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過労死をなくすためすべきこと~「過労死促進法」を葬り去り、過労死防止対策を!~

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
11月1日開催された「過労死防止を考える神奈川のつどい」の様子

過労死等防止対策推進法の施行

本日(2014年11月1日)、過労死等防止対策推進法が施行されました。

この法律は過労死等の防止対策として、過労死等の実態の調査研究、啓発、相談体制の整備等、民間団体の活動支援を規定し、国に対策を進めるための大綱づくりを義務付けています。

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この法律は、今年の6月20日、衆議院・参議院とも全会一致で成立しました。要するに、自民党公明党という与党も含め、全ての国会議員が一致して成立させた法律なのです。

他方で、政府は、「過労死推進法」と評される法律制定を目指して邁進しています。

一方で、過労死をなくすための法律(「過労死等防止対策推進法」)を作りながら、他方で過労死を促進する法律を作ろうとしているのです。

まぁ、小学生でも理解できるほど明確に矛盾した法律制定を目指している訳です。

==なぜ新しい労働時間制度が「過労死促進法」なのか

今年6月、政府が「日本再興戦略」改訂2014で提言しているのは、「時間ではなく成果で評価される制度」への労働時間制度の改革です。具体的には、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有し一定の年収要件を満たす労働者を対象に、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した新たな労働時間制度です。

なぜこの制度を「過労死促進法」と言えるのか。

それは、長時間労働抑止の歯止めになっている残業代支払い義務を免除するものだからです。

そもそも残業代支払義務は、長時間労働を抑止するためです。使用者が残業代(割増賃金まで!)支払うのを避けるため、労働時間を削減しようと真剣に取りくませて、長時間労働を抑制しようと、残業代支払いをを義務づける規制が存在するのです。

この規制がなくなれば、残業代という規制から会社は解き放たれます。いくら労働者を働かせても残業代を払わなくてもよくなった会社が、さらに労働者を長時間働かせるのは明らかです。長時間労働が増えるのは、至極当然のことなのです。

日本の現状は?

実際に、日本の労働者の労働時間は減らず、過労死も減っていません。脳心臓疾患の労災認定件数は高止まり(約300件)、多くは長時間労働を原因とする精神障害の労災認定件数は、ここ数年で急激な増加傾向にあります(平成15年108件→平成25年436件)。

その最大の原因は、残業代支払い義務に代表される、現在ある労働時間規制すら十分に守られていないからです。

名ばかり管理職・固定残業代制度(私も以前記事に書きました「固定残業代は、ブラック企業が良く似合う?」)・裁量労働、いろいろな制度が悪用されて(正しい制度ではなく)残業代不払いが、社会に蔓延しています。

その社会に蔓延した残業代不払い(=違法)を合法化するのが、この新しい労働時間制度なのです。

本来はどうするべき?

普通は、こう考えるのではないでしょうか?

◆きちんと法律を守るように取り締まる

◆規制を強化する

法律が守られず、命を落とす方までいる。だったら、法律を守るように取り締まりを強化して、法律の規制を強化する。これが、自然な発想でしょう。

法律など作らなくてもできることは、取締まり強化。そこら中に、残業代不払いの会社は蔓延しています。

今すぐ、こういった残業代不払いを厳格に取り締まれば、労働時間は削減できますし、過労死をなくすため大いに役立つはずです。

規制強化の制度も、やるべき規制は色々とと考えられます。

たとえば、世界的にも低い割増賃金率(25パーセント~)を、諸外国並みに引き上げる、労働時間の月・年単位で上限の規制をする(現在は上限の規制がありません)、労働時間のインターバル規制をする(勤務間の一定のインターバルを強制する)、使用者による労働時間の把握する法律上の義務を定めること、などなど。

本当に過労死等を防ごうとするのであれば、きちんとこのような規制強化の制度をつくるべきなのです。

でも、安倍政権がやろうとしているのは、真逆の「規制緩和」。全くの意味不明な対応です。

たしかに、新しい制度によって、残業代不払いは「違法」ではなくなります。でも、それでは、労働時間は削減されません。これまで、「コソコソと」長時間労働をさせていた会社が、「正々堂々」労働者を長時間労働させることができてしまい、さらに労働時間を増やすだけ

政府の説明は本音を隠した欺瞞

政府は、この過労死促進法制定の理由を、「時間ではなく成果で評価される制度」を作るなどと説明します。

ですが、「時間ではなく成果で評価される制度」は、今でも認めれています(成果主義賃金は、そこら中の会社で採用されています。)。なぜ残業代ゼロは「成果で評価される制度」を実現するためというのは、真っ赤な嘘です。

詳しくは、私が以前書いた記事をご参照

では、政府の本音は何か?

それは、残業代ゼロにして、企業が儲けやすくすること。安倍政権は、企業の経済活動の利益(=残業代を払わず、労働者を長時間働かせることができる利益)のため、労働者の命や健康を犠牲にしようとしているのです。

皆さん、だまされてはいけません。

そして、本当に過労死等防止推進法に魂を吹き込むよう、本当の過労死防止対策の取り組みを進めなければなりません。多くの方の血のにじむような努力の結晶で出来たこの法律。きちんと、身のあるものにしなければなりません。

そのための第一歩。まずは政府が進めようとしている「過労死促進法」、新しい労働時間制度を、葬り去りましょう。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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