企業の締め出し

*青少年雇用促進法で新たに規定されたハローワーク求人拒否制度の対象を拡充

こういった法的規制に加えて、もう一つ、必ずしも法的規制を加えずにできる対策もあります。

それは、詐欺求人をする使用者の労働市場からの排除

求職者自身が、詐欺求人を見抜き応募しない状態を作れれば、メリットの無くなった詐欺求人を自然淘汰できます。

現状のママでは、自然淘汰はされません。

ですが、ある程度の環境整備と社会への啓発で、自然淘汰を誘発する効果を挙げることも可能です。

たとえば、求人票の書式に、求人を出す事業所が任意に記載できる、以下の事項に関するチェック欄を設けること(「モデル求人票」とする)。

例)「この求人票に基づいて労働者を採用する際、当該労働者に対して、最低でもこの求人票に記載された労働条件が労働契約の内容とすることを約束します。」

この様な「モデル求人票」であれば、実際に詐欺求人被害に遭っても、会社に低下した労働条件を主張することが極めて容易になります。

そのため、求人詐欺をしている会社の多くは、この「モデル求人票」のチェック欄には、記入しないでしょう。

求人者は、チェックのない求人票には応募しないと自己防衛策をとることで、「詐欺求人」の被害から身を守れるのです。

人が集まらなければ詐欺求人をするメリットも無くなるので、世の中全体から、詐欺求人が減っていくでしょう。

まずは実施が容易なハローワークで実施し、民間の求人サイトなどへも、普及させていけば、大きな成果があげるはずです。

そのためには、同時に、正しい求人情報の見方を啓発していくことも必要です。

7 直ぐできる対策は?

少し回り道かもしれませんが、現状で直ぐにできる対策もあります。

それは、被害を受けた皆さんが、少しずつ声を挙げることです。

現状は、詐欺求人を出した会社は、騙した者勝ち状態です。

声を挙げる被害者が増えていけば、そしてその声が集積されて「悪評」となっていければ、簡単に「詐欺求人」は出せない社会が作られていき、やはり自然淘汰により「詐欺求人」を無くしていくこともできるのです。

一見遠回りですが、あらゆる社会問題を解決してきた最大の力は、被害者の声なのです。

8 詐欺求人相談ホットライン!!

このように、直ぐにでも詐欺求人を無くすため、声を挙げたいという皆さんのご相談に乗りたいという思いから、日本労働弁護団・ブラック企業被害対策弁護団では、「約束と違うぞ!詐欺求人相談ホットライン」を全国で開催します【一部地域では、開催日時が異なります】。

これは、弁護士による、初の「詐欺求人」をメインテーマにした全国一斉の無料電話相談会です。

東京(本部) 2月25日 15時~21時  03-3251-5363  03-3251-5364

(他地域は以下を参照)

全国各地で、ご相談にのります。 ⇒全国の相談先一覧

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弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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